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#01-07 Two wizards getting along well.


しつこいようだが朝は来る。

珍しく目覚ましよりも早く起きた榛葉詠は現在の状況を見て困惑する。

まず、人の布団を奪って狭いシングルベットの端で丸まっているトラム。まあ、これは割と頻繁に起きる事象なのでいい。

次に何故かこちらをじっと見ているカルマ。少し腹が立つが今のところ危害がないのでこれもいいとしよう。

そして、なぜかしっかり詠に抱き着いて眠る更紗の姿。美少女の寝顔をこの至近距離で眺めることができるのはうれしいが、健全な青少年であるわけで色々耐えるのが辛い。

というか、現実に起きる現象ではないのでとりあえず、夢と判断してもう一度寝ることにした。


「いや、寝ちゃダメでしょ」

「夢だろコレ。なんで更紗がいるんだよ」

「さあ?私が起きた時にはいたけど」

「因みに何時に起きた?」

「そこの目覚ましが狂ってないなら3時」

「なるほど、ほとんど最初からか」


昨晩、というより今日未明。大阪支部へと向かおうとしていたが、更紗が限界を迎えたため断念。

面倒を回避するためか、なぜか電波の届かないところにいる千代さんへの連絡をあきらめ、付近のビジネスホテルを探すが謀ったかのように満室。

更紗の実家に連れて行くという手段もあったが、意外と距離があるためこれも断念。

そして最終手段としてタクシーで我が家に連れてきたわけだが。

おかしい。


「……更紗は姉さんの部屋で寝かせたと思うけど」

「じゃあ自分の意志で来たんじゃない?……襲う?」

「アホか。とりあえず起きろ更紗」

「んぅ……」

「………………もういいか、色々」

「そこ諦めちゃダメでしょう」


カルマの助けを借りて、更紗を無理やり覚醒させた後、寝起きで非常に不機嫌な更紗に朝食を与え、クローゼットの奥から抗魔能力がある素材で作られた魔導師の制服を引っ張り出し、袖を通す。おなじく制服に着替えた更紗が嬉しそうに近づいてきて2ショットの写真を撮る。


「アップロードするなよ?」

「大丈夫。しないから」


家を出、そして、捜査協力はするといったがその前に一つやっておかなければならないことがあるのでその場所へ向かう。


さて、魔導師の資格を在学中に所得している者にはある特権が与えられる。それは、魔導師としての仕事による欠席は欠席としてカウントしないことになっている。もちろん、魔導を教える学科に通う生徒に限るのだが。

