#02-17 Lone Wolf.
「発動と同時に行けよ?」
「わかった」
レベッカが頷くと同時に、詠の携帯が鳴る。
「フェリシア?どうした?」
『すいません。既に動かれていたようで、破壊命令を阻止できませんでした』
「現代魔法大好きな奴らのせいか?」
『はい、その派閥の者です。とりあえず、私は今から代表の所へ行ってきます』
「すまん。頼んだ。こっちも、あと3分で片付けてみせる」
『ご武運を』
電話を切る。
「何があったの?」
「もうすぐ正式に破壊命令が出るぞ」
「っ……!急ごう」
「ああ、行くぞ、偲」
「はい!」
吹き上がる熱の渦に向かって笑みを浮かべたレベッカが駆けだす。
それと同時に詠と偲が魔法を発動させる。
「魔導書ちゃん、迎えに来たよっ」
躊躇うことなく火の中に手を突きいれる。
「レ、レベッカさん!」
「大丈夫だ。アイツはあれぐらいじゃ火傷しない。……そういえば、お前大火傷負ってたな。大丈夫か?フラッシュバックとかしないか?」
「え?はい、何とか。というか、こんな途方もない現象とても現実とは思えなくて」
偲が周囲で立ち上がる火柱を見渡しながら言う。
「まあ、そうだよな。レベッカ!まだか!」
炎の渦の中に詠が声をかけるとほぼ同時に、炎の向こう側からレベッカが飛び出して生きた。
「何だかヤバいのが出てきた」
「は?何だよ……」
――KKKKKKKKKKKKKKKKKKK!!!
周囲に甲高い鳴き声が響き渡る。
「うわ、最悪のパターンだ。これはもうオレたちだけじゃ何ともできないぞ」
「そんなにヤバいんですか!?」
「ああ、札幌はあきらめるしかないかもしれん」
「ええ!?」
詠が熱さのせいとは別の汗を流し始めたところ瓦礫の吹き飛ばして何者かが乱入した。
「おいおい、なんだコレ。スゲーな」
サングラスをかけ、煙草をくわえた人相の悪い男がそこに立っていた。
「ナイスタイミング!これで、何とかなるかも」
「お、誰かと思えば榛葉か。これどういう状況だ?熱いんだけど?俺のタバコが勝手に燃え始めたじゃねーか」
「禁煙したんじゃなかったのかよ。魔導書の暴走だよ。運悪く“幻獣持ち”にあたったみたいだ」
「マジかよ。糸日谷の奴がちょっと仕事手伝ったらカニ食わしてくれるっていうからわざわざ東京から来たのに、なんだこの終末的光景は」
「いいから手伝ってくれよテルさん!」
「ちっ、しゃーねーな」
炎の渦に向かってテルと呼ばれた男が駆ける。
何の防護魔法もかけずに炎の壁の前に立つと、構えた。
「行くぞ」
「危ないですよ!?止めなくていいんですか!?」
「大丈夫だ。あの人、柄悪いチンピラにしか見えないけど、あれでも身体強化魔法のエキスパートだから」
「誰がチンピラだこの野郎」
テルが炎の壁を殴る。
「ええええええ!?」
そしてそこにあった炎の壁が吹き飛ぶ。
「よっしゃ」
「おい!榛葉!あれはさすがに無理だぞ!?」
「うわぁ……不死鳥とかマジかよ」
「なにアレ、カッコいい!」
「え!?なんであんなの!?」
「おい、そっち行くぞ!」
炎を纏った鳥が声を上げながらこちらへ突進してくる。
その広げた両翼のサイズを併せると5メートル近くはあるのかもしれない。
「逃げるぞ」
「私は?」
「レベッカはテルさんと一緒に本体の所行け」
「ええ!?私も囮ですか!?」
「いいから走れ!」
迫りくる炎の鳥から逃げ回る2人と、タイミングを見て進路を変えるレベッカ。
「なんだ嬢ちゃん、どっかで見たと思ったら紅蓮の魔女か」
「私の事知ってるの?」
「一回一緒に仕事したことあるはずだが?」
「嘘?」
「なんでだよ!?じゃねーや、オレが火は払ってやるから本体のところ早く行ってこい!」
「わかった!」
二人同時には炎の渦へと突っ込む。
「詠先輩、これ無理ですよ!?私もう限界です!」
「そうか、実はオレもだ」
「えええ!?」
「仕方ないな。カルマ!」
「……大丈夫なの?」
「あと一回ぐらいなら……2章17節“大河を生む魔法”」
「またそんな大技を……“フルメアメイカー”発動」
突如、発生する地響きに動揺する偲。
「な、なんですか?」
「気にするな。オレの魔法だ」
「無理ですって!」
地面が割れる。
「きゃぁ!?」
「おいおい、大丈夫か?」
「なんですか……って!?」
魔法で冷やし固めていると言っても、地面は高温であり、割れた地面から水が噴き出すと同時に、辺りは蒸気に包まれた。
「榛葉ぁ!見えねーだろうが!」
「ちょっと待ってろよ、テルさん。というかサングラス取れば?」
已然として、地面からは凄まじい勢いで水が噴出している。
「あれ?そういえばフェニックスは?」
「それなら、真後ろにいるけど」
「え?」
―――KKKKKKKKKKKKKKKK!
独特の甲高い声が背後から聞こえる。
「どどどど、どうするんですか!?」
「まあ、大丈夫だろ。この蒸気だし、水嫌いみたいだからとりあえず水柱の傍まで行くぞもぅすぐ消えるけど」
少しずつ水が溜まり始めている中をバシャバシャと移動する。
見えているのか、それとも音を頼りにしているのか、空中に浮くフェニックスもこちらについてきている。
「5章6節“水の球に封じる魔法”」
「“アクアスフィア”発動」
詠が魔法を放つ。
その魔法を躱すことができなかった不死鳥は、その体を巨大な水の球に封じられる。
不死鳥に触れる部分が気泡となっていくが、球につながる水のパイプが周囲にたまった莫大な量の水を吸い上げるため、不死鳥は苦しみ続けている。
「とりあえず時間稼ぎはできたか、おっと」
「詠先輩、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「カッコつけてないで、一旦休みなさい。使い過ぎよ」
「ああ、そうだな。レベッカ!そろそろ決めてくれ!」




