【続編・前】「婚約破棄のご挨拶にしては、芝居がかっていますわ」そう言い放った私は今更何を言われても聞き入れません!〜証拠もなく捨てられた令嬢、冷酷皇帝の契約妻になって見返します!?〜
「――エルスタイン王国より、外交使節団が到着いたしました」
謁見の間に響いた侍従の声に、わたくしは特に気にも留めず優雅に一礼した。祖国からの使節団など、皇后として何度も応対してきた案件の一つに過ぎない。
だが、使節団の列の最後尾に見知った顔を見つけた瞬間、わたくしは思わず眉を上げた。
「――あら?」
そこにいたのは、かつての婚約者グレアムと、彼の隣で控えめに俯くマーガレットだった。二人とも、随分とやつれた様子で、着ている衣装も以前ほどの華やかさはない。
「イ、イザベラ..…いや、皇后陛下。此度は、その、随行員として同行させていただいた次第で....」
「随行員、ですって......?」
わたくしが片眉を上げると、グレアムは分かりやすく肩を縮こまらせた。かつて堂々と婚約破棄を宣言していた面影は、もはや見る影もない。
「随行員にしては、随分と場違いな装いでいらっしゃいますわね。本来の使節団の方々は、もう少し身なりに気を遣っていらっしゃるようですけれど」
「そ、それは……その、旅費の都合もあり」
「旅費の都合で外交使節団に紛れ込むというのも、随分と斬新な発想ですこと?」
痛烈な皮肉に、周囲の官僚たちが咳払いを堪える様子が見て取れた。マーガレットに至っては、真っ青な顔で終始俯いたままである。
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謁見の後、庭園に呼び出したわたくしの前で、二人は殊勝な顔をして頭を下げた。
「陛下、いえ.......イザベラ様。あの節は、本当に申し訳ないことをいたしました」
マーガレットが涙目でそう切り出す。実に見事な演技である。前世でも、こういう手合いの涙は幾度となく見てきた。
「あら、随分と殊勝でいらっしゃること。それで、本日はその謝罪のために、わざわざ随行員に紛れ込んでいらしたのかしら?」
「そ、それだけではございません。イザベラ様さえよろしければ、その……昔のよしみで、少しばかりお力添えをいただけないかと......?」
「力添え、とは?」
「じ、実は男爵家の財政が、その、少々厳しい状況でして.......」
なるほど、と合点がいく。反省の言葉の裏に隠された本音は、結局のところ懐事情である。分かりやすいにもほどがある。
「グレアム殿下も、随分と痩せられましたわね。国での評判はいかがかしら?」
わたくしが水を向けると、グレアムは苦しそうに視線を逸らした。
「その、王太子の座は、弟に譲ることになった。今は、其の……閑職に就いている」
「あら、閑職.......それは随分と、殿下らしからぬ響きですことね?」
皮肉を込めて返すと、グレアムはぐっと言葉に詰まった。
「マーガレット様は、婚約はどうなりましたの? てっきり、殿下と幸せな家庭を築いていらっしゃるものと思っておりましたけれど」
「そ、それが……婚約は、白紙に戻ってしまいまして.......」
「あら、それは意外ですことね? あれほど熱烈に殿下を射止めていらっしゃったのに.......」
「わ、わたくしたちも、色々と誤算がございましたの……!」
歯切れの悪い答えに、わたくしは内心でため息をついた。おおよその経緯は想像がつく。婚約破棄の代償として社交界での評判を落とし、結局は互いへの熱も冷めていったのだろう。因果応報とは、実によくできた言葉である。
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「イザベラ.......頼む! せめて、多少の援助だけでも........昔のよしみというものが――」
「昔のよしみ、と仰るけれど、殿下? わたくしを証拠もなく断罪なさったのは、その『昔』の出来事の中でも、一番印象深い部分でしてよ」
「そ、それは……当時は、その、状況が.......」
「状況のせいにして人を切り捨てておいて、状況が変わった途端に泣きついてくるとは、随分と都合の良いお考えですこと」
淡々と切り返すわたくしに、マーガレットが慌てて割り込んできた。
