一章 三話 ミアと名乗る少女
早速、ヴァルキュリアが指差した方向へ俺は駆け出した。スピードに乗り草を踏み潰しつつ風を切る。
こんな、所に倒れているのだ。恐らく行き倒れかモンスターに殺されたかどちらかだろう。
いや、死んでいるのなら先程のチュートリアルのモンスター同様に光子となって飛散するはず。
生きているのか?
倒れているのを確認しザザザッと土を掘って踏み止まり。すぐさま近寄ってみた。
「大丈夫か?」
声をかけるが反応が無い。しかし、微かに息をしているのが解った。
みた感じの容姿は女の子。ブロンドのストレートでサラサラな髪が腰あたりまで。腕はか細く、華奢である。こんな危険なフィールドなのに装備は一切持っていないようだ。
「起きろ!こんなとこで倒れていたら死ぬぞ!」
頬を軽く叩いてみる。
すると。すぅっと瞼を開け始めた。
しかし、目の前に知らぬ者がいるので呆気に取られている。
「…あなたは誰ですか?」
「俺は、ラグナシア!それよりお前の名は?どうしてここにいる? 何があった?」
「私の名前は…ミア。何があったのか分かりません。思いだせません」頭を抱えながらそういうミアは必死に思いだそうとしている。
ひどく、頭が痛そうだった。
「ヴァルキュリア!何だか解るか?」
「ええと、データの経歴を見た所チュートリアルを経由していないようですし奇妙ですね?バグかな?それに記憶の欠如が見受けられます。記憶喪失ってやつじゃないですかねご主人様?」
そういうとヴァルキュリアはミアのほっぺをツンツンし始めた。
「ひやぁっっ!」
ミアが驚いている。
「うふふ!可愛い。さーて、次はミアちゃんの慎ましい胸をツンツンしちゃいましょうかねー動かなければ優しくしてあげますよー…えへえへ!」
可愛いミアを目の当たりにしヴァルキュリアが確実に暴走していた。
「変態かお前は」
ヴァルキュリアの襟を掴むとぐいっと後ろに追いやる。ミアに向けてのヴァルキュリアの魔の手が空を切った。
そして、この状況を打破するために俺はアイディアを思いつく─
「ミア良かったら俺とパーティーを組まないか?」
そう俺はミアに向けて言った。この状況から鑑みるに彼女を保護する人は皆無だし、何より此処に置いて置くのは危険だ。パーティーを組めば経験値も分配されミアのレベルも上がるだろうしパーティー制の有効なのはそこである。そうすればこの少女も死なずに済む。
「パーティーですか?」唇に手を当てて首を傾げるミア。その手は、本当にか細い。
「ああ」
しばらく、ミアは考えているようだった。
「そうですね…あの…私お役に立てるか解りませんが大丈夫でしょうか?」
「回復役でポーションを使ってくれるだけでも戦闘に集中できるから大助かりだよ」俺は笑顔で答える。
「良かった。安心しました。では、お手伝いさせて頂いても宜しいですかラグナシアさん?」
「大歓迎だ、一緒に頑張ろうなミア」
わしわしとミアの頭を撫でてやった。
「あう、くらくらします」
「そう言えば自己紹介がまだだった。コイツは俺の相棒でヴァルキュリアって言うんだ宜しくな!」
そう言うと、ヴァルキュリアを指差す。
「宜しくお願いしますヴァルキュリアです!」
そう言うと敬礼のポーズをヴァルキュリアが取る。
「あはは、面白い方なんですね」
クスクスとミアが笑う。
「ああ、問題児ではあるな」
「そうなんですか?けど私、ヴァルキュリアさんもラグナシアさんも二人共大好きですよ」
屈託の無い笑顔がどことなく愛嬌を感じさせた。
「お世辞でも嬉しいよありがとう」
また、わしわしと頭を撫でてやった。
「あうう、目が回ります」
「さて、話も済んだ事だし、レベル上げするか!ミア、この支給用の赤ポーションをセットしてくれないか?」
やり方を説明してミアにセットして貰う。
具体的な指示は以下の通りである。
モンスターをおびき寄せて半径約20〜30m程で俺が戦闘する。危なくなったら支給用赤ポーションで回復して貰うという簡単な作戦だ。
「じゃあ、行ってくる」そう言うと俺は、モンスターと思われる影に一目散に駆け出した。
50mほど走ると目前に現れるのは複数のスライムと思われるモンスター。その身体は液体と
呼ぶより大きなグミと言ったところか? 突進して来た勢いで1、2体凪払い走る。すると光子を放ち爆散した。
同胞がやられたのを見てスライム達が臨戦態勢に入る。その瞬間俺は続けて背を向けて走りだす。スライムは追いかけてきた。そうなるとスライム達の動きは襲ってくる一択となり単調だ。後ろに注意を払いつつ飛び跳ねてくるスライム視野に捉える。跳ねてしまえば空中での方向転換は不可能となる。読みやすい攻撃を回避しながら空中への不可避の一撃。また、その周辺にいる毛玉のモンスターを引き連れミアの元へと向かった。
「凄いです!あんなに速く」
ミアは、俺の戦闘に魅入っている。さながらミアにとってはショーを観るようなものなのだろう。
「私のご主人様ですからね」
ふふふと笑みを浮かべながらヴァルキュリアはミアに向かって格好つけるのだった。