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#01-12 Let to end as soon as possible.

「さて、追うか」


そういうと、詠はカルマを見る。


「私が言うのもなんだけど使いすぎたら死ぬわよ?」


詠の瞳を強く見つめながらカルマがそういった。


「大丈夫だよ。トラムの時の10%も使ってないからな」

「仕方ないご主人様だわ」

「心配してくれてありがとな」


詠がカルマの黒髪を撫でる。


「じゃあ、6章1節『影を追う魔法』」

「“シャドウチェイス”発動」


カルマの足元に黒い影が渦巻く。

一塊に集まった影はぐるぐると詠達の周りを回ると、笹川が向かった方向へと移動し始めた。


「よし追うぞ」

「便利ね、この魔法」

「解析できたら使えるようにする。だけど、闇魔法は難しいんだよ」


やれやれと言った表情でため息をつく。

走しながらも足は止めず影を追い続ける。

影は大通りを避け、路地を奥へ奥へと進んでいく。


「このまま進むとちょっとした林に入るな……」

「端末は取り上げられてると思うけど、拳銃持っている以上遮蔽物が多いのは怖いね」

「そうだな……っと。ここら辺にいるみたいだな」


影が旋回をはじめ居場所を探っている。


「ちょっと怖いかも」

「大丈夫だ……お?」


何かに気付いた様子の詠は更紗の腕を掴んでかなり強引に引きよせた。


「きゃっ!?何!?」


それと同時に更紗の立っていた辺りの地面を鉛玉が抉る。


「場所はわかった」

「え?」


胸ポケットから銃を取り出すとためらいなく目星を付けた方向へ撃った。

詠の弾丸が着弾した木の陰から小さく悲鳴が上がる。


「あそこだ」

「了解。プログラム“Cyan”起動」

《Cyan : Starting……Success》

「“アイススパイク”連続発動」

《Magic : Starting》

《Use magic in a row》


更紗の前に冷気が集まり氷の杭となって放たれる。

1発目は笹川が隠れているであろう木に深く突き刺さり、2発目、3発目と続く。

5発目の杭が刺さると同時に木が大きな音を立てながら倒れはじめた。

堪らず木の陰から飛び出した笹川へ詠が魔法を放つ。


「3章5節『対象の動きを封じる魔法』」

「“シャドウチェーン”発動」


カルマの手から奔り出した黒い鎖は笹川の体を完全に拘束する。


「じゃあ私、縁さんに連絡するね」


更紗が電話機に耳をつけると同時に詠は笹川が転がるのと反対側の位置に銃弾を放った。


「へぇ……良くわかったね」


気の陰から現れたのは金髪の白人の青年。

身体の線は細く、女性と見間違えるほどの美人。

そして口元にはわざとらしい笑みを浮かべる。


「なんだその愛想笑い」

「こんなくだらない実験についてきたかいがあったよ。“黒銀”と“銀姫”か……思ったより厄介そうだね」

「……なんだ?喧嘩なら買うぞ?」

「へぇ……勝てる見込みあるの?」


興味深い、といった表情で青年がこちらを見る。


「お前は“黒杖”の幹部かなんかだろ?」

「いやいや、僕なんてまだまだ下っ端さ」

「隠さなくてもいい。隠すつもりならポケットの中の端末2機と銃3丁、あとは靴に仕込んでるナイフを出せ」

「……思ったよりやるねぇ」

「勝つ見込みはないが、負けない見込みはある。死なば諸共だ」


そう宣言するとカルマが詠の左腕に張り付き、詠は2つの端末を構え、後ろの更紗も同様に発動の準備をした。


「……まあここでやり合ってもいいんだけど。もう用事は終わったし、今回はいいや」

「……それでお前は何をしていた?」

「何って?“Redness”の試験運用だけど……?」

「えらく素直に吐いたな」

「まあ、僕が“黒杖”の一員ってことはばれてるみたいだしいいかな、と。どうせ君たちが捕えた雑魚共が全部吐くだろうし」


あ、そうだ。と続けて明るい声を出す。


「詠君さ。うちに来ない?すぐに幹部になれるよ?魔導書なんて大歓迎だし」

「……まあ考えとくよ」

「……予想外の答えに僕は動揺しているよ?」


その返答に対してため息を一つつくと、詠はこう返した。


「IMAが絶対の正義だと考えるほどおめでたい頭はしてないんでね」

「でも、僕たちはいわゆるテロ組織だよ?自分で言うのもなんだけど」

「オレはそこまで性格良くないからさ。自分の身内以外は割とどうでもいい」

「なるほど」

「それよりお前ももっと積極的にオレを勧誘したらどうだ?オレを寝返らせることができれば特典でかいぞ?」


カルマの頭に手を置き、更紗を引き寄せながら詠が言う。

詠がもし、世界を裏切るとしてもカルマは着いていくだろうし、更紗だって一緒に行くと言うかもしれない。


「……そうだねぇ。まあ一度出直すかね」

「そうかい」


背を向けて歩き出した青年。

しかし、ずぐに反転しこちらに向かってくる。


「忘れてた。僕はゲンマと呼ばれているよ。よろしくね詠君。それと更紗さん」

「よろしくって……」

「そんなたびたび会う気なのかよ、お前」

「他の幹部に殺されそうになったら僕の名前使うといいよ」

「やっぱりお前幹部なんじゃねーか。しかもかなり高位の。オレたちを潰して持って帰ることもできるだろ?」

「さすがに僕一人じゃ、生きたまま連れて帰るのは難しそうだし……二つ名持ちを相手に本気出さないわけにもいかないしね。それと、他の奴らに君を譲ってあげる気はない。ずっと前からマークしてたんだもの」

「……ストーカーかよ気持ち悪い」


詠が嫌そうに顔をゆがめる。


「まあ否定はしない」

「否定しろよ!」

「詠は渡さないから」


更紗が自分の方に詠を引き寄せる。


「ふむ。それでは妻は更紗さんとして、夫を僕にするというのはどうだろうか」

「何気持ち悪いこと言ってんだ、殺すぞ」


そういいながら脳天に向けて弾丸を撃ち込む。

それをへらへらと笑いながら躱すゲンマ。


「普通に避けるか……」

「それぐらいはできないと生きていけないもんでね……っと」


詠が放った二発目の弾丸を躱す。


「人間の動きしてない……」

「これが“黒杖”の幹部だ」

「僕以外の幹部知ってるの?」

「ああ、昔バーダンとかいうオッサンを殺した」


“殺した”という発言に場が固まる。


「……帰ってこないと思ったら死んでたのか」

「……殺したの?」


更紗が詠に問いかける。


「まあ自壊を止められなかったというべきか、結果死んじまったんだからあまり変わらないだろ」


意味を悟ったゲンマと意味の分かっていない更紗。

少しさびしげな表情を浮かべるゲンマ。


「報告すべきことも増えたしこれで帰るよ」

「できれば二度と会う事のないように」

「ははは、酷いな」


そう声を残し、ゲンマの姿は空間に溶けて行った。

林の向こうからはパトカーのサイレン。

笹川は縛られたまま気絶していた。


「“真珠(ゲンマ)”ねぇ……」


詠みの呟きはカルマ以外には聞かれることはなく、警官たちの声にかき消された。


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