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二章 二話 閃撃

「貴様達にこれから剣の素振りを行って貰う。これは訓練所限定で得られる経験値だ!他で身につけることはできん!それでは、貴様らに『閃撃』を与える!まず私の実演を見て素振り一万回だ!」


そういうと、教官は近くの木の元へと向かった。大きな巨木の根はまるで足のように張り巡らされ鬱蒼と生い茂る。こんな木に一体何をするというのだろうか?堅そうでチェーンソーで切るのにも恐ろしく時間がかかるだろう。


教官は静かに合掌すると、剣の柄に手をかけた。


俺は、その姿に唾を飲んだ。


死だ─



圧倒的な死─




目の前にあるものは有無を言わさず死─


そう、教官の姿は物語っていたのだ。恐らく教官が発する形容しがたいものは。

『尋常ではない殺気』

禍々しいオーラと呼べるそれは一気に四方に広がり志願者を飲み込む。

連想せざる終えない異様な空気に包まれ、志願者の数十名の足が震える。逃げ出したい。逃げ出したい。嫌だ。そんな思いが皆を包む。

その瞬間、教官が動いた。

閃光が巨木を中心にくの字を描きえぐり取られる。二回、三回それは一瞬のうちに行われた。

えぐり取られた幹は百キロはありそうなのに後方に砲弾のように吹き飛んでいく。

吹き飛んだ砲弾が後方にある壁にめり込み壁を粉砕させた。



そして、巨木は大きく抉られて見るも無惨な姿となった。メキメキと音を鳴らしながら倒れる巨木。大気を揺るがすような大きな音を立てた。一斉に鳥が羽ばたいていく。

その中で教官は振り抜いた剣をゆっくりとしまった。先ほどまでの殺気が嘘のようだ。

まさに、剣聖。

それをあの一撃が物語っている。巨木を切るだけでなくそれを砲弾のように飛ばす威力は想像するだけで恐ろしい。

「これが『閃撃』だ。岩や骨など紙切れのごとく切り裂く技だ。貴様達はこの威力ほどでは無いがある程度の形を覚えてもらう」


まさに、閃撃と呼ぶに相応しい一撃だった。あの、斬撃があれば必ず巨人や凶悪なモンスターに対抗できる。俺の思考はもうすでに『閃撃』の虜となってしまった。


「構え!」


一斉に横なぎの構えに移る志願者たち。あの斬撃をものにするために力がこもる。


「…おおっと忘れていた!貴様!」

そういうと教官はあのサイファーと呼ばれる志願者に近づく。

「貴様は剣二本で素振りしろ」

明らかに重たそうな剣である。無慈悲なしごき。これはサイファーと呼ばれる奴は終わったと誰もが疑わない。両方合わせて悠に五キロ以上はありそうだ。しかし、サイファーは平然とその剣を受け取った。


「ありがとうございます」


「ふん」

教官は不機嫌な顔をし、眉間に皺を寄せながら踵を返し腕を上げた。


「始め」


一斉に剣の風切り音が鳴り響く。



しかし、これは予想外に手こずる。剣の初心者から見れば重い剣など持つだけでも大変だ。それを全力で振るのである。最初は俺も手から剣を落としそうになった。

しかも、鍛えてなければ腕にくる。1000回を超えた頃からだろうか。少し剣速が鈍ってきたものが何人か現れてきた。

それでも、がむしゃらに振る。



そして、2000回から3000回にかけて志願者の息が荒くなり5000回を超えた時だった。


ある志願者がこう言った。「も、もう無理だ。振れねぇ!はあ…はあ」



教官が気づいたようで、すぐさま志願者に近づいて行った。そして目の前に立ちはだかる。


「貴様?今無理と言ったのか?」







「はい…もう無理です振れない」

「そうか、なら貴様は今死んだ」


「え?」

志願者はうろたえた。


「モンスターと戦闘して諦めた時点でそいつは死ぬ。貴様は既に死んだのだ。お前は不合格だ」


「い、いやだ死にたくない」


「つまみ出せ」

志願者を取り囲んでいた教官が一斉にその志願者を掴み引きずっていく。

「嫌だ!俺はモンスターなんかに喰われたくない助けてくれ。死にたくない!」

しかし、その声も虚しくその志願者は教官達に連れ去られていった。

志願者達に一斉に力が入る。強張っているのがわかった。

だが、その意志とは裏腹に疲弊してきた現状は酷いものになっていた。

それはそうだ。毎回全力で剣を振っているのだ。二十名、三十名の志願者が次々と剣を落として脱落していく。


嗚呼や悲痛な叫びをあげて。そして5500回を超えた辺りでピークを向かえた。

この時、既に剣を降り始めてから、ゆうに四時間は超えている。

あの皆殺しにすると息巻いていたシャルドネでさえ疲労の色が隠せない。

そのYシャツは汗でべっとりしていてブラが透けている。銀髪をふりながら剣を振り、乳を揺らすその姿は実に艶めかしい。


そして、フラッタ。奴はなんとか食らいついていた。よく、あの動機でここまでできるものだ。感心する。何をあいつがそこまで動かしているのか?後で分析する価値はありそうである。



だが、とりわけ志願者のなかでも注目すべきなのはサイファーであった。志願者の中でも異質な彼。あのしごきを受け。ゆうに、五キロはある剣を振りながら尚、剣速は衰ない。もしかしたら回数は志願者のトップではないだろうか?ありえない。人間として確実に常軌を逸している。その三白眼が見つめるものは何なのか?ただひたすらに剣を振っている。


そう言った俺も既に疲労の色が見え始めていた。汗が止まらない。剣を振る度に額から汗が出てくる。ポタポタと落ちるそれは、剣を握りしめる手に影響が出そうだ。

今、剣を落としてしまったら確実に張り詰めていた線が切れてしまうだろう。

何があっても剣だけは落とせない。

あの『閃撃』をイメージして無我夢中で振る。


アリサ・クルーエル

彼女もその一人だった。彼女は、先ほど頭を鷲掴みにされ罵声を浴びせられていたのだが。今、まさに彼女は窮地に陥っていた。

「あたしは、やり抜く…」

そう、言いながら意識朦朧としながら振り抜く彼女。

「あたしは、やり抜…ああッ」

危なかった。剣が滑ってもう二センチも離れれば落ちていただろう。首の皮一枚繋いだ。



安堵する彼女。

口角が少し上がりニヤリとしていた。

もう、周りすら見えていない。

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