#02-13 Chasing the flame.
前を走るレベッカの姿はまだ見える。
熱の塊が走り抜けることによって街路樹がひどいことになっているが、今対応している暇はない。
「偲、限界まで加速魔法使ってレベッカから離されるな」
「了解です、詠先輩は?」
「そろそろ追いつかれるからここで……は無理か」
何せここは大通りの歩道。
行きかう人の中には火傷を負う人もいる。
「さすがにここで戦闘するのは……」
「詠!」
カルマの声が響き、詠が頷く。
「先に謝るぞ、悪い、偲」
そういうと偲足を払う。
「え……?」
一瞬絶望した顔になる偲が宙に浮き、こちらに倒れて来るのを両手で抱える。
いわゆるお姫様抱っこだが。
「ショートカット“ピックアップ”発動」
そのまま偲を抱えて、大きく前進する。
「きゃあ!?」
「あと5秒で切れるから慣れろ」
通常の移動速度の1.5倍まで速度を引き上げるこの魔法は扱いが難しく、鳴れていなものが使えばそのまま何かしらに衝突する。それ故に偲を抱え上げたのだが。
「なんでこんな不安定な抱え方にするんですか!?」
詠の首に必死にしがみつきながら偲が叫ぶ。
因みに魔法の効果は既に切れている。
「怒るとこそこか!?仕方ないだろ、いろいろ余裕なかったし。まあ、またレベッカは見失ったが」
「なんであんなに逃げるの速いんでしょうね……」
「仮想の肉体を持ってるいるって言っても身体強化はぴんと来ないしなぁ、まあそれよりここなら広くていいか」
「何故戦う前提で?」
「だって追いつかれているし」
「六角さんが足止めしてくれてるんじゃ?」
「残念ながらしてくれてなそうだ。6章19節“魔を返す魔法”」
「“リバースマジック”発動」
突如、眼前に出現した火球の群れは、詠が生み出した黒い壁に吸い込まれ、元来た道へと撃ちだされる。
「!?」
「なんだ!?」
「くっ……」
姿を隠していたOTOの教徒。
火球を避けきれずもろに食らった1人以外が立ち上がり、こちらを睨む。
「しつこいぞ。お前らもう帰れよ赦してやるから」
「なんのはなしでしょうか、そちらも見失っているようですし、まだチャンスはありますよ?」
「うるせぇよ」
1人はダウンしているので残り4人。
ここで倒してしまった方がはやいか。
「おーい、榛葉!」
「お前、足止めしろって言っただろうが」
遅れて走ってきた六角を冷たい目で見ながら詠が言う。
「仕方ないだろ、無視されたんだもの」
「それはお前がザコいからだ」
「ひでぇ」
詠が偲を降ろす。
「六角、全員囲え。偲はアイツらに水の防護を全力で」
「わかった」
「え!?何でですか!?まあ、やりますけど……」
六角の地魔法が発動し、強固な壁が彼らを囲む。
「死なないように気をつけろよ?5%ぐらいでいってくれ。1章26節“終わりの炎の魔法”」
「“プルガトリウム”発動」
カルマのその声が響いた瞬間、周りから何かが消える感覚を偲は感じた。
そして気づいた。
自分の、というよりも榛葉詠と魔導書を中心とした半径何メートルかかの空間に存在していたマナがごっそり消えたのだという事に。
「なっ……」
真っ黒な炎が六角の作った壁の中を焼き尽くしていく。
彼の作った壁は、この危険な炎を漏らさないようにするためだったのか、それとも中にいる彼の敵を逃さないようにするためなのか。
「……5%でこの威力?」
「さすが私」
「褒めてねーぞカルマ」
偲は呆然としながら炎を見つめていた。
六角も同じだった。
「死んでないといいけど」
そういいながら詠が一つ手を打つと炎が消える。
「六角、壁消して」
「……あ、ああわかった」
壁がガラガラ音を立てながら崩れる。
中には焦げているが人の形をしている何かが3つ。
「ひっ……」
偲が目を逸らす。
「大丈夫だ、全員生きてる。焦げてるがな」
「ホントに生きてるのか!?」
「大丈夫だって……たぶん」
「おい!」
六角が脈を取っていく、全員意識はないが生きてはいる。
火傷もそれほどひどくはないようだ。
「コイツらだって魔法使えるんだから何かしらの方法とって防ぐだろ」
「そりゃそうですけど……」
「甘い攻撃をし過ぎると後で噛みつかれるぞ、というか一人逃げたみたいだし」
「そういえば4人いましたもんね……」
「……焼け死んだんじゃねーの?」
「そんなわけねーだろ。そこに風系の魔法で飛んだ感じの形跡が残ってるし」
詠の指さした地点を見て、偲がほんとだ……とつぶやく。
その場所だけ渦上に軽く地面が削れている。
「まあ偲の魔法が無かったら確実に死んでたな、コイツら」
「えええ!?私にそんな重役やらせたんですか!?」
「まあ何とかなると思ってたし」
それより、というとカルマの肩に手を置く。
「探せるか?」
「多分できるけど、ちょっと休んだ方がいいわ」
「そうかな?」
「休みなさい」
仕方ないな、と頭をかく詠。
「ちょっとお茶でも飲んでからレベッカ探すか」
「そんなに休んで大丈夫なんですか?」
「多分電話してもつながらないだろうし」
「ちょっとまて、ここの処理どうする気だ!?そろそろケーサツ来るぞ!」
「頑張」
「おい!」
「行くぞ偲後輩!」
「ええ!?ちょっと……ごめんなさい!がんばってくださーい」
詠は偲の手を引いて走りさる。




