#02-04 I will fly to north.
昨晩の姉による10人前ほどの料理を完食できるはずもなく、引き続き朝も食べる羽目になったため若干胃が重い。空港まで行ってそこでなんか買おうかと思っていたが食べ物を口にしたいテンションではない。
「あ、詠先輩」
大阪空港に着き、ゲートに行くかどうか彷徨っていると偲がこちらを発見し駆け寄ってきた。
「おー、四辻後輩。悪かったな呼び出して」
「後輩って……別に偲で構いませんよ」
「そうかい、じゃあ偲。悪かったな突然」
「綾子さんに“黒銀”からの指名依頼って聞いてきたんですけど。あと更紗先輩には秘密って」
「そうそう。後で怒られるかもしれんな」
「えー……」
嫌そうな顔をする偲。
更紗に嫌われたくないというのが一番なんだろうけど。
「まあ大丈夫だ。ちょっと難しい仕事だからこれを経験させることでお前を育ててやろうかと」
「なんでですか!?」
「まあ、あのままじゃ更紗の邪魔になる可能性もあるからな。それにアイツの戦い方はオレみたいな高火力な術師がいること前提だから、オレの戦い方を学べば更紗の役に立てるだろう」
「むむ、一理ありますね……」
「はっきり言っておこう、今のお前に足りないのは経験と体力と技術と閃きだ!」
「ほぼ全部じゃないですか!」
びしっと指を指して宣言する詠に反駁する偲。
「とりあえず向こう着いたらお前の端末を調整してやろう。あんなに起動遅い魔法使ってるから大怪我するんだまったく……あそこでお前が怪我しなきゃ今も平穏に過ごせていたっていうのに……」
「かなり私怨はいってませんか……」
そこへもう一人の同行者が現れる。
「詠―!早かったね。搭乗手続きは?」
「ああ、今から」
空港内に設置されている自動カウンタを操作し、寝ている間にフェリシアから送られてきていたナンバーを打ち込む。
どうやら3人分とってくれていたようで、3枚の搭乗券を受け取る。
「さて、荷物預けに行くか……ってなんでお前らそんな荷物多いの?」
「女の子にはいろいろあるんだよ」
「さいですか」
「っていうか全部ビジネスクラスなんですけど……どこからお金でてるんですか!?」
「気にするな。“黒銀”用の予算からでてる。まあ1日10万ドルぐらいまでならIMAが出してくれる」
「ひえー……」
キャリーバッグを預けに行くときに一騒動。もちろん、詠の鞄の中にある銃と弾薬(※適切な梱包をしています)のためだが。
「たぶん届出はされてると思いますけど」
「“黒銀”様ですか?IMAの登録証を拝見させて……」
受付のお姉さんも今回が初めての用でかなり手間取っていた。
よって確認が取れるまでかなり時間がかかった。
「持ってこなきゃよかったかな」
「まあいざというときがあるかもしれないしね。持ってた方がいいと思うけど」
「セキュリティーチェックでも揉めそうだなぁ……」
通常魔導端末は安全保持のため機内に持ち込む際に封印を施すことになっている。
封印と言っても特別な器具をジャックに差し込むだけなのだが、これもまた時間がかかる作業なのである。
ちなみに取り付け、取り外しは専用の機具でないとできないようになっている。
「セキュリティーチェック通る前に端末の電源落しておいた方がいいですよ?」
「いや、オレたちは関係ない」
「うん」
「え?」
次の方、どうぞという声に従って偲がバッグをX線に通す。
そして端末Forceを係員に渡し封印を施す。
これによってマナを操作することができなくなり、端末は完全に使えなくなる。
「次の方、端末は鞄から出してください」
「え?ああ、オレこういうものだから封印を拒否します」
「私もです」
「え?」「ええ!?」
係員と一緒に偲も驚いている。
それぞれ提示したのはFWIとWUGの登録証。
日本以外では基本的に魔導師の機内への端末の持ち込みは許可されているため、その所属であることを証明すれば封印せずに持ち込むことは可能である。
ただし、初めての対応らしく係員さんもかなりおろおろしている。
「偲もしらなかったのね」
「WUJの登録証なんて外に出たらゴミ同然だぞ?」
「……えー」
「えっとお客様。確認が取れましたので先にどうぞ」
「はいよ」
責任者が出て来るような事態には至らず、無事に通過する2人とさっきから自分の登録証とにらめっこしている偲。
「おい、そろそろ乗るぞ」
「え?はい」
「飛行機乗るのも久しぶりかな」
「というかビジネスクラスなんて乗るの初めてなんですが……」
添乗員にチケットの確認をしてもらいながら偲が言う。
「そうか。残念なことに伊丹-新千歳便にはファーストはないんだよ」
「先輩はいつもファーストなんですか?」
「まあ基本的にフェリシアに任せてるから。一番すごい時でチャーター便が来た」
「それはすごいですね……」
「まあさすがにあれは吃驚した。というか空港で視線が痛かったからもう二度としたくない」
嫌な思い出を思い出し、遠い目をしながら詠が呟く。
そして席に着くとすぐに寝る体制に入った。
「え!?寝るんですか!?」
「ああ、乗り物酔いするから、オレ。飛行機はまだましだけど船は無理。アレは胃の中が空になるまで吐く」
「そうなんですか……海外とかよく行けますね、それで」
「まああんまり外に行きたくない理由の一つではあるな」
どこからかとりだしたアイマスクとブランケットで完全に就寝モードに入った。
耳にはイヤホンが装着されているので本気で寝る気らしい。
そうは言ってもほんの1時間ほどのフライトなのですぐに目的地に着くのだが。
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「いや、やっと着いたな」
「ホントに終始寝てましたね」
「というか着陸したと同時に目を醒ましたよね……」
大阪よりも少し涼しい気温。そして6月にしては多い観光客。
空港のロビーで伸びをした後、電話をかけ始める。
「フェリシアか?着いたぞ」
『今何時だと思ってるんですか、まったく』
その割には早く出たな、という言葉は言わないようにしておく。
「言っても0時だろ?というか着いたら電話しろって言ったのお前だろ」
『とりあえず、報告は受けました。とりあえず今から寝るので起きたらもう一度連絡します』
「何時に起きるんだよ……というか早くね?」
『起きるのは7時です』
「了解。その時間は電話出れるようにしとくよ」
『とりあえず札幌支部から迎えが来ているはずです』
「わかった」
電話を切るとポケットに押こむ。
「で、どうすればいいの?」
「迎えが来てるらしい……がタクシーで行くか?」
詠が『歓迎!魔導師“黒銀”、“紅蓮”』というプラカードを持った男を指さしながら言う。
「そうですね。それぐらい経費で落として見せます」
「さすがにあそこに行く勇気はないかな」
「もしもし、札幌支部ですか?“黒銀”ですが……はい、迎えが見当たらないのでタクシーで向かわせてもらいます……ああ、バスあるんですかじゃあそっちで」
「へー、バス出てるんですか」
「札幌駅まで支部長さんが迎えに来てくれるそうだ。アレは無視しよう」
こちらに気付いた様子もなくプラカードを抱えて立っている男を無視してバス停へと向かった。




