#01-10 A change is as good as a rest.
警察署に止めた車を出そうとした瞬間着信。
相手は……逢坂全。
迷わず電話を切る。
「ちょっとは躊躇おうよ」
「しらん」
間髪入れずに着信。またもや全からである。
当然電話を切る。
そしてまたすぐに着信。
「全、しつこい」
「いや、でてあげれば?」
画面に表示されているのはレベッカの名前。
「どうしたレベッカ」
『あ、詠。全君がつながらないって言うからね?』
「仕事中だ。なんかいろいろバレてオレは今絶賛泣きそうだ」
『そうなんだ。ご愁傷様。こっちにはまだ隠しとくんでしょ?』
「そうだな。まあ、そっちは頼んだ。それより、笹川の奴来たか?」
『ああー、なんかね。詠を退学にしろって叫びながら学長室に怒鳴り込んでた。なんかめちゃめちゃ引っ掻かれて出てきたって噂だけど』
「猫か」
『まあ、マリウス翁が詠を手放すわけないから気にしなくて大丈夫』
「そんなことより笹川の行先は?」
『さあ?帰ったんじゃないかな?』
「そうか。ありがとう」
そういうと電話を切った。
隣に座る更紗が白い目でこっちを見ている。
「……なんだよ」
「いや、女の子だと出るんだと思って」
「いや、どちらかというと全だから出なかったというか……」
電話がかかってきた。
全だ。もちろん切った。
「……人としてどうかと思う」
「半分はお前のためだからなコレ」
再び着信だ。表示されている名前は匂坂真白。
「真白か?」
「残念オレでした!」
切った。
「……なんだったの?」
「あの野郎。今度会ったら呪ってやる」
「魔導書所持者がいうと割と洒落になってないよね」
車を発進させる。目的地は駅前の繁華街。
3時前だがどこか開いているだろう。
「何食べる?」
「私はなんでもいい」
「それが一番困る」
「そんなこと言われたって」
無益な論争をつづけながら、結局ファミレスの駐車場に入る。
しかし、すぐに発進する。
「え!?何?」
「なんでいるんだアイツら」
硝子越しに全や丞の姿が見えた。
対して、自分の姿を見る。IMAに所属する魔導師の制服。
1級魔導師の証である金の星が4つも胸についている。
「さすがにこの服では会えん。アイツらがどれだけバカでも気づくだろ」
「たしかに。もうお昼って気分でもないし晩御飯の材料買って帰ろうか」
「構わんが、マジで泊まる気なのかい」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど、オレの部屋で寝るなよ?」
「えー……」
「露骨に嫌そうな顔してもダメ」
買い物をするにしてもこの格好は目立つのでいったん家に帰り着替える。
どうしても一緒に行くというので玄関で更紗を待つ。
「お待たせ」
「いや、驚くほど待ってない。灯里とかレベッカとか真白とかすごく時間かかったりするのに」
「詠の周り女の子多すぎ……まあ、それは置いといて。近所のスーパーに買い物行くぐらいで化粧とかするのも面倒だし」
「化粧しなくても可愛いじゃん……」
「そう?でも、私以外に言わない方がいいよそれ。苦労をわかってないってキレられるよ」
ご機嫌な更紗に腕を取られながら駅前のスーパーへ向かう。
「何作る気だ?」
「肉じゃが?」
「オレ肉じゃが嫌いなんだよなぁ……」
「ええ?男の夢じゃないの?」
「いや、じゃがいもで飯を食うっていうのがちょっと無理でなぁ」
「じゃあ……オムライスとか?」
「じゃあ、それで。あ、卵ならある。あと玉ねぎとかも」
「そう、じゃああんまり買う物ないかも」
「そうだな……あ、ケチャップ切らしてるけど。トマト系のもの一切ないな家に」
「思い出してよかったね」
目的のケチャップと途中格安の品をいくつかかごに入れ、レジへと向かう。
「あら、詠君。彼女?」
