第43話 その後夜祭パーティーは誰のため?
――後夜祭パーティー会場
ビシッとタキシードを着ていざ出陣!
「さあシーナ、行くわよ」
「お任せください、お嬢様」
私が右手を腰に当てて肘を曲げると、お嬢様が左手をそっと添えてきました。
おっふ。また一段と育ったお嬢様のお胸が……むふっ
「シーナ、顔が緩み過ぎよ」
おっと、いけません。キリッ!
この扉の先には若く愛らしい花がいっぱいいるのです。無様は晒せません。
――ガチャッ
ドアキーパーが扉を開けると、私はお嬢様をエスコートしながら奥へと進む。途端に会場中の視線が集まってきましたよぉ。
ふっふっふっ……これをぶち壊せるのかと思うと腕が鳴ります。
「まあ、マリーン様がいらしたわ」
「いつ見てもお美しいわぁ」
「ちょっと待って、あのエスコート役!」
「えっ、漆黒様じゃない!?」
「きゃーっ、うそーっ!?」
さらに会場の奥へと進むと、周囲が黄色い悲鳴で騒がしくなりましたが……いったいどうしたのでしょう?
「皆さん浮ついていらっしゃいますね」
どうにも皆さん、学生気分が抜けていないようです。ここは社交場ですのに。
「原因が何を言っているのよ」
私が呆れていたら、お嬢様に苦笑いされてしまいました。なぜに?
「まあだけど、シーナのおかげで私の体面は保てたわ」
なんだかお嬢様の機嫌が良いです。お嬢様はどうしてそんなに満足げなのでしょう。うーん、分かりません。
主にご令嬢が頬を染めて羨望の眼差しを向けているのに関係があるのでしょうか?
お嬢様がウィンクして「漆黒様の面目躍如ね」とおっしゃいましたが……私、何かしましたか?
「これでヴァルト様の鼻も明かせたわ」
おかしいです。これからが私の筋肉の見せ場のはずなんですが。
「……シーナ、何度も言うようだけど、腕力で解決するのはナシだからね?」
「も、もちろんでございます」
なぜバレた(汗)
ダラダラ汗を流してたら、お嬢様が、はぁ……っと深いため息を吐き出されました。
「いいことシーナ、この後夜祭パーティーを楽しみにしている無関係の生徒も大勢いるの」
「じゅ、重々承知しております」
お嬢様以外の人間など、どうなろうと知ったことではありませんけどね。
「会場で暴れるようなバカなマネは絶対禁止よ」
「そ、そ、そんな不埒なマネをするわけがないではありませんか」
いけません。お嬢様に疑いの目を向けられてしまっています。なんとか誤魔化さないと。
「あっ、お嬢様、お飲み物をお持ちいたします。そこでお待ちになられてください」
「ちょっとシーナ、お待ちなさい!」
お嬢様の制止を聞こえないフリで振り切って……あっ、こっちを見てるご令嬢方の群れ発見。あそこの中へと身を潜めましょう。
「「「きゃーっ、漆黒様よぉ!」」」
あらあら、ご令嬢方に揉みくちゃにされてしまいましたよ。むふっ。
おっと、こちらの緑髪のお嬢さんは大人しい顔をして中々のお胸……むむっ、こっちの清楚可憐な乙女も素晴らしいお尻です。みな甲乙付け難いですねえぇ。
あっ、言っておきますが、これも全て不可抗力です。私には微塵もやましい気持ちはありませんよ。
いやぁ、ご令嬢方が熱烈すぎて、包囲から抜け出すのが大変でした。ぐふふ。
「あら、シーナ様ではありませんか」
「これはビクトリア様」
やっとの思いでご令嬢の包囲を突破すると、ちょうど蒼玉の美姫の前に出ました。
昼間とは違う薄い青紫色の清楚なドレス姿はとても美しい――のですが、手には山盛りに料理が載せられた皿を確保しています。相変わらずですね。
ですが、これは好都合ですよ。
まずはビクトリア様とヒューロン王子の婚約破棄イベントを阻止しないといけませんからね……って、おや?
「ヒューロン王子とご一緒ではないのですか?」
「ははは、エスコートを断られまして」
ビクトリア様が乾いた笑いを浮かべましたが……
「エリー様をエスコートするとおっしゃられて」
「それではビクトリア様のエスコートは?」
「いません」
パーティーにご令嬢がエスコートなしで入場するなど、これほど屈辱的なことはありません。
ビクトリア様への仕打ちに、ヒューロン王子への怒りが込み上げてきましたよ――
『ヒューロン・オーシャン第三王子殿下のご入来〜』
ドアキーパーの宣言に、皆の視線が一斉に扉に向かいました。
――ガチャリ
扉が開き、そこにヒューロン王子がエリー様と……って、エリー様いないじゃないですか。
えっ、お一人で入場ですか?
まさか、フラれたんですか?
なんか泣きそうな表情をされてますよ。
ここでエリー様をエスコートして、ビクトリア様に婚約破棄を突き付けるつもりだったのでしょうに。
それなのに、一人寂しく入場だなんて。
これじゃただのピエロじゃないですか。
あっ、いけません。涙が出てきそうです。あまりに憐れ。怒りも萎んでしまいましたよ。
「ロン様?」
「ビ、ビ、ビクトリア!?」
ビクトリア様に声をかけられ、ダラダラ冷や汗流してヒューロン王子が視線を泳がせまくってます。見るからに狼狽えてますねぇ。
ビクトリア様が不思議そうな顔をしてらっしゃいます。てっきりエリー様をエスコートしているのだとばかり思っておられたのでしょう。
「あのぉ、エリー様は?」
それは聞かないであげてぇぇぇ!
ほら、ヒューロン王子もぐはって胸を抑えて吐血しそうになってるじゃないですか。私、滂沱の涙が止まりません。
『ヴァルト・オーシャン第二王子殿下並びにエリー・シルフラ男爵令嬢のご入来〜』
――ガチャリ
扉が開き、現れたのはヴァルト殿下とその腕にぶら下がるピンク頭。
今度こそ真打ち登場です。
これでついに役者が揃いましたよ!




