第40話 そのデートは誰のため?
「それでは、婚約はまだ解消されておられないのですね」
私はまず一番気になるところを確認しました。
「んぐ、んぐ……はい、そうなんです」
私がお裾分けしたフランクフルトにかぶりついたビクトリア様……一生懸命に咀嚼する姿が可愛いです。
「あの後、ヒューロン王子は特に何も言ってこなかったんです。お父様にも婚約解消を願い出てみましたが、一蹴されてしまいました」
うーん、あれでヒューロン王子との婚約が破談になっていれば、問題は解決していたんですが……そうは上手くいかないものですね。
「ビクトリア様はどうしてもヒューロン王子との婚約を解消されたいのですか?」
「もぐもぐ……このままだと、私は断罪されて破滅してしまうんです」
今度は焼きトウモロコシを頬張るビクトリア様……食べ方が小動物みたいで愛らしいです。
「信じていただけないと思いますが、私は転生者なんです」
ビクトリア様は私に全てを打ち明けてくださいました。まるで懺悔でもするかのように。
その内容は、ピスカ・シーホワイトやエリー様、マシュー氏が話していたものと、おおよそ同じでした。
「この世界は恋愛を楽しむ乙女ゲームと同じなんです」
「そして、ビクトリア様はその中で悪役令嬢という役目が与えられていると?」
「はい……そして、悪役令嬢はヒロインを虐めて婚約者から断罪されるのです」
悪役令嬢の末路は修道院送りや国外追放、果ては死刑まであるのだとか。たかが痴話喧嘩で罪が重すぎでしょう。
「なるほど……それで、ビクトリア様は断罪される前に、婚約を解消なさろうとされているのですね」
「はい」
こくりと頷くと、ビクトリア様は私が抱えている食べ物の中からクレープをすっと抜き取られました――って、あれ?
さっきお渡したクレープはどこに?
えっ、既に胃袋の中なんですか!?
ビクトリア様……意外と食いしん坊なんですね。でも、そんな腹ペコなビクトリア様も素敵です。
「ビクトリア様のお考えはよく分かりました」
「自分で話しておいてなんですが……信じてくださるのですか?」
不安そうなビクトリア様に私は笑って頷きました。確かに荒唐無稽です。誰しも今の話は眉唾物だと、にわかには信じられないでしょう。
「確かに今のお話の全てを理解できたわけではありません」
しかしながら、私はビクトリア様以外にも同様の単語を口にする複数の人物を知っております。
「ピスカ・シーホワイトが似たようなことを申しておりましたので」
「あっ、ピスカさんはやはり私と同じ転生者だったのですね」
「ええ、他にもエリー・シルフラ様も、ですね」
「やはり……そうでしたか」
それからビクトリア様は考え込むようにしばし沈黙し、それからおもむろに……パクリ。手にしたクレープにかぶりつきました。
まだ食べるんですか?
「もぐもぐ……私は運命には逆らえないのかもしれませんね」
ビクトリア様はポツリと呟く。憂を帯びた眼差しがとても痛々しい……のですが……
「ごっくん……悪役令嬢として断罪される未来を受け入れるしかないのでしょうか」
「ビクトリア様……」
頬にケチャップやコーンやらがついてますよ。クリームなんておヒゲみたいになってますし。悲壮感を漂わせておいて、けっこう余裕ありますよね。
この方、意外と逞しい?
いや、そんなビクトリア様も可愛いんですけどね。なんだか世話の焼けるお方です。
「口の周りがクリームだらけですよ」
「えっ、あっ、ありがとう」
ハンカチで口を拭き拭きして差し上げたら、ビクトリア様が羞恥に顔を真っ赤にされました。まあ、淑女にあるまじき振る舞いですからね。
ですが、そんな恥ずかしがって顔を赤らめるビクトリア様はとっても愛らしくって……ゴクリ、ちょっとだけなら良いですよね?
むくむくと沸いてくる悪戯心に抗えず、私はビクトリア様の頬についていたケチャップをぺろりと舐め取りました。
「シ、シーナ様!?」
ビクトリア様の顔がますます赤くなり、完全にゆでダコ状態です……ふふ、可愛いです。
「ビクトリア様、悲観するのはまだ早いですよ」
こんな愛らしい令嬢を私は見捨てたくありません。
「自らをヒロインと名乗っていたピスカ・シーホワイトは今どこにいます?」
「あっ!?」
「断罪されるはずだったマリーンお嬢様は?」
もし、運命に逆らえないのなら、この二人の位置関係は違っていたはずなのですから。ならば、ビクトリア様も同じようにお救いできる道が必ずあるはずです。
「希望を捨てないでください」
「シーナ様……そうですね。まだ諦めてはいけませんよね」
ビクトリア様が薄っすらと微笑まれました。
良かった。少し元気になったみたいですね。
「せっかくのお祭りなんですし、今は楽しみましょう。」
「きゃっ、シーナ様!?」
私が手を引っ張って強引に進むと、ビクトリア様が少し険のある目で睨んできました。が、顔は笑っています。
「あっちにはゲームの店もあるみたいですよ。行きましょう」
「はい!」
私達は手を繋いだまま出店を渡り歩きました。ビクトリア様の表情も明るくなり、完全に元気を取り戻したようです。
憂いた顔も美しかったですが、ビクトリア様はやはり笑顔の方が素敵なようです。
よーし、このままデートを楽しんでもらいましょう――と思ったら、視界に見覚えのあるピンク頭が飛び込んできました。
「せっかくのお祭りなんだから、もっと楽しみましょうよ」
「エリー、あまり大っぴらに遊ぶのはまずいって」
「なによ、マシューは私とデートするのが嫌だって言うの?」
あれ?……エリー様とマシュー氏ではありませんか。