レジにいたのは幸か不幸か近所のおばちゃん。
「いやちが「そうです」……おい」
「えらく美人の彼女捕まえたわねぇ……うちの息子もこれくらいの……」
延々と話しながらも一応レジ打ちはしてくれているので文句は言えない。
3分ほどで解放され、レジ袋に品物を詰め込み店を出る。
「まったく。何言ってくれてんだ。あのおばちゃんに話したらこの界隈噂が駆けまわるだろうが」
「私が彼女だとイヤ?」
「嫌じゃないんだが、嫌ではないんだよ?……ここ難しいところなんだよなぁ、カルマ」
『私は更紗ならいいと思うわよ?』
「……そもそもオレの恋愛はお前の許可居るのか」
『常時私たちがいても大丈夫じゃないと無理よね』
「……らしいぞ」
「私は大丈夫よ?」
『……退路断たれたわよ?』
「まあ、更紗の事は好きだけど今は「詠さん?」!?……真白か」
唐突に後ろから声がかかり振り向くとそこには真白の姿が。
そして明らかに不機嫌になっていく更紗。
「……まあ、いいか。詠から好きって言ってもらった」
「何か言ったか?」
「なんでもない」
「えっと……山月さんと何を?」
「ああ、夕飯の買い物終わったからこれから帰ろう……か……と」
真白との間に一瞬ブリザードが吹いた気がした。
「それで、今日は何をしていたんですか?」
「ん……?ちょっとバイトを」
「……バイトですか」
疑わしい物を見る目で詠と更紗を交互に見る。
「じゃあ、夕飯の支度あるから」
「今日は影千代さんの所でとらないんですか?」
「ああ、更紗が作ってくれる……って……」
再びブリザード。
「……真白。なんか怒ってる?」
「いえ、怒ってませんよ?」
笑顔ではあるが瞳の奥に言い知れぬ怒りを感じる。
「詠」
「ん?どうした更紗。オレは今とてもヤバい状況にいる気がする」
「帰ろう」
「……マイペースだなお前は」
「そうじゃなくて、アイス溶ける」
「いつのまに買ったよ……」
ため息をつく。
「悪い、真白。また今度」
「え?ええ、では明日」
「……いや、明日も休むから最低でも明後日だわ」
「ええ!?」
真白に手を振り、家路を急ぐ。
もちろん更紗が勝手に購入したアイスの命を救うためだ。
5月とはいえそれなりに気温は高いのである。
急ぎめのペースで家につくと、さっそく更紗がエプロンをつけキッチンに立った。
「……え?エプロン持ってきてたのか?」
「うん」
「初めからこうする気だったってことか」
「うん」
麦茶を飲みながらキッチンに立つ更紗を眺める。
「新婚みたいね?」
「ぶふっ!?」
「……まったく、何をやってるのか」
むせる詠の背中をさするカルマ。
「この恋愛耐性5の脆弱に無理させないで」
「……ごめん」
「ごほっ……ごほっ……何だよその数値。何を基に算出したんだ」
「適当に……」
「おい」
「そんな事よりも、早く私の存在明かさない?もう隠れるのめんどくさくなってきた」
「まあ待てよ、夏終わるまでは耐えてくれ。魔導師“黒銀”として動いてる時は外に出してやるから」
「まったく」
そういったカルマは更紗に歩み寄ると背中に抱き着いた。
「たまには詠意外とも触れ合いたいのよ」
「さいですか」
カルマのさらさらの髪を手を拭った更紗がやさしく撫でる。
女性にしては背が高めの更紗と小柄なカルマ。とても微笑ましい光景であるが、戦闘力に換算するとこれでだいたい戦闘機3機分以上はある。
「はい、できたよ詠」
完成した料理を並べていく更紗。冷蔵庫にあったもので他にも数品作り出したようである。
余談であるが彼女の料理は美味い。料亭が、とか一流レストランが、とかそういう次元ではないが、家庭料理としてはほぼ最高の域にあるのではないかと詠は考えている。
「食べさせてあげよっか?」
さて、詠にとってある意味の試練が始まった。




