#02-14 It is the tea time.
お茶をするなら行ってみたいところがあるんです、といわれ偲に連れてこられた喫茶店の席に着く。なにやら雑誌で見たらしく、それなりに美味しい昼食をとる。
詠は軽食を頼んだあと、コーヒーとアイスクリームを頼んでメニューを偲に渡した。
偲は悩んだ結果、詠と同じものを頼もうとしたが、奢ってやるぞ、というと容赦なく一番高いメニュー注文した。
「いや、お前さ。遠慮とかさ。いや別にいいんだけど」
運ばれてきた道産牛乳100%が売りのアイスクリームをつつく詠。
「気にせずたかっていいよ、って更紗先輩が」
「勝手なことを……」
お待たせしました、という声と共に偲の注文したデザートが運ばれてくる。
「あのさ、パンケーキってデザートなの?主食じゃねーの?」
「いいですか先輩、別腹です」
「断言したな」
パンケーキの上に大量のホイップとアイスクリーム、フルーツがトッピングされたものを笑顔でほおばる偲。
一方、イメージしただけで甘さで胃が荒れそうになる詠。
「女の子ってなんでそんなの好きなの?量とかさ……」
「甘いもの嫌いですか?」
「いや、好きだけど……それはちょっと。一回なぜかしらんが静紀たちとケーキバイキングに行ったことがあってだな」
「男ばっかりですか?」
「ああ。酷い絵面だろ。確か六角と相模もいた気がするけど。静紀はあの細い体のどこに入るのかってぐらいケーキ食ってた」
「ケーキバイキングは行った後の体重が怖いですね……」
苦笑いする偲。
「というかなんでそんなの食べる癖にダイエットとかするかな……」
「誘惑には勝てないんですよ」
「ちなみに、成人女性の摂取カロリーは1800kcalだったはずだが、その皿一枚で1200はあるぞ」
「いいんですよ、動くから」
偲は特に気にした様子はないが、周りの席に座る女性たちの顔から笑顔が消えたように見えた。
「それで、レベッカさんは?」
「ああ、さっきメールで場所送っといた。もうすぐ来るはず」
それを言うか言わないかのタイミングでドアについているベルが鳴り、レベッカが店に入ってくる。
「疲れたー!結局逃げられるし!」
魔導師の制服を着たやたら目立つ外国人をさっさと座らせた詠はレベッカにメニューを渡す。
「ちょっと休んだら広域サーチするから」
「わかった、休む。メニューは……偲と同じもので。後、アイスコーヒー」
「ほら、偲。それメインだって。デザートで食べるとか無いと思うぞ」
「ああーその手があったかー……」
レベッカが店員を呼び戻し、追加注文をする。
「お前ら、人の金だからって」
「経費で落とすんでしょ?」
「まあ、落とすけど」
「レベッカさんは摂取カロリーの倍分ぐらい動いてそうなので大丈夫ですね」
「そもそもコイツ、太らないぞ」
「え!?魔女式の体形維持術式とかあるんですか!?」
「まあ、当たらずとも遠からず」
レベッカの食事が終わるまでかなり時間がかかりそうだと判断した詠は二敗目のコーヒーを注文し、偲とレベッカがわーわー言っているのを眺める。
そして30分後、会計を済ませた後外に出る。
相変わらずの熱気。立っているだけだと余計に暑く感じるので、さっさと終わらせることにした。
レベッカに目標を見失ったポイントに案内させると、カルマを呼ぶ。
「カルマ、7章6節“時を追う魔法”」
「“タイムリリード”発動」
目を閉じ開くと少し褪せた世界が広がる。
これがカルマの見せる過去。
その過去空間の中で目標の姿を追う。
数時間分の視覚情報を一度に得るのでかなりの負担がかかる魔法だ。
「詠、血が」
「ああ、悪い」
もう一度目を閉じ、開いて元の時間を見る。
レベッカから差し出されたハンカチで鼻血を止める。
「このハンカチ弁償するな」
「そう?じゃあデート一回ね?」
赤く染まったハンカチをポケットにねじ込んで詠がタブレット端末で地図を見る。
「ここだ」
地図にポイントをつける。
「じゃあ、早速いこっか。詠はゆっくり来て良いよ」
「大丈夫だ」
「今日はもう使わせないからね」
「過保護な魔導書もあったもんだ」
詠が一度カルマの頭を撫でると、カルマがその場から消える。
「さてと、さっさと見つけて帰るぞ。あんまり講義休むと単位落としかねん」
二つの端末をスタンバイすると目的地に向かって進みだす。
「無理はしないでくださいね?あとで更紗先輩に怒られるの嫌ですからね?」
「ちょっとはオレの身も心配しろよ……」
タブレット端末の導き出した現在地からの最短距離を駆ける3人。
「偲は出力的にあの炎には対抗できないと思うから被害を最小にすることだけを考えてくれ。レベッカは炎を抜けて接触することだけを考えろ」
「わかった」
「わかりました」
そして、と言うと。進行方向変え、レベッカにタブレットを投げ渡した。
「すぐ追いつくから先に行ってろ。ショートカット“アイスランス”」
右手に生み出した2mほどの槍を背後の一点に向けて投げた。
空間が揺らぐ。敵は見えなかったが“何か”がそこから逃げたのはわかった。
「詠!?」
「大丈夫だ」
手からの入力で端末で魔法を起動しながら詠が答える。
「30秒で終わらせる」
「そんな余裕ありますかね?」
相手のOTO幹部は魔法を捨て接近戦で攻撃を仕掛ける。
基本的に魔導師は接近戦には弱い。少なくとも日本の魔導師は、簡単な武術の講習を受ければそれでよいとされている。
そのせいか、魔導師には接近戦、もしくは銃というのが戦闘のセオリーになっている。
「なるほどセオリーどうりだ。まあ、残念ながらオレは合衆国の魔導師なわけで」
突き出された右手のナイフを両手でとる。
この時手に持っていた端末は空に放り投げている。
そのままナイフをねじ獲り、右の肘を喉に入れる。
よろけた相手に蹴りをかましながら端末を取り、
「“クラックバインド”発動」
魔法は命中。これで終わり。
そう思った瞬間、敵の姿がぶれる。
「!?」
「こっちですよ」
背後から脇腹に一撃を貰う。
「っ……なぜ……いや、違うな……どこでその魔法を手に入れた?」
「ご存知でしたか」
相手が手に持った端末で操作をすると、倒れていた方の姿が空に溶けた。
「“精神に干渉し幻覚を生み出す魔法”か」
「ええ。そうです」
「それは“黒杖”の連中が生み出そうとしてた物のはずだが」
立ち上がりながら詠が言う。
「詳しいですね。いや、当事者ですもんね」
「よっし、本気で捕まえて洗いざらい吐かせてやるよ」
二つの端末で同時に魔法を起動する。
「覚悟しとけよ?」




