過去の記憶
※作者はたびたびスランプに陥ります、ご注意ください※
※主人公がころころ変わります、ご注意ください※
家は首都の暗い路地裏に異次元空間を発生させ建っている。
『異能』の力を持たない者は見えないようになっているし、入ろうとすれば神隠しにあう。
『異能』の力を持つ者は既に僕を含めて四人だけとなっていた。
「母さん、シア姉。帰ったよ・・・」
気が重い僕は家に帰ると、母親と姉に声をかける。母さんは振り返ると姉の手に持った黒猫に視線を送る。姉は”それ”を生き返らせようと必死だった。
「なんで!なんでよ!?」
”それ”は僕らの父、アルバード・ウェリアスの獣化した姿であった。
体はぐったりとしており、生気がない。姉は自身の持つ治癒能力を”それ”に使い続けている。
母さんは悲しそうな目をしているが、もとより覚悟があったようで絶望の表情はしていない。
「ねえ、シュー・・・」
いつの間にか治癒を放棄し僕を見つめている紅い瞳。銀色の髪によりさらに強調されて強く光る。
「貴方のあの能力で治せるんでしょう?早く・・・」
動けない、動かない。
「さあ、早く治して・・・」
確かに、治せた・・・。せめて死んでしまう前なら。
「早く!」
姉からスッと視線を外すと母さんに向き直る。
「母さん、ごめん」
そっとぬくもりが頭を覆う。しっかりと抱きしめられた中でも僕は泣けなかった。
僕と父親の仲は悪い。もうとてつもなく悪い。顔を見せれば殴り合い、名前が出れば吐き気を催す。
なぜかと聞かれると虐待されたからと答えるしかない。
父は姉を愛し、母は僕を愛した。父はそれが気に入らなかったのだろう、三歳より僕は虐待を受けていた。
それが終わったのは七歳の頃、僕の力が発現して父親が傷を負った。
父親は暴力を振るうことはなくなったが、僕は家を追い出された。母さんに。
二人が殴りあいになったことが原因だ。双方とも大怪我を負い、姉に治された。
母さんは僕を守った、遠ざけるという選択で。
僕は父親が嫌いで、姉も嫌いだった。代わりに母さんに愛情を求め、注いだ。
十歳になったある日、母さんから手紙が届いた。
『アルが死にそうなの、助けて』
ただそれだけで、僕は迷った。迷いに迷い、やっと決心したのが今日。母さんの願いだからと自分に言い聞かせ家に帰った。
父親は『異能の使いすぎ』によって獣化しすぎたツケが回ってきたのだろう、体が耐え切れなかった。
姉の治癒により生きながらえていたのだろう、僕が帰る数時間前には生きていたらしい。
「貴方のせいで死んだのよ」
「もう少し早く来れば」
「クズ」
姉はそんな言葉をかけ、父親が死んだ翌日には息を引き取った。
母親は家族を二人失ったことで心が壊れた、もう治らないほどに。
手は尽くした、だけど”時間の流れは変えることができなかった”。
でも僕は母さんがいればそれでよかった、生きてさえくれればそれでよかった。
だけど・・・
母さんは死んだ、首を吊って。
絶望が僕を襲う、そばにいてくれた者はもういない。
悲しみが僕を襲う、抱きしめてくれた者はもういない。
そんな僕に・・・母さんが死んだことである異能が発現した。
もともとの僕の能力は『生者の時間を巻き戻す』こと、そして『時間の波』で攻撃すること。
新しい異能は『理を生み出す力』。
だから僕は・・・自身の時間を・・・巻き戻した。
-近況-
前話と同日投稿により省略