#03-04 The butterfly of the day of summer.
『もしもし、お兄ちゃん!?急に1日遅れて行くってどういうこと!?』
「あー、ちょっとどうしても外せない用事ができてな。先に行っててくれ」
『えー……一緒に行きたかったのに』
「別に一緒に行ってもいいけど予定大丈夫なのか?」
『うん、来週まではあけてあるから。でも、このチケット払い戻しできるかな……』
「払い戻してとりあえず家まで帰ってこいよ。電車代はオレが持つから」
『ほんとに?じゃあ今からかえるねー。お姉ちゃんまだいるかな?』
「もう仕事行ったと思うけど……おっと、そろそろ切るな、着いたら一応連絡くれ。行けたら迎えに行く」
『うん、わかった。じゃあねー』
電話を切り、ため息をつく。
「妹さんですか?」
「ああ、今日祖父の家に向かう予定だったんだが、大幅に予定が狂ったからな」
「すいません。そう言えば、そんなことをいってましたね……」
「まあ、気にするな。それで、ここでの手続きは終わったのか?」
「はい、一通りは。あとは婚姻届だしに行くだけですかね?」
「一応聞いとくけど、書類の提出順序それであってるのか?」
「あってなくてもなんとかなります」
そういいはなったフェリシアを助手席に載せ、車を発進させる。
伯父からの借り物であるが、一応は国産の高級車だ。それなりの格好はつく。
「そういえば英国のモラン社から専属契約が来てましたよ」
「というと、専用に組み上げた端末でも造ってくれるのか?」
「そこまでしてくれるのかどうかはわかりませんが、技術協力の申し出はありました」
「わかった、とりあえず資料送っといてくれ」
「はい、……ここで到着ですか?」
「ああ、駐車場空いてるといいけど」
立体駐車場の中へと入っていく。
幸いそれほど混んでおらず、すぐに車を停めることができた。
そこからはたいして時間はかからず、スムーズに書類を作成し、受付のオバサンに祝われながら車へと戻った。
「さて、次だな」
「妹さんを迎えに行くんですか?」
「そんなこともあったな……まあそれじゃなくて、指輪とかほしいかなって」
「!!」
「全然考えてなかったか?」
「……まあ、こちらが勝手に取り付けた婚約ですし、拒絶されるのは覚悟してましたけど、ここまで積極的にこられるとは思ってませんでした」
「とりあえずウェディングリングだけでいいか?」
「はい、嬉しいです。父にあとで報告します」
「嬉しいならオレを死に追いやるような行動をするのをやめろ…」
駅前の繁華街、そこにあるショップの中からフェリシアが気に入った店に入る。
シンプルなデザインのプラチナのリングを選び、多少費用はかさむが、一時間ほどで合わせられるというのでそれを頼むと、詠は店の外に出て伸びをする。
「詠、どうかしましたか?」
「いや、こういう店は入りなれてないからなー」
「ふふ、そうですか」
「とりあえず昼食にして、それから指輪取りにこよう」
「わかりました。ところで、電話なってますよ」
「……あー、忘れてた」
やはり、表示されている名前は妹のもの。
『もしもし、着いたんだけど』
「早くないか?」
『まあ京都から大阪だからそんなに遠くもないしね……荷物多いからできれば迎えに来てほしいんだけど』
「え、ああちょっと待ってくれよ「私の事なら気にしなくていいですよ」……今からそっち行く」
『はーい。あれ?誰かと一緒にいるの?』
「気にするな。ロータリーに車で入るから頑張って探してくれ、伯父さんの車だ」
『わかった、じゃあね』
電話を切ると、自然とため息がでる。
フェリシアは隣で笑っているが何がおかしいのか。
「天下の魔導師"黒銀"も妹さんには弱いんですね」
「そんなことないぞ、たぶん。それより、すまんな」
「いえ、二人きりでデートなら向こうに詠を呼び出せばいくらでもできますから」
