#03-06 The beginning of a storm starts with a storm.
縁は最寄り駅ではなく、新幹線が止まる一駅向こうの駅まで送ってくれた。
確実に遅刻する気がする。こんなことをしているから有給がとれないのではないだろうか。
「じゃあ、フェリシア。親父さんによろしく」
「向こうについたら連絡しますね。綴さんもまた」
「え、あ、はい!」
一礼すると空港方面へと向かう電車のホームへと上がっていった。
「結局、フェリシアさんとお兄ちゃんって、どう知り合って結婚までいったの?」
「そうだな、まあ、いろいろあるんだよ」
「おじいちゃんちにつくまでに絶対聞き出して見せるからね」
現代日本における新幹線という奴は、さらに電力消費を抑えるため、マナを動力へと変換して走る超クリーン仕様になっている。
最高速度については本気を出せば東京ー鹿児島中央間が一時間などといっていた気がする。
「……お兄ちゃん、なんでグリーン車?」
「しかたないだろ、指定の空きがなかったんだから」
「え、でもそうなるとお母さんから預かったお金じゃ全然たりないよ?」
「まあ、そこはオレが持つから気にするな」
「……お兄ちゃん、いったいなんのバイトしてるの?」
妹からの疑いの眼差し(本日二回目)。
「まあ、いいだろ。母さんからもらった分はそのまま小遣いにでもしとけよ」
「いいの!?」
途端に眼を輝かせる綴。
我が妹ながらチョロイ。
「とりあえず博多まで一時間だっけ?」
「寝ないでね、退屈になるから」
「えー…………?」
席に座ったところで通路を通りすぎて行った男が気になり、目で追う。
「?、どうしたの?」
「なんでもない、無事につくといいなー……ははは」
「なんで突然そんな不安になること言うの!?」
そのまま話続ける綴にたまに相槌をうちながら、何事もなく列車は進む。
広島を通過した頃までは。
『お客様にお知らせします。現時点を持ちまして、この列車は博多には停まりません!』
そんなふざけた放送と共に、前後の扉が開き、武装した男たちが車両内に雪崩れ込んでくる。
乗客たちに動揺が広がる。
「てめーら命は、国が10億払うまで俺たちが預かる!」
天井に向けて銃を撃つ。
通路側に座っていた詠だが、この程度の事件に遭遇するのははじめてはないため、とくに恐れる様子もなく、平然としている。
一人ならば、すぐにでも動くのだが、現在、気丈な表情をしつつも少し震えて左腕にしがみついている綴がいる。
「走ってる電車の中だ、助けがくると思うな!」
「それはどうかな!」
「何?」
詠の2つ後ろに座っていた男たちが突如立ち上がった。
「オレは佐渡。博多支部所属の1級魔導師だ!」
「それがどうした。すっこんでろ雑魚」
残念ながらこれに関しては犯人サイドの対応が正しい。
現在、魔導犯罪という確証がないため、日本の魔導師資格では一切の戦闘行為が許可されていない状態だ。
「佐渡センパイ。オレら戦闘行為の許可ないですよ?」
「大丈夫だ、なんとかする」
大丈夫じゃねぇよ、と心のなかで突っ込みを入れながらふと窓のそとを見る。
WUJの紋章の入った高速ヘリが追い抜いていくのが一瞬見えた。
「なるほど……カルマ」
『なに?』
「近くに知り合いの気配あるか?」
『真上に更紗がいるわ』
「最高のタイミングだぜ……できればしばらく会いたくなかった」
「……お兄ちゃんなに独り言いってるの?声だすと睨まれるよ?」
綴が耳元で囁く。
先程の魔導師たちはすでにボコボコにされて床で延びている。
まったく役に立たない。
『繋ぐ?』
「繋いでくれ」
『はーい。念話』
『更紗、何をしてほしい?』
『!……天井抜いて、飛び降りるから受け止めてほしいかも』
『了解』
「カルマ、影の槍」
『任せて』
ほとんどノーウェイトで漆黒の槍が出現し天井をぶち抜く。
ひと一人余裕で通れるほどの大穴からは空が見える。
このタイプの車輌では頻繁に電力を補給する必要がないため高圧電線などの心配はほぼない。
「だれだ!?今、撃った野郎は!?死にたいのか!?」
慌てた男の一人が端末を手に、起動準備を始める。
「現行犯逮捕だな」
「……お兄ちゃん!?」
大穴の真上にはヘリが。
そして、そこから黒髪の少女が空に身を投じるのが見えた。
「カルマ、重力操作、磁力操作、防風」
『最後のは無理。私の領分じゃない』
穴の下に体を滑り込ませ、降ってくる更紗を受け止める。
「ナイスキャッチ」
「頼んだぞ」
「ターゲットゲイン。ターゲット3、アイススパイク」
《Magic : Starting》
《The attack to two or more targets is possible》
《The target was set as 3》
《Magic : Starting》
男たちが、吹き飛ばされ、壁に氷付けになる。
「詠」
「ん?」
更紗が顔を近づけてくる。
一瞬、キスされるのかと思ったが、そんな甘い夢を打ち砕く頭突きをもらった。
「あとで話あるから逃げないように」
「イエス、マム……」
更紗は後方へと向かう扉を氷付けにしたのち、前方の車両へと駆けていった。
「お兄ちゃん、なにがなんだかわかんないけど、とりあえず鼻血止めたら?」
「え、ああ通りで鼻が痛いと思ったわ……」
前方の車両を更紗が抑えたことによって、列車は速やかに停車し、駅で待機していた警察と魔導師たちによって犯人たちは速やかに取り押さえられた。




