#fin-04 Five years have passed since it happened.
◆
場面は真夏、昼前の京都支部だ。
階上からは、いつも通り綾子の説教に抵抗する九条の声が聞こえる。
大学を卒業し、そのまま、IMAへと就職した榛葉綴は、上から聞こえる声にため息をつきながら、手に持った資料を声の主に渡すために階段を上った。
彼女の着ている制服はほかの魔導師たちのそれとは違う。当然のごとく最新型で、性能は日本で使われているものと比べ物にならない。
制服を一度払ってから、扉の前で咳払いをしてノックする。
「失礼します」
「ああ!綴君!いいところに!」
「――綾子さん、これ追加の書類です。昼までにお願いします」
「わかりました」
「ぬわあああああ!?君たち兄妹はほんとに僕にやさしくないよね!」
「いいからやりなさい」
そっとやるべきことは果たしたので戸を閉じる。
これで、あの書類にサインさえもらえば、綴の京都での職務は終了する。後は、この後来る迎えと一緒にニューヨークに行くだけだ。
階段を下りて、いったんお茶でも買おうかと自動販売機の前に着いたところ背後から声をかけられる。
「綴、書類は?」
「あ、結愛。そっちはもう終わったの?」
「うん。これであとは“連合”の研究室に籠るだけだね」
「……たまには外でないとダメだよ?」
「でも、ジム施設とかも地下にあるはずだから……」
「なんか、卒業してからすごく出不精になったよね、結愛」
「そんなことないよ?でも、開発してるのが一番楽しいし……お兄さんと話しできるの時差とかで変な時間が多いからどんどん不規則に……」
「お兄ちゃんのせいなの!?今度叱っとくね?」
「いやいや、お兄さんは基本的に空いてるときはいつでも出てくれるよ?寝てたら無理だけど」
「結局結愛の自業自得ってこと?」
「まあ、そうなるかな」
「……はぁ」
お茶の缶を開けて、一口口に含む。
「お、いたいた」
「結愛もこんなところにいたんだ」
「緋鞠、亜海も、どうしたの?」
「どうしたの、じゃなくて。見送りに来てあげたんだけどなー」
「壮行会なら昨日したでしょ?」
「まあ、いいじゃん。それより、迎え来たみたいだよ」
「え?ほんとに!?」
「ふふふ、一気に元気になったね」
「誰が来たの?お義姉ちゃん、は忙しいか……やっぱり更紗さんあたり?」
「それは見てからのお楽しみ。今、一川部長と話ししてる」
「じゃあ、いこっか、結愛」
「だね。もう一回九条夫妻に挨拶に行って京都支部での仕事も終わりかな」
「お世話になったからね、綾子さんには」
「……支部長はいいの?」
玄関に向かうと、そこには一川木花と話す人物が立っていた。
それを見たとたん、綴が駆け出し、抱き着いた。
「お兄ちゃん!」
「おー、綴。迎えに来たぞ」
「……一応聞くけど、お義姉ちゃんたちは?」
「今はいない」
「今は!?」
「こんにちは、お兄さん」
「おう、“電姫”さん。まあ、かなりの頻度でビデオチャットしてるけど」
「ははは、榛葉ちゃん。さすがの女たらしだね。そんなのだから“天魔”とかいう通名にされるんだよ?」
「オレの意志じゃないよ。いつの間にかされてた」
「まあ、あれだけ女の子囲ってたらそうなるよね」
「一人男もいるぞ?」
「ああ、碓氷君ね。まあ、彼も見た目はいい方だから、いよいよ男にも手出したか、っていう噂が一時流れたけど」
「噂でもそれはマジで嫌だ。ハーレム築いてるクズ野郎だと思われてる方がマシだ」
「あれ、そういえば、丞さん来てるんですか?」
「ああ、来てるぞ。大阪支部に用事があるからそっちに行ってる。まあ、後で合流するから」
「良かったね、結愛」
「え?あ、うん」
「え?結愛って碓氷さんと付き合ってるの?」
「え?言ってなかったっけ?」
「いつから?」
「結構前。丞さんが“銀の鍵”に入ってからすぐ」
「聞いてないよー!」
「……というか、なんで“銀の鍵”なんて名前にしたんですかね」
「さあ?でも、詠さんとフェリシアさんいれば、時空ぐらいなら越えれるから別に変でもないんじゃ?」
「え?何の話?」
「緋鞠、わからないならそれでもいいですよ」
「え?いじめ?」
「ん、じゃ。九条さんのとこに顔出してから次行くぞ」
「次?」
「じーちゃんちに。嫁さん連れてこいってうるさいから」
