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神殺しの世界で踊れ  作者: 山吹十波
#02 ORANGE -First part-
18/101

#02-01 Convergence of an incident.

思ったより長くなったので前後篇にしました。

後編は1話もできてませんがとりあえず前篇の投稿です

「めずらしいな。電話嫌いなのに」


一限の授業が始まる直前、更紗からの着信を受け廊下に立つ詠。

件の事件より半月ほど経過し、季節は梅雨となりかなり鬱陶しい天気が続いている。


『一応、報告しとかないとと思って。会いに行こうと思ったんだけど支部長に止められた』

「だろうな。エースが居なくなったら京都支部回らなくなるぞ」

『最近講義出た覚えないし、働き過ぎじゃないかな私』

「逆になんでそんなにすることあんの?」

『外国人観光客が多い分いろいろ問題が起きやすいみたいで』

「……ホントに外国人関係あるか?」

『それは……まあ、微妙なところだけど。それより本題に入るけど』

「ああ」


廊下の壁にもたれていた詠だったが少し姿勢を正す。気分的に真面目に切り替えたつもりだ。


『笹川淳也は懲役2年執行猶予3年で落ち着いたみたい』

「だいぶん粘られたのか?」

『求刑は5年だったんだけど、なんかいろいろ横やりが入って最終的にはそんな感じ』

「そうか……やっぱり放火の現場抑えたわけじゃないから無理があるか」

『そうみたいだね』


再び廊下の壁にもたれる詠。

目の前を教授が通って行ったのでそろそろ講義が始まるようだ。

まあ多少遅れたところで問題はないが。


『詠の方は仕事来たりした?』

「いや、全然だな。“黒銀”なんてネームを動かすほどの事件は来てないと判断してるんじゃねーか?」

『そうなの?』

「下手に魔導書所持者なんて動かしたら街一個消えかねないからな」

『えー……なんかずるい。やっぱ私もほしいな、魔導書』

「やめとけ。リスクしかないぞ」

『そうなの?……そういえば時間大丈夫?』

「え?……ああ、講義なら既に始まってるから問題ない」

『いや問題しかないけど……じゃあ切るね。学校行ってるなら講義は出ないと』

「お前がそういうなら渋々受けて来るかね……またな」


電話を切り、ポケットにねじ込む。

そして教室の後ろの扉から入り、全たちが座る席へと向かう。


「誰だったんだ?電話」

「ん?……友達だよ」


ここで素直に更紗からだというとまた面倒なことになると思い、名前を伏せる。


「高校のお友達ですか?」

「うん。そう」

「山月さんですね」

「…………」


せっかく名前を伏せたのに真白に看破され無言になる。

大体電話の内容を察しているレベッカは楽しげにこちらを見ている。

そして後ろに座る全からがっしり肩を掴まれる。


「……おい」

「……いいだろオレが誰と電話しても。それより授業中だから……」


その時、詠のスマホが震える。

ポケットから取り出すと、電話のようで画面には『フェリシア・V・シャンクリー』の名前が表示され、ご丁寧に顔写真まで表示されている。

一日に2件も姉以外から電話があるとは珍しい、とくだらないことを考えていた詠であったが、その画面をしっかり全及び周囲の連中にしっかり確認されてしまうという愚行を犯した。


「なんだその美少女は……」

「……画像加工ソフトとかでいじってんじゃねーの?」


もちろん嘘である。

フェリシアはミスFWIとかそんな感じの名前のコンテストで毎回入賞する程度の美貌を持っている。むしろ写真写りは悪い方だ。

全とにらみ合っていたら電話が切れた。

だがしかし、再びフェリシアの名前が表示される。

急ぎの要件かもしれないので通話をタッチし急いで教室から出る。


「おい、あとで詳しく聞くからな」


全の声は聞こえなかったものとする。

そして詠は廊下の先ほどのポジションへと戻る。


「はい、詠ですが、なんでしょうか」

『仕事です』

「どこで?」

『安心してください。運が良ければ日帰りできますよ?』

「運が悪ければ長引くパターンか……で、どこだ?中国?韓国?」

『いえ、日本です』


詠はため息をついた。


「名前広げたくないんだけどなぁ」

『今更じゃないですか?お父さんも積極的に広めてますが』

「いや、止めろよ」


フェリシアの父、ハーマン・セドリック・シャンクリーはFWI本部長とIMA副代表を兼任する世界的に見てもかなりの権力者である。

さらに、“落雷”の二つ名を持つ高名な魔導師でもある。強い。とにかく強い。

一度手合わせと称してボコボコにされたことがある詠としては、もう二度と戦いたくない、できれば会いたくない、と考えている。


『まあそれはいいとして、行ってくれますか?』

「良くは無いんだがな……とりあえず行くよ。そろそろ働いとかないとお前のトコの親父からも文句言われそうだし」

『そうですか。それでは明日発ってください』

「どこに?」

『北海道です』

「……またえらいトコに」


再びため息をつく。

そして、壁に体重をかける。


「……そういえば仕事内容聞いてなかったけど」

『放火事件の続きです……表向きは』

「おいおい、嫌な予感がしてきましたよ?」

『“黒杖”の工作員も確認されていますが“聖堂騎士団”も動いてるようです』

「すごい厄介なことになってるな……」

『火災の規模も前回とは比にならないほど大きいようです』

「それさ、もしかして」

『ええ、今回は魔導書が絡んでいます』

「……マジかよ」


3回目の溜息。


「魔導書が絡むと碌なことにならないんだよな」

『さすが、既に2冊持ってる人の言葉は説得力がありますね』

「好きでもってるんじゃねーよ。それで、火災の原因は魔導書ってことでいいのか?」

『とりあえずはそうではないかと』

「どういう経緯で北海道にあるんだ……」

『もとはロシアが保有していたもののようです。No.10 橙の魔導書ですね。“黒杖”か“聖堂騎士団”かどちらかが強奪したようです』

「それでなんで北海道?」

『陸路で東まで逃げた後、船で密入国したようですね。新千歳からハワイ経由で本国に入ろうとしているのではないかと』

「また面倒なことをしてくれる……」


4度目の溜息。


『ため息をつくと幸せが逃げますよ?』

「問題ない。既に一生分の幸せは逃がしてる」

『それでは明日13時に大阪空港から千歳行きの飛行機のチケットとっておきましたので』

「準備がいいな」

『それが私の仕事ですから』

「オペレーターの仕事ってそんなんだっけ?」

『本来は違いますが、あなた、自分でしないでしょう?』

「まあ否定はしないけど」

『私の場合はマネージャーも兼任してますのでお気遣いなく。その分給与もいただいておりますし』

「オレ、普通の魔導師の1/2も働いてないと思うんだが」

『詠が動くと事後処理が普通の魔導師の3倍かかるので』

「……なんか、ごめん」

『今度アメリカに来たら何か御馳走してもらいますから』

「まあ、一応覚えとくよ。とりあえず現地に着いたらまた連絡する」

『了解しました。ところで講義は大丈夫なのですか?』

「え?ああ、おかげさまで……今終わったよ」

『そうですか。ご愁傷様です』

「そういうお前は……って時差あるから全然違うのか」

『そうですよ。こちらは21時です』

「すごく余裕ある時間に電話してきやがったな」

『睡眠はしっかりとりたい派なので。それではまた連絡おねがいします』

「わかった」


そういって電話を切る。

すでに教室からは学生たちが次の教室へと移動し始めている。

詠はその人の波を抜けて荷物を回収しに向かった。


2限は空きだったのでその時間に電話をくれよ、と詠は考えた。


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