#02-06 Do you beat me?
「こんなもんだろ」
「理論的に可能なんだね、そんなこと。まあ私のにも同じようなもの設定されてるから知ってるけど」
見ていたレベッカも感心している。
「どんな感じだ?」
「発動までがすごく速いんですけど……」
「だろ?あと地属性は使えないから気をつけろ。一応、使える魔法のリストは入れておいたが」
「“Mint”と“Cyan”は更紗先輩の物と同じですね。“Celadon”と“Recall”は……製作者:榛葉詠になってますね……」
「完全オリジナルだ。喜べ」
「“偲ぶ”ねぇ……」
レベッカが少し拗ねたような顔をする。
「お前にも作っただろ?“Rebekka”を。それに“Magenta”も“Rose”もレベッカ専用に調整したものだ」
「見事に赤系ですね……」
「まあとりあえず行くか。さくっと勝って今日は休むぞ」
「捜査しないんですか?」
「フェリシアに報告終ってからだな」
エレベーターで指定された階へ。
やる気は十全といった様子の4人とあからさまにめんどくさいという空気が溢れ出ている糸日谷。
「よし、お前らマジックブローチをつけろ。規定値以上のダメージを食らったらリタイアだ。全員リタイアで負け、いいな?」
「おーけー」
「ところで何ポイントのダメージでリタイア?」
「一応3000に設定してあるが」
「300000してくれ。じゃないと最悪殺す」
「おいおい、その辺は加減しろよ」
「いや、だって3000なんかすぐ超えるぞ?超えたらダメージ吸収がなくなって死ぬことになって、訓練で人死がでたらそれは支部長責任に……」
「わかったわかった。人死には嫌だからな、両者30万で行くぞ」
設置された液晶画面に残りポイントが示される。
「二人先制な。軽めで」
「いーよ」
「了解です」
「よし、実力見せつけてやるぞ」
「行きますか」
「久しぶりに暴れるっすよ」
「まあ怪我しない程度に」
「ん、じゃあ始め」
やる気のない声で開始が宣言される。
「プログラム“Rebekka”“Magenta”並列起動」
《Rebekka: Starting……Success》
《Magenta: Starting……Success》
《Limited magic: Enabled》
「プログラム“Recall”“Celadon”並列起動」
《Recall: Starting……Success》
《Celadon: Starting……Success》
《Limited magic: Enabled》
全員一斉に端末を起動し、となるはずだったが詠だけは違った。
開始と同時に端末を構えた一団に向かい走り込む。
左手には自分の端末が握られている。
「なっ!?」
「さすが榛葉、汚ぇ」
「実戦でも同じこと言うのかお前は」
走る勢いを全て乗せた蹴りが五十畑の鳩尾にめり込む。
“鉄壁”の二つ名を持つ六角の初手はどうせ防御。後ろの二人に大きな攻撃を任せるとは思えないので、最大火力と思われる五十畑を潰すのが正解だと考ええた。
「うぇ……ぐ……」
減ったのは100ポイント程度だったが、物理ダメージを軽減する効果はそこまでないのでそのまま昏倒する五十畑。
そこへ詠の追撃の蹴りが数発入る。
「詠」
「はいよ」
レベッカの魔法が発動する。
「はや!?」
「なんでこんなに差が!?」
「“這う炎”発動」
《Magic : Starting》
レベッカの眼前に生み出された火球から蛇の形をした暗い炎が出現し、這ってそれぞれを襲う。
「うわあああああああ」
「あっつ、なんだコレ!?」
「水水水水!」
「ぅぐあああああああああああ」
気絶している五十畑は全く抵抗することもできず、全身に巻きつかれた蛇によってポイントを削られていく。
既に残りは10万を切った。
「なんて威力」
「こっちも5万ほどやられました」
「五十畑さん!?」
「……大丈夫だ」
「先に謝っておきます。ごめんなさい」
偲の声が響く。
「“凍る雷”発動」
《Magic : Starting》
五十畑の体が激しい落雷に襲われる。
魔法で生み出した人工の雷ではあるがかなりの威力。
そして何より周囲がどんどん凍っていく。
「はい、1人ゲームオーバー」
防護の残りポイントが0になった五十畑がその場で力尽きる。
「思ったより凍ったな」
「人体実験とは、偲もひどいことするねー」
「あなたたちがやらせたんでしょうが!」
「“グレートウォール”発動!」
六角の魔法が発動する。
自分たちを覆うように壁がせり出す。
「さあ、行けお前ら!」
「はい!“サンダーショット”!」
「“アーススパイク”!」
「詠先輩!」
「大丈夫大丈夫。ほら右手見て。それよりも次の準備」
右手に銀の魔導書を広げる。
「5章“有から有を生み出すプロセスの簡略化”。5節“複製”」
先ほどの六角と同じように地面を変形して壁を生み出す。
古市と柳の攻撃は簡単に弾かれてしまう。
「同じように壁を作ったからって、こっちに防御があることは変わらないんだぜ?」
「壁があるなら」
「ん?」
「越えればよくね?」
詠は自ら生み出した壁によじ登ると。もう一方の壁に飛び移った。
「1章1節“目もくらむ魔法”」
「うへ?魔導書!?」
壁の向こう側に閃光が炸裂した。
「“クラックオール”発動」
今まで握られていただけだった端末が発動し、六角たちの端末は一斉にエラー音を吐き始めた。
「5章2節“分解”」
自分の足元とそれと向かいにあるもう一つの壁をただの土塊に戻していく。
「“火猫の舞”発動っ」
「“テンペスト”発動します!」
偲によって生み出された豪風に乗って猫が踊る。
炎の大渦となった暴風は端末が使えずあたふたしている六角たちの残りポイントを一切残さず削りきった。
「……オーバーキルだなぁ」
「終わりでいいよな?」
「ああ、こっちはオレが片付けとく。しかし、魔導書使うとは思わなかったぞ」
「まあなくても勝てるけど、ちょっとイラついてたから。ああ、オレら大通公園の近くのホテルだから」
「……また高いところに」
「14階だから用があれば来てくれ」
「おい、待てそこスイートルームだろ!」
じゃあ、と手を振って出ようとしたとき、倒れていた六角たちが起き上がる。
「こんなに強かったっけ?あと、サラさんにボコられたときと同じ感じがした……」
「まあアイツとオレの戦法は基本一緒だからな」
師匠が同じだからな。と詠がいう。
ちなみにサラさんとは更紗の事である。このあだ名は本人があまり好んでいないので呼びかけても多くは無視されるが。
「で結局“黒銀”は?」
「……えっと、先輩。あの人だと思いますよ?」
「いやいや、小鞠ちゃんそれはないって。だって……ええ!?」
「うるせーな。これで納得するか?」
そう詠が言った途端。左右に黒と銀の少女が現れる。
「あらあら、自ら私を見せびらかすなんて珍しい」
「ん……仕事したから、ねむい」
銀の髪の方は立ったまま詠にもたれかかり眠り始めた。
黒の髪の方はちょこちょことレベッカたちの方へ行くとレベッカに抱き着いた。
「久しぶりー」
「一月ぶりだね、カルマ」
「偲も久しぶり。まあそっちは初めましてだろうけど」
「……黒の魔導書?」
「そうそう」
そして偲にもハグ。
「それでは改めまして、IMA所属“黒銀”榛葉詠です。よろしく」
「…………うええええええええええ!?」
六角が今日一番の叫び声をあげた。