「うーん……全員連れて行ったらおじいちゃんひっくり返ると思うよ?」
「とりあえず、フェリシアと更紗だけ連れてきた」
「とりあえずって……3人もいる時点でおかしいんだけどね」
「仕方ないだろ、大統領がトチ狂って、人類への貢献の特例で複婚を認めるとか意味の分からないこと言いだしたんだから……おかげで色欲魔王扱いだぜ」
「うちのお兄ちゃんはアスモデウス」
「やめろ、そのライトノベルみたいなタイトル」
「お母さんのところにはいかないの?」
「行かないし行きたくない」
「じゃあ、お姉ちゃんのところは?」
「姉さん今ドイツだぞ。こないだ会った」
「えー、私も行きたい」
「じゃあ、そのうち旅行にでも行くかー」
綴と話しながら階段を上った詠は、特にノックもなしに九条の部屋に入った。
「やあ、伊万里さん。元気?」
「誰かのおかげでとても大変」
「そんなことより、綾子さん。結婚おめでとう」
「そんなことより?!」
「ありがとうございます。詠さんも、おめでとうございます?」
「絶対祝ってないよな」
「ああ、これ、提出分の資料です」
「ありがとう。じゃあ、行くかな。また来ますよ」
「今度は何かお土産宜しくね!」
「ああ、忘れてた。はい、お土産」
「さすが」
詠が手に持っていた紙袋を手を伸ばした九条――ではなく、綾子に手渡した。
「いいワインが手に入ったから。夜にでも開けて」
「ありがとうございます」
「ええええ!?なんで僕の手スルーしたの!?」
「九条支部長、仕事してください」
「うわあああああああ、この兄妹鬼畜だわ」
「ははは、“天魔”なんて通名つけられりゃ鬼にもなりますよ」
笑っている詠の電話が鳴る。
「あ、丞。ということは、もう用事済んだのか」
「そういえば、結愛。挨拶しに来なくていいのかな?」
「今来た!今!なんで置いていくの!?」
開けっ放しの扉から結愛が入ってきて九条へ挨拶する。
「それでは“電姫”安藤結愛。これより、“銀の鍵”へ戻ります」
「えと、“天扇”榛葉綴、“銀の鍵”へ戻ります。ありがとうございました」
「はい、お疲れさまでした。詠さん、また、研修するときはうちに送ってくれて構いませんよ。かなり戦力になるので」
「考えとくよ。そっちの人は嫌そうだけど」
「だって、手続きとかで僕の仕事増えるじゃないか……でも、まあ、またね」
「ああ、うん。ありがとう」
詠が2人を連れて部屋を出る。
「さて、これから忙しくなるぞ。まだ“終焉因子”の被害も続いてるしな」
「最初の仕事はどこになりそう?」
「綴はしばらくオレと一緒にロシアかな……」
「寒そう……」
「結愛は丞と同じチームに入れておいたから、しばらくロサンゼルスでその後エクアドルかな」
「なんでそんな僻地に……ネット繋がりますよね?」
「何とかなるだろ。というか自由に動ける魔導師が少なくてな……オレたちに暇はないぞ基本」
支部の外に出ると夏の日差しが照り付ける。
そして、詠は空の、今はしっかりふさがった孔のあった場所を眺めながら、紅の指輪に触れる。
「まあ、せいぜい踊らされるとしようか、神殺しの世界で」
IMA No.10“Silver Key”
“天魔”詠・榛葉=シャンクリー
“黒翼”フェリシア・ヴェラ・シャンクリー
“白姫”榛葉ルリカ
“白翼”榛葉夏芽
“白蛇” 铃玉
“流星”ネル・クーパー
“藍姫”榛葉更紗
“凍風”四辻偲
“紅姫”レベッカ・ハインミュラー
“灰姫”フィリス・ワーズワース
“桜墜” ミシュリーヌ・シャルロット・オドラン
“探究”碓氷丞
“鳳雛”匂坂真白
“天扇”榛葉綴
“電姫”安藤結愛
No.001赤の魔導書【アーデル・グリムの火焔の書】“勇猛”
No.005白の魔導書【聖母ルシアの守護の書】“信仰”
No.008銀の魔導書【双臨の錬金術の書】“紀律”
No.009黒の魔導書【ガリウス・マクスウェルの時駆けの書】“因縁”
No.010橙の魔導書【アーバイン・ロックハートの気高き炎】“光輝”
No.011藍の魔導書【ハルマ・バックランドの白銀の世界】“冷静”
No.013蒼の魔導書【空と海の書】“次元”
No.019灰の魔導書【アル・スハイル・アル・ワズンの霞の書】“流転”
No.020紅の魔導書【アルバート・クロウリーの世界の断片】“崩壊”
Fin.