「わ、わたくしたちは、心から反省しておりますの! ......本当に、深く深く」
「反省なさっているなら、まずは財政難の原因からお伺いしましょうか? 放漫な浪費と、無計画な人事、そのあたりが主な原因かしら、ね」
「な、なぜそこまでご存知で……!?」
「あら、隣国の内情くらい、把握しておくのは皇后として当然の務めですもの。それに、殿下方の浪費癖は婚約者だった頃から存じ上げておりましたわ」
痛いところを突かれたらしい二人が、揃って言葉を失う。かつての余裕はどこへやら、今や見る影もない。
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そんな押し問答を、静かに眺めていたヴィクター陛下が、ゆっくりと歩み出た。
「――随分と、面白い話をしているようだな」
「......っ!? 陛下.....!?」
グレアムとマーガレットの顔が一気に強張った。
「エルスタイン王国の使節団に、我が皇后への不躾な無心を働く随行員が紛れていたとは........これは看過できる話ではないな」
「へ、陛下、我々はただ――」
「昔の縁を頼るならば、まずは礼を尽くすところから始めるべきだろう? 断罪した相手に手のひらを返して援助を求めるなど、外交儀礼としても甚だ不作法だ」
「そ、それは、その……」
「言葉に詰まるということは、自覚はあるらしいな? ならば話は早い」
淡々と、しかし有無を言わさぬ迫力で告げられ、二人は完全に言葉を失った。周囲に控えていた官僚たちも皇帝の静かな怒気に思わず息を呑んでいる。
「本使節団の随行員名簿から、両名の名は正式に除外させてもらう。以後、我が国への立ち入りは慎重に扱わせてもらおうか」
「そ、そんな……!?」
「あら殿下、閑職どころか........次は入国審査すら通らなくなるかもしれませんわね?」
わたくしが微笑んでやると、グレアムはがっくりと肩を落とした。マーガレットに至っては、もはや涙すら乾いてしまったようである。
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「――陛下、随分と容赦がございませんことね」
二人が衛兵に連れられていくのを見送りながら、わたくしはそっと呟いた。
「そなたを傷つけた者を、易々と許すつもりはない........それにーーー」
「.......それに?」
「援助を求めるにしては、随分と態度が悪かった。誠意があるなら、まず金の無心より先に、頭を下げるべき相手を間違えている」
「あら、意外と辛辣でいらっしゃること」
「そなたに似てきたのかもしれないな」
からかうように返された言葉に、わたくしは思わず笑ってしまった。
「褒め言葉として受け取っておきますわ」
「そのつもりで言ったのだが......?」
「ちなみに陛下、殿下方への処遇.......少々厳しすぎるのではという声も出るかもしれませんわよ?」
「厳しさで言えば、証拠もなく人を断罪した罪の方が余程重いと思うがな」
「それもそうですわね。反省したふりで甘い顔をされるより、よほど筋が通っておりますわ」
軽口を交わしながら、庭園の風が心地よく吹き抜けていく。ようやく決着がついたと思っていた過去の因縁は、こうして呆気なく片付いた。
だが――
「......イザベラ様!!! 火急の報告が.....!!!」
侍女の慌てた声に、わたくしとヴィクター陛下は同時に振り返った。
「隣国の間者と思われる人物が、宮廷内に潜伏している疑いがございます!!!」
穏やかだった空気が、一瞬で張り詰める。過去の因縁が片付いたと思えば、今度は新たな影が忍び寄っているらしい。
「――どうやら、まだ気を抜ける状況ではなさそうですわね?」
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宮廷に潜む間者の正体、そして皇帝暗殺.....!?を巡る新たな陰謀など、まだまだ書きたいことがございます!よろしければ作者フォローもしていただけると、更新のたびにお知らせが届きますので見逃し防止にぜひ!
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