「その為だけに呼ぶのは勘弁してほしいけどな」
「わかりました。何か適当な理由を見繕いますね」
わかっていたことだが、詠は舌戦ではフェリシアに勝てない。
今後も何かとアドバンテージをとられることだろう。
少し陰鬱な気分になりながら車を発進させ、すぐ近くの駅のロータリーに入る。
幸い妹の姿はすぐに見つかった。
荷物はスーツケースだけのようだが、女子にしては珍しく荷物の少ない我が妹にしては多い方なのかもしれない。
近くに停めると向こうもすぐに気づき、こちらへ向かってきたのでトランクを開けて外へでる。
「よー、久し振り」
「まあ、ちょこちょこ電話してるから、あんまりそんな木しないけどね」
「荷物積んどく。後ろに乗ってくれ」
「え?なんで?」
そういいながら妹・榛葉綴は助手席の窓を確認する。
「あ……ごめん、デート中だったの?」
「まあ、それはいいから早く乗れ」
トランクを閉めながら詠が言う。
詠が運転席に乗り込むと同時に綴の質問が始まった。
「で、いつから付き合ってたの?」
「さあ?とりあえず後で説明する」
「なんで!?」
「そんなことより、綴。昼飯食べたか?」
「まだだけど……」
「じゃあ、一緒に行くか。構わないか?」
「ええ。問題ありません」
その後、店の駐車場に入るまで綴の質問攻撃は続いたが、詠は頑として無視を決め込み、フェリシアは隣で笑っているだけだったので、綴をむくれさせた。
「さて、着いた」
「え……ここ、お母さんが会食で使うようなお店だよね?」
「そうなんですか?」
「まあ、大丈夫だ。綴の服装によっては別のところになってたかもしれんけど」
今日に限って詠も少しいいスーツ(亡くなった父の御下がり)を着ているので問題はないはず。
と、自分に言い聞かせながら高級料亭の玄関をくぐる。
「いらっしゃいませ、ようこそお越しになりました」
「予約してないんですけど、いけますかね?」
綴からは手元が見えないように名刺を女将に渡す。
「!……はい、どうぞ。コースの方は……」
「お任せします。彼女が明日本国に帰るので、上等な日本料理を食べさせてやりたくてですね」
「そうですか。それでは、ご案内させていただきます」
女将に続いて廊下を奥まで進む。
「お兄ちゃん、なに渡したの?お金?」
「名刺」
「あー、お母さんのね……」
実際は詠の仕事用の名刺だったのだが、妹にはまだばれていないので黙っておくことにした。
そのあと料理長が挨拶に来たりとなにかと浮わついた様子だったが、フェリシアと詠、綴ですらこういう状況は慣れているので、綴に不信感を持たれることはなかった。
「さて、妹よ。質問に答えよう」
「なんで改まったの?」
「まあ、簡潔に結論だけいうけど、フェリシアと結婚した」
「なるほど、お兄ちゃんの彼女じゃなくて、私のお義姉ちゃんになるわけか…………え?」
「呆然としてるとこ悪いが事実だから受け入れてくれ。それより、料理が来たぞ」
「きちんとした和食を食べるのは久々ですね」
「FWIの近くの日本食レストランイカれてるもんな……」
「ええ、なにかと揚げたり、チーズかけたりしないと気が済まないようでして。ヘルシー志向が聞いて呆れますね」
二人は大いに料理を楽しみ、綴も現実を逃避するが如く食事を楽しんでいた。
支払いはもちろん詠がカードで支払ったのだが、それに関してはさすがに不信感をもたれ、とりあえずバイト代が有り余っているという(嘘ではない)ことでなんとか誤魔化し、店をでる。
「さて、言いたいことがあるのか?」
「あるに決まってるでしょ!?どうして、突然結婚なんて話になったの!?」
「それに関しては御母様に言ってくれ」
先程のショップで指輪を回収し、綴の質問を受け流し続けながら、たまにフェリシアがストレートな返答をして、詠を動揺させつつ、帰路に着いた。




