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神殺しの世界で踊れ  作者: 山吹十波
#00 Colorless
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#00-02 How did he and she meet?

時間を戻すこと15年。

世界中の科学者たちが温暖化が、化石燃料の枯渇がと騒いでいた頃。

ドイツの科学者 キース・ハーゼンバインによって“魔素粒子”通称・マナが発見され、それを動力として使用した魔導エンジンや直接に魔法を行使する魔導端末の開発が急速に発展していく。


そして10年後。

日本でも一般的に魔導端末が販売されるようになって3年。

また、国際法で“魔導”についての取り扱いが決まり国際魔導協会(IMA-International Magic Association)が発足してから2年。

この年には現在でも日本の魔導端末の最大大手であるKogane社から2世代目の魔導端末“Merginal II”が発売され、街中には魔法使いが溢れ、警察や消防などにも端末が配備され始める。


そして、この年に中学2年生の榛葉詠は“黒の魔導書”と出会う。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



夜であった。

時刻は午前1時を過ぎていて、初夏だというのに空気が重く冷たく感じた。

つい数時間前までは父の通夜をしていた。

泣き崩れる母と姉、混乱する幼い妹を見て、自らの涙をのみ込み、がむしゃらに手伝いをした。何故かそうしないといけない気がした。

ここ数日まともに睡眠をとった記憶がないが、全く眠気を感じない。

だからといって家にいるのも居心地が悪いので、こっそり家を抜けだし、夜の住宅街を歩いていた。


歩いているうちに交差点にたどり着いた。

夜の闇の中に赤の点滅だけ。さすがに車は通らないだろうか。

十字路の真ん中に立つ。いっそここで死んでやろうかという考えが一瞬頭をよぎるが、先ほど気を失うように眠りについた家族の事を考えると、どうもその気にはなれなかった。


全てが面倒だ。

ここ何日かで一生分の気力を使った気がする。

何もする気が起きない。


「あーあ……」


意味もなく声を出す。

そのまま車のこない車道を行く宛ても決めずに歩く。

生気のない目で前をぼんやり見ながら。


2時間はたったころだっただろうか。

途中何度か通った車に轢かれそうになりながらも、町をぐるっと一周した様だ。

最初に立った交差点が見えてくる。


ただ一つ違ったのは、そこに誰かが立っていること。


黒い髪の少女。身長は今の詠よりも少し低いぐらいだろう。

年齢は自分より上とも下とも判別がつかないが、ただ神々しく感じ、しばらく見惚れていた。


少女がこちらを向き、眼があった。

その瞳はアメジストのように輝いている。


「あなたは……私が見えるのかな?」


この世のものではない感じはしたが、まさか幽霊とは……と内心で思った。


「幽霊ではないわ。残念だったわね」

「……なんで心読めるんだよ」

「あら?口に出てたわよ?まあ、正確には15秒後の話だけど」

「はぁ……?」


この女……


「“まるで未来でも見ているかのように言いやがる。頭おかしいのか?”……って現在進行形考えてるのかしら。それをそのまま口に出すなんて、結構素直なのね」

「……オレほどひねくれてる奴はそうそういないぞ?」

「……確かに歪んでる気もするけど。精神が不安定よ、あなた。体内のマナも揺らいでるし」

「……………」

「短期間で過度なストレス……なるほど原因はわかったわ」

「……本当に視えているのか?」

「過去なら12時間、未来は30秒だけ視えるの」

「……そりゃ、すごい」

「まったく、信じてないわね……魔法よ、魔法。この魔法を使っている間だけね」

「魔法って、端末も使ってる様子はないし……」

「今は大気中のマナを消費してるの。それに私たち(・・・)には端末なんていらない」

「……どういうことだ?」

「私たちにとって魔導端末は商売敵というか……」

「……へ?」

「要するに、道具が道具を使う(・・・・・・・・)なんておかしいでしょ?」

「道具って……何の話をしてるんだ?どこからどう見てもにんげ……!?」


突然彼女の体が光に包まれて消えたと思うと、彼女のいた場所に一冊の本が浮いていた。

しっかりとした装幀の如何にもといった感じの古い本。


『私は”魔導書”。人ではないわ』

「それでも、お前の意志がある以上は道具だなんて思えないけど……って、魔導書!?魔導書ってあの魔導の教科書とかにたまに載ってるアレ?」

『たぶんそのアレで合ってるわよ』

「……初めて見た」

『……そうでしょうね』


若干抜けた返答をした詠に”魔導書”も困惑気味だ。


「……それで、お前の名前は?」

『残念だけど……』


そういうと、もとの少女の姿へと戻る。


「名前は教えられないわ。魔導書としては”時駆けの書”って言う名前よ。IMAの管理名はNo.009 黒の魔導書。そうね、クロとでも呼んでくれる?」

「クロってそんな犬みたいな……どうして教えられない?」

「教えたらあなたは私の所持者になるわよ?はっきり言って魔導書なんて持ってたら碌な死に方しないと思うわ」

「まあ死ぬ分には特に抵抗はない。自分でも自暴自棄になってるのはわかってるから今の発言は鵜呑みにしないでほしいけれど」

「でしょうね。いくらかマシになったけど、さっきまで目逝ってたわよ」

「でも」

「でも?」

「これから先退屈に人生消費していくよりは、お前の名前聞いてギリギリの平穏を生きるのもいいかなって思えてきた」

「……後悔しない?」

「いや、すると思う」

「……じゃあ、やめておきなさい」

「いや、オレはここでお前の名前を聞く。お前がそれでいいなら」

「……相当おかしなこと言ってるけど、わけのわからない奴らに捕まって実験体にされるよりはあなたみたいなのとコメディ演じる方が楽かもね」


そういうと少女はクスリと笑った。


「『私の名前は”カルマ”。ガリウス・マクスウェルによって書かれた禁書”時駆けの書よ”」』


「オレは榛葉詠。当面の目標は魔導書所持者だとばれずに生活することだな」


「一瞬で英雄になれるわよ?自分で言うのもなんだけど私、相当上位の魔導書だから」

「あいにく頂点に立っていたいと思ったことは一度もないからな。それに父さんの死をファクターにしてお前に……因果(カルマ)にあったのなら、身勝手に振るっていい力でもないように思えてな」

「まあ、まともな精神状態なら私は見えなかったでしょうけど……今日眼があったのは、あなたと橋の下でラリってたお兄さんだけね」

「それと同列に並べられるほどの精神状態だったのか……というかお前のその日本語はどうなってるんだ……」


ため息をつく。


「帰ろうか。夜が明けてきた」


白み始めた東の空を見ながら言う。


「詠」

「ん?」

「私をここで拾ったこと、後悔させないわ」

「……期待してるよ」


そういいながら笑顔のカルマを見る。

すると、何を思ったのか……キスをしてきた。


唇に。


「ふふふ……ええ、期待していてね」


言うまでもなくファーストキスだった。

顔を真っ赤にして硬直すること数秒。


「……………………」

「……大丈夫?」

「……ああ、帰ろうか。母さんが起きる前に帰らないとと面倒なことになる……って、お前そのままついてくるのか……せめて魔導書形態とか」

「それも目立つと思うけど……そうだ」


すると少女の身体が光に包まれる。

その光は詠の右手に移る。


『これなら大丈夫でしょ?』

「まあ、これなら。正気に戻った姉さんに見つかったら面倒なことになりそうな気もするけど」


右手の薬指に嵌った黒いリングを見る。


『さあ、帰りましょ』

「……そうだな」


目に生気の戻った少年は陽の光を浴びながら家路を急ぐ。


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