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神殺しの世界で踊れ  作者: 山吹十波
#00 Colorless
3/101

#00-03 He is a man common for the moment.

昼からの講義はなんといってもひたすらに眠い。

全と灯里のように迷わず爆睡できるほど肝は座っていないので、うつらうつらとしながらも一応授業を聞いておく。

しかし、教授の声は全く頭に入ってこない。


「詠さん、起きてます?」

「……ん?ああ、ギリギリ」


真白の声に一瞬はっとなり、眼をこすりながら隣を向く詠。


「すいません、ここなんですけど……聞いてましたか?」

「ああ、そこなら聞いてなかったけどわかるぞ……たしかそこは……」

「A列後ろから二番目のカップル!」


教授の怒声が響く。

どうやら今日は機嫌が悪いらしい。また奥さんと喧嘩でもしたのだろうか。もしくは競馬で負けたか、二日酔いか。

ふと自分の座る席の席番号が目に入る。


“A-14”


「おお……ここ後ろから二番目じゃん」

「君たち、余裕の表情でしゃべっているけど、私の講義を聞いていたのかね?」

「……ええ、まあ一応は」


ちなみに真冬は“カップル”と指されたせいで赤くなって俯いているため使い物にならない。


「ならば、今からいくつか質問をするが、いいかね?」

「ええ」

「では、君らが持っている“魔導端末”。これを開発したのは?」

「ドイツの科学者、キース・ハーゼンバイン。名門ハーゼンバイン家の生まれで、“マナ”を発見するまではエネルギー工学を専門で研究。現在は家督を息子のフィリップ・K・ハーゼンバイン氏に譲り、研究室の籠り端末の研究をしている」

「……私はそんなことまで言っただろうか。では、次。端末を用いずに魔法を行使する方法を答えたまえ」

「基本的に人間には不可能とされていますが、“魔導書”を用いることで可能です」

「その魔導書の問題点は?」

「端末ではCPUが行っている膨大な演算を使用者の脳で行うため相当な処理能力が求められます」


そこまで聞いた教授は少し不満げな顔をしたあとこう言った。


「……一応講義内容は理解しているようだが。それでは最後に、現在存在が確認されいる魔導書について知っていることを話したまえ。そこから授業の続きをしよう」


教授の無茶振りに周囲の生徒がうわぁ、という顔をする。


「……まず、最初の魔導書と言われている“紫の魔導書”。これは現在ハーゼンバイン家が所有しています。

次に“赤の魔導書”。これは日本の魔導師 “赤芒”御来屋朱門が所持しています。

“青の魔導書”はフリーの魔導師 “女帝”キャロル・マガーリッジ。

“金の魔導書”はアメリカの魔導師 “黄金”アーミン・C・ゴールウェイ。

そして、最後に“虹の魔導書”。これは5巻編成の魔導書で、3年ほど前に世界的テロ組織“黒杖(シュワルツ・ロア)”によって引き起こされた事件に使用されたのがこの魔導書です。現在はイギリス・フランス・ドイツ・アメリカ・日本の5か国に分けられて封印されています」

「……新代の魔導書ばかりだが十分だ。さらに付け足すとフリーの魔導師“黒銀”がいる。ただし、彼については所持している魔導書も一切開示されていない。まあ、いいだろう。もう座っていいぞ。さて、魔導書を扱うということは特殊な能力となるため、魔導書使いは非常に少ない。また魔導書に認められたものでなければ扱うことができないなど様々な条件があり……」


