#02-02 There is a thing about which we would like to ask you.
時刻は12時半を過ぎた頃。いわゆる昼休みである。
談話室も弁当を広げる連中やコンビニのおにぎりのフィルムをはがす連中で溢れている。
そんななか榛葉詠は椅子の上に正座していた。
まさかの尋問会が始まった。
いつもと変わらないテンションでこちらを見ているレベッカと、少し哀れなものを見る目でこちらを見る真白。
灯里は全の隣で爆笑している。
「で、なんだよ。殺すぞ」
「……直球過ぎるだろ」
「それで、フェリシアさんて誰ですか?彼女ですか?どこの国の人ですか?」
「お前ぐいぐい来るな……」
テンション高めの丞を押しのけて、脚を崩す。
良く考えたらなんで正座とかしたんだろう……。
「よっしゃ、詠のスマホゲット!」
ポケットから抜き取られた。この男、完全にスリである。
仕方ないから全が浮かれているうちにアイツの鞄の中の財布・定期・スマホの位置を全部変えておいた。
後で焦るといい。
一方、詠のスマートホンだが、無駄に難しいパズルがパスワードになっているため、中身をみられることはない。
ただタイミングが悪いことに、着信が入る。
「おい、誰だよ“榛葉 綴”って。いつの間に嫁が!?」
「妹だからソレ。いいからよこせ」
全からスマホをもぎ取り、通話をタッチする。
『もしもし、お兄ちゃん?』
「はいはい、なんですか」
『お兄ちゃん、夏休み福岡のおじいちゃんの所行くでしょ?』
「ああ、行くけど。まだ早くないか?」
『ギリギリになったらめんどくさいから。じゃあ新幹線のチケットこっちでとって送るから。お兄ちゃん新大阪からでいいよね?』
「ああ、うん。金は母さんに言ってオレの分ももらっとけ。後で渡すのめんどくさい」
『差額も全部貰っていい?』
「おう」
『やった。それだけだから。じゃあね』
そういうとすぐに電話が切れた。
そして、電話を持ったまま全の方を向く。
「妹からだが?」
「ないわー。妹なんて「死ね」しか言わないじゃん……そんなフレンドリーに会話できねぇよ」
全が落ち込む。どうやら彼は妹と仲良くできていないらしい。
榛葉家の妹は中学から寮住まいであまり家に帰ってこないが。
「大体、見たか?丞」
「ええ、見ました」
「……何をだよ」
「「なんで顔写真付きなんだよ!」」
「……しらねぇよ。妹のぐらい撮ればいいじゃん?」
「はぁ!?うちの妹の好感度でそんなことしてみろよ?一発でブタ箱だぜ?」
「お前そんなに嫌われてんの!?」
全ではなく灯里に確認する。
……どうやら本当のようだ。灯里の様子から少なくとも好かれてはいないことが分かった。
妹の写真といってもすごく日常風景―アイスの棒加えて暑さでだれてる図―なのだが、こんなもの羨ましいのだろうか……。
「もしや……!」
「どうした、丞!?」
丞が全に耳打ちする。
すると全はこちらを睨みながら、
「真白ちゃん。ちょっと詠に電話かけてくれる?」
「え!?ああ、はい」
少しして詠のスマホの画面に表示されたのは、“匂坂真白”の文字と真白の写真(振袖バージョン)。
「はぁ!?どうやったらこんな写真が手に入んだよ!?」
「落ち着け全。一緒に初詣に行ったときにだな……」
「……お前、オレが誘った時断ったじゃねーか」
「その時には既に真白と行っていた。だってお前が電話よこしたの3日だっただろ」
「マジかぁ。もっと早く連絡していれば、オレも真白ちゃんの振袖写真が……」
「いや、たぶん全は撮れないと思うよ、うん」
丞が冷静にツッコむ。そして詠に問いかける。
「参考までに、どうやったら女の子は写真を撮らせてくれるのか教えてください」
「しらん。普通に頼め」
「……それができないんですよ普通」
机に突っ伏していた全が突然起き上がる。
「レベッカは!?」
「え?」
「掛けてあげようか?」
そういうとレベッカは詠に着信を入れる。
表示されるのは名前と、なぜかドレス姿のレベッカの写真。
「……これは一緒に舞踏会にでも行ったのか!?」
「そんなわけねーだろ。連絡先交換したらデフォでついてたんだよ」
詠がそういうと全が自分の電話帳の“レベッカ”を探す。
「そんなんついてねーぞ?」
「オレに聞くな。本人に聞け」
「……イイナー、詠クンは女の子いっぱい囲ってて」
「丞、オレがクズ野郎みたいな言い方すんな。それより昼休み終るぞ?早く食え」
マジか、というと全が弁当をかき込む。
対して詠たちは片付けを済ませ、すぐにでも席を立てる状態だ。
「なんでお前らそんな速いの?」
「逆に効くけど、お前何やってたの?」
「……………なるほど。理解した。もうちょっと待ってください」
既に立ち上がっていた灯里が仕方ないなぁと言って座り直す。
「そういえば、詠。何の電話だったの?」
「バイト」
「へー……」
レベッカの質問に内容を伏せた返答をするが、どうやら伝わったようだ。
「それで、フェリシアって誰?現地妻?」
「お前なぁ……せっかく今片付いたところなのに」
「仕方ないじゃん。気になるんだもん」
「まったく……」
レベッカを近くに呼び寄せ、耳打ちする。
「(FWIのオレ専属のオペレーター兼マネージャーだ)……わかったか?」
「え!?うん、ごめんね、疑って」
「いや、疑うとかそういうのもすでにおかしい気がするんだけど……顔真っ赤だけどどうした?」
「ううう……耳は弱いのに」
良い弱点を知ったので今後活用していこう。
やり過ぎると周囲に誤解を与えるが。
真白に見られて焦って弁解に行くレベッカを見ていると、丞が話しかけてきた。
「先ほど見えた名前ですが、“シャンクリー”って、“落雷”ハーマン・C・シャンクリーと関係ありますか?」
「いや、ないと思うが……」
「本当に?」
「本当に。というかあったとしても教えねーだろ」
間違っても愛娘ですとは言えないだろう。
「でも写真はこのフェリシア・V・シャンクリーと一緒でしたよ?」
丞が見せてきたのは例のミスコンの時の写真。
この後「ふはは、貴様ら娘をエロい目で見やがって、オレが直々に鍛え直してやる」とキレたハーマンによってFWIの魔導師が一週間ほど使い物にならなくなったのはいい思い出だ。
「……プログラム関係で知り合ったんだ。全には言うな。サイン貰ってやろうか?」
「いいんですか!?“黒銀”の関係者のサインがそろってきましたよ……これは同志に自慢できますね」
魔導師マニアである丞には大興奮の一品だろう。
良かったごまかせて。
「フェリシアさんといえば最近二つ名貰ったらしいですね。“黒銀”からあやかって“黒蝶”。僕も魔導師になったら彼に弟子入りしたいです」
「……やめとけ。碌な奴じゃないって言ってたぞ」
というか弟子なんかとるつもりはないのである。
「というか、そろそろ行こうぜ」
「え?ああ、時間的にもそうですね……全」
「ああ、もう終わった」
次の講義へと向かうべく席を立つ。