現在大学にて、詠が魔導師であることを知っているのは、レベッカ・ハインミュラーと学長であるマリウス・B・ローエンシュタインだけである。


ということで、学校へ着くとすぐに学長室へ向かう詠。外で待っていていいと言ったが、更紗もついてきた。おかげで学内は朝から軽くパニックだ。

普段全く人気がないので”魔窟”などと呼ばれているここは、”面妖(seltsam)”の二つ名を持つドイツの魔導師の棲家である。


扉を開けるとそこは机と椅子が一組置かれているだけの簡素な部屋。

目的の人物はそこにおらず、なぜかその人物が座っているべき場所には一匹の太った三毛猫が座っていた。


「おい、シード。マリウス翁のとこに連れていけ」

「……詠。猫に話しかけるとか頭おかしくなった?」

「うるせぇ。やりたくてやってんじゃねーんだよ」


三毛猫はやれやれと言った表情で椅子から飛び降り、壁の右隅に開いていた穴に窮屈そうにしながら入って行った。


「……行っちゃったけど」

「良いんだよあれで」


三毛猫が消えて行った右側の壁の一部がゆっくりと開き始める。


「久しぶりだな、詠君。休みの申請に来たのかね」

「まあそんなとこだ」

「しかし、君はいつも女の子を連れているが……まあ君ぐらいの魔導師となると胤をほしがるものも多いじゃろう」

「嫌な言い方すんな。……ああ、この爺さんがこのけったいな部屋の主な。えーっと……二つ名は”変人”だっけか?」

「失礼な!”面妖”じゃ!」

「あんまかわんねーだろうが。で、マリウス翁。こっちが”銀姫”」

「始めましてマリウスさん。私は山月更紗です」

「ほほぅ……今回はレベッカは連れて行かんでいいのか?」

「ああ、更紗だけでも十分な気もするし、基本は2人1組だからな」

「はっはっは、一匹狼がよく言うわ。まあいい、こちらの事は儂に任せろ」

「頼んだ。あと、そろそろ隠すの限界みたいだ」


マリウス翁は眉を少し動かす。


「親族の誰かにばれたか?」

「姉に」

「……まあ、強く生きろ」


物騒な助言をもらい、隠し部屋を出ると、壁はゆっくりと閉まって行った。


「なんというか、詠の周りには変な人がごろごろしてるね」

「びっくり人間満載の第II大学に通ってる奴に言われたくねーよ。さて、不本意だが姉さんの所に顔出すか」

「うん」


次の目的地へと向おうとしていると、携帯に着信が入った。


『おー、山月さんの目撃情報来てるけど、しかも制服!で、お前は?』

「なんだ全か。忙しいから切るぞ」

『なんでだよ。で、今日遅刻か?』

「いや、今日は休むわ」

『はぁ!?体調悪いのか!?というか山月さんどうするんだよ』

「更紗なら既に合流した。じゃあ切るぞ」

『は!?ちょっ……まて!』


切った。


「さー、行くぞ。早く終わらそう」

「うん。でもよかったの?」

「気にすんな。どうせ何言っても後で絡まれるから」


駅前まで歩いて戻り、タクシーを捕まえる。もちろん経費で落とす予定だ。

昨今のタクシーというものはマナを動力とする魔導エンジンと電気を動力とするモーターによるハイブリットが多い。コンセプトは『排気0』だとか。


さて、警察署についたわけだが、受付で姉を呼び出すと、この世の終わりにみたいな顔をした水野さんがフラフラしながらこちらに歩いて来た。


「……ごめん。またせたね」

「水野さん………なんかごめん」

「いいんだ。慣れてるから。じゃあついてきて」


案内されたのは昨日の取調室、ではなく応接室のような場所。そこで姉は不機嫌そうにコーヒーを啜っていた。


「おはよう、姉さん」

「あら、起きれたのね」

「まあ、なんとかね。それより犯人の特徴教えてくれない?」

「急にどうしたのよ。部外者には無理よ……といいたいところだけどさっき京都支部から正式に連絡があったわ。ほんとに魔導師なのね、詠」

「まだ疑ってたのか。水野さん、オレ砂糖2つ入れて」

「あ、私はブラックでいいです」


さりげなく水野さんにコーヒーを注文し、話を続ける。


「私がお願いしたんです」

「っていうことは、更紗ちゃんはコレが魔導師ってこと知ってたのね」

「はい、日本の試験とイギリスの試験は一緒に受けましたから」

「卒業旅行という体でイギリス行ってたのはそういうことか……」

「ええ、2人で観光もしましたよ」

「………ちょっと待ちなさい、詠。まさかイギリス2人だけで行ったんじゃないわよね?」

「……行ったけど」

「はぁ……私ですら男と旅行なんて行ったことないのにコイツは……」

「水野さん誘って温泉でも行って来いよ。休ませてやらんとマジ死ぬぞあの人」

「そうねぇ……水野、この事件終ったら私と温泉いこっか。有馬か城崎あたりに2泊ぐらい」

「うぇえええ!?ママママママジですか!?ありがとうございます!」


コーヒーを持ってきてくれた水野さんが動揺する。

身内の自慢をするようだが、うちの姉は性格はアレだが見た目はかなりいいのだ。そりゃ男なら動揺するか。

下手な男では手は出せないが、水野さんはかなりイケメンだし、同い年だから釣り合ってるのではないだろうか。そもそも、この姉の部下としてやってきて死んでない時点でかなり高評価だ。


「で、犯人の特徴は?」

「水野」

「はい!逃走した人物の特徴ですが、4人のうち3人は黒いフードつきの明らかに怪しいマントを着ていました。そのため顔の特徴などは不明ですが、使用する魔法は”闇”の属性でした。ただ、一人だけマントを着ていなかった人物が、身長180センチ代で明るい茶色の髪をした男で、火の強力な魔法を使い、使用端末は韓国・GX社製Overです」


復活した水野さんが生き生きと告げる。割と単純な人だな。


「わかった」

「誰が?」

「犯人」

「「「は?」」」

「容疑者は”笹川淳也”だな。アイツがOverを手に入れた時期がたしか先週末あたりだったはずだ。それに、異常な出力の火魔法も使っていた」

「一応聞いとくけど代議士の笹川議員とは……」

「息子だったはず」

「……そんなの捕まえられないわよ。というか捕まえてもどうにもならない気が……」

「それじゃあこちらから吹っ掛けて魔導法で現行犯逮捕しよう」

「そうだな」


更紗との間で意見が固まったので次の場所に向かおう……とすると止められた。


「勝手に自己完結しないの!」

「更紗とも意見合わせたけど」

「まったく……まあ、こちらが動きにくいのはそうなんだけど」

「まあ、まあ任せとけって。伊達に1級魔導師やってないから」


そういうと詠は笑いながら部屋を出て行った。


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