相変わらず教授は不機嫌そうな顔をしているが、文句はないようだ。


「すみません、私のせいで」


真白が申し訳なさそうにこちらを見ている。


「別にこれぐらいなんでもない。気にするな。真白とカップル扱いなんてちょっと得した気分だ」

「そんな……。お世辞はいいですよ!」


少し嬉しそうな真白を眺めていたら授業が終わった。

どうやら質問タイムがかなり時間を食ったらしい。

筆記用具を鞄に押し込んでいると、後ろに座っていた全が目覚めたようで伸びをしていた。


「くーっ、良く寝た。さて、ちょっと体動かしにいこう」

「……全は気楽でいいよね」


丞が隣で呆れた表情をしている。

他の講義を取っていたため、一度離れていたレベッカと合流し、一同は階段を下りる。


「詠さん、私はどこを直すべきなんでしょうか?」

「真白は攻撃する意思が弱いというか、対人になるとかなり出力押さえて魔法撃つだろ?」

「……そういえば、そうですね」

「真白の魔法は水・風メインで組んであるから、相手の事はあまり気にしなくても大丈夫だ。端末の防護効果で致命傷になることはないだろう」

「そうそう、レベッカなんかこっちのこと気にしないで火力で押し切って来るからな」

「あれは全が弱いだけかと」


丞が平然と言い切る。


「なんだと丞」

「たしかに戦闘技術は全の方が上だろう。それは認める。でも魔法の行使が雑すぎて、せっかく詠君が組んだ上等なプログラムが無駄になってる」

「丞、もっといってやれ。あと灯里にも言ってやれ」

「なんで私も!?」


丞が淡々と説教を続けるのを聞きながら詠とレベッカは笑い、真白は苦笑している。

グラウンドや練習場はサークルなんかが使っているため個人の集まりである彼らが獲得するのは難しい。

よって、彼らはキャンパスの隅の人気のない広場で魔法を撃ちまくっている。

1年間ここでやっているが今のところ苦情は来ていないのでたぶん大丈夫だろう。


「いいか、真白。敵はすべて全だと思え、そうすれば抵抗なく攻撃できる」

「まて、それおかしいだろ」

「……やってみます」

「真白ちゃんも躊躇おうぜ!」


大体いつもこんな感じである。

詠は完全に教える側にまわり、全・灯里・真白の面倒を見る。

レベッカは丞に教えるという形になっている。


「詠君もレベッカさんも前の冬の試験でとれたんじゃないですか?」

「あはは……どうせならみんなと取ろうかなと思って」


余談であるが榛葉詠は既に魔導師資格を持っている。

割と速い段階で魔導書の存在を知られたため、18歳になった途端、強制的に試験を受けさせられた。

しかし、彼の存在は彼の脅迫(おねがい)が功を奏したのか、まだ世間にはバレていない。

もちろん、家族にも言っていない。


バラしたらコイツらどんな顔するかぁとか考えながら、全と灯里の撃ちあいを眺める。

魔法で強化された灯里の拳がクリーンヒットし、全が転がり、マウントを取った明かりが止めを刺そうとしたところで止める。


「お前ら、もう十分だから今日は筆記の勉強しろ。あと3ヶ月じゃ50点でも取れるか不安だが」

「オレらの成績そんなに悪い!?」

「丞、言ってやれ」

「そうですね……今が5月18日ですから、試験が8月28日という事を考えると……受かる確率は20%ってところですね」

「実技は90%は取れると思うよ、2人とも。真白ちゃんはギリギリ70%かな」

「いいか、試験は200点満点で合格点が140点。ただし、どちらの項目も60点以上は取らなければならない。……理解できたか?」

「……つまり、実技で90点とって、筆記50点で140点達しても不合格、ってこと?」


灯里が首をかしげながら答える。


「……よく理解できたな」

「それぐらいわかるわよ!」


灯里が憤慨する。


「ということで、丞。任せた。お前はもう80-80は取れるから大丈夫だ」

「わかりました。詠君は何を?」

「真白の相手を」

「なるほど」


そのとき、グラウンドの方から巨大な火柱が上がったのが見えた。


「……派手にやってるな」

「今日は笹川君の一派がグラウンド貸し切ってるはずだけど」

「あんまり美しくないな……」


レベッカが炎柱を眺めならがつぶやく。


『確かに、無粋な炎ね』

「そうだなぁ……」


レベッカとカルマの言葉に頷く。


「しかし、市販で打ってるようなプログラムではあそこまで火力は出せないはず……だとすると本気でヤバい物に手出したのか……」

「まあ、今回の事を含めると累積で学校退学(クビ)になったりするかもしれませんね」


詠の呟きを聞いていた真白がそう答えた。


「あんまり残ってると絡まれるかもしれませんね。彼、詠君を目の敵にしてるみたいなんで」


丞の声に詠が顔を曇らせる。


「面倒だな……今日は引き上げるか。飯でも行くかなー……ってまだ早いか」

「今日はお姉さん遅い日なんですか?」


隣で片付けを始めていた真白が尋ねる。


「ああ、うん。なんか連続放火だってさ。物騒になったもんだ。丞の部屋で時間つぶすか」

「いや、構わないですけど、僕の部屋何もないですよ?」

「じゃあ、何か時間つぶしを……」

「それじゃあ、買い物に付き合ってよ」


詠の腕を組むレベッカ。


「まあ、良いけど。真白も来るか?」

「是非。いくつか欲しい物があってですね……」


片づけを終えた4人が立ち去ろうとすると約2名があわてて追いかける。

女性陣の買い物に3時間ほど引きずられ気づけば19時前。

駅付近のファミレスで食事をする。


「なあ、なんで女子の買い物ってあんなに長いの?」

「ははは、全。そんなこと言ってるとモテませんよ?」


疲労困憊の様子の全と丞。


「……なんで詠はケロッとしてるんだ」

「うちには母・姉・妹のスリーカードがそろってるからな。まあ、慣れだ」

「詠は素直な意見をくれるから服選び易いよね」

「そうですね。つい買いすぎてしまいました」

「っていうか、この時期に買うのって春物?夏物?夏物買うには早くね?」

「そんなこと僕に聞かないでください」


全と丞が何やら話しているが気にせず詠は立ち上がる。


「そろそろ帰るか。灯里の門限も近いし」

「ええ!?そんな時間!?……って全然余裕じゃん!」


真白の買い物袋と伝票を持ち先に会計にいく詠。


「全、あの行動を自然にできるから奴はモテるんですよ」

「なるほど、一つ学んだな」


会計が終わった詠に合流する一行。


「さて、そのまま帰ろうとするなお前ら。全、丞、金をはらえ」

「なんでオレらだけ!?」

「食ったらその分は自分で払うのが当たり前だろう」

「なんで女子の分は出すんだよ!」

「いいんだよ、女子は。そもそも一人で3000円近く食ってる奴の代金なんて誰が奢るか。何食ったら全国チェーンのファミレスでこの値段出せるんだよ」


丞と全から金を回収し、それぞれ帰路につく。

真白とは最寄駅が同じで、全と灯里は逆方向。レベッカと丞はこの所辺りで下宿している。


駅についた後、真白を見送り自分も家へと向かう。


『なんだか楽しい予感がするわ』

「やめてくれよ、お前のその予感は碌なことが起きないから。たしかトラムの時も同じこと言ってたぞ」

『そうだったかしら』

「時の魔導書の“予感”なんてほぼ確定だろうが……」


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