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第39話 その学園祭は誰のため?


 ――ドンッ!

  ――ドンドンッ!


 雲一つない青い空に花火が打ち上げられました。

 響き渡る大きな音が学園祭の始まりの合図です。


 後夜祭を含めて今日より三日間、生徒主催によるお祭りが盛大に開催されます。


 たくさんの馬車が、次々に学園の正門を抜けていきました。生徒だけではなく、その保護者も来訪します。そのため、敷地内は馬車でごった返していました。


 現在、お嬢様と私を乗せたアトランテ家の馬車もその中に混じって敷地内を進んでおります。


「お嬢様、お休みになられても良かったのではありませんか?」


 当初は武力に物を言わせて、全てを粉砕して後夜祭パーティーを中止に追い込もうと考えておりました。これが問題を解決するのに一番確実で手っ取り早いですから。


 ところが、「学園祭を楽しみにしている無関係の生徒の迷惑でしょ」とお嬢様に嗜められてしまいました。お嬢様以外の者がどうなろうと構いませんのに。


 しかし、武力行使を禁止されるとなると、敵地の中に行かねばなりません。それは得策ではないでしょう。


 ならばと、次善の策として仮病で休もうと提案した次第です。ですが、戦略的撤退などお嬢様の矜持が許さなかったようです。


「ダメよ」


 お嬢様は私の具申を一顧だにしてくれませんでした。


「おめおめと泣き寝入りなんてアトランテ家の武名に傷が付くわ」


 やはり、マリーンお嬢様も武門の娘。敵を前にして背を見せるのをよしとしない超タカ派のようです。


「そうはおっしゃいますが、何か打開する策はあるのですか?」

「だからシーナにエスコートをお願いしたんじゃない」


 私が心配しているのはヴァルト殿下の策謀なのですが、お嬢様に伝えるべきか未だに悩んでおります。


 だいたい、私の証言以外に証拠がないのです。殿下の陰謀の裏付けも取れていません。信憑性に欠けると言われればそれまでです。


「分かりました。何が起ころうとも私がお嬢様を必ずやお守りいたします」


 まあ、どうにもならなくなったら、私が絶対の暴力で全ての盤面をひっくり返せば問題ありませんね。


「不肖シーナ・サウス、お嬢様のエスコート役を立派に遂行してみせましょう」

「うん、頼りにしてるわ」


 私に向けるお嬢様の柔らかい微笑みは信頼の証し。お嬢様の信頼を裏切るわけにはまいりません。必ずや殿下達の陰謀を阻止してやります。


「それじゃ、行ってくるわね」

「いってらっしゃいませ」


 お辛いでしょうに、お嬢様は笑って気丈に振る舞いながら会場へと向かわれました。


「それでは私も行きますか」


 お嬢様の姿が見えなくなったのを確認すると私は侍女服に手をかける。


 バサッと一気に剥ぎ取り下から現れたのは、ここ最近お馴染みの白い詰襟の制服姿です。


「ふっ、今日の変装も完璧(バッチリ)です」

「……」

「私の男装も板についてきましたね」

「……」

「……どうして黙っているんです」


 おい御者、いつもみたいに突っ込みなさい。


「いえねぇ、どうせ、あっしが何か言っても無駄かなぁと思いやして」

「どうして諦めるのですか。諦めたらそこで試合終了ですよ。見なさい、青空に輝く太陽を。ほら、太陽神もご照覧あそばされているんですよ」


 太陽神様はとっても熱い男なんですよ。『どうせ』とか『無駄』とか聞いたらすっ飛んできちゃいますよ。

 『諦めんなよ。頑張れ、頑張れ、お前ならできる絶対できる。千回ダメでも次の千一回目で上手くいくかもしれないだろ。成功するまでチャレンジする者が勝利者になるんだ!』って説教されちゃうんですよ。


 だからこそnever give up!

 私もまだまだ諦めませんよ!


 というわけで、明後日の後夜祭までに学園祭で殿下達の陰謀を阻止しようと思います。どうすれば良いかは全く分かりませんけど。


 とにかく前進あるのみです。


 この道を行けばどうなるものか危ぶむなかれ。


 踏み出せばその一歩が道となる。

 迷わずいけよ、行けば分かるさ。


 まずは、校舎へ続く露店の並びを抜けて……


「きゃーっ、麗しの漆黒ベラネーロ様よぉ!」

「漆黒様ぁ、私達の店にいらしてぇ!」


 ああ、左右の愛らしいご令嬢達が手を振っているではありませんか。ここは桃源郷だったのでしょうか。


 くっ、前に進まねばならないのに、勝手に足が露店へ向いてしまう。これはいけません。美しい花達の誘惑が凶悪すぎます。


 この道は危険でした。


 申し訳ないが私は先を急がねばならないのです。後ろ髪を引かれましたが、私は心の中で謝罪しながら美しい花達を振り払いました。


 私にはやらねばならないことがあるのです。


「そこにおられるのはシーナ様ではありませんか」

「これはビクトリア様、このような場所で奇遇ですね」


 私が葛藤していたら、ビクトリア・レイク様に声をかけられました。


 ビクトリア様は目を丸くして驚いたようでしたが、すぐにくすりと微笑まれました。なんと神々しいまでに美しい笑貌でしょう。周囲の愛らしい花達も恥じらうというもの。


「これほど人がひしめく中でお会いできるとは、ビクトリア様には運命を感じます」

「私もシーナ様にはまたお会いしたいと思っておりました」

「それは嬉しいお言葉です」

「ふふ、ご一緒してもよろしいでしょうか?」


 グヘヘ、こんな美少女とデートできるなんてラッキーですね。


「味気なかった学園祭も、あなたとならとても楽しいものになりそうです」

「あら、既にお祭りを存分に楽しまれておられたのではありませんか?」

「おや、そう見えますか?」

「はい、だってその食べ物……」


 おう! なぜか両腕に大量の食糧を抱えているではありませんか。

 くっ! 美しき花達にテンプテーションをかけられてたようです。


「ふふふ、シーナ様は本当におモテになられるのですね」


 ビクトリア様にクスクス笑われてしまいましたよ。


 だけど、ここでビクトリア様に出会えたのはラッキーです。なんせ、ビクトリア様は今回の問題の一端なんですから。


 ヴァルト殿下の目的はヒューロン王子の失脚だったはず。そのため、ヒューロン王子の婚約破棄の現場を押さえて、不始末の責任を問う手筈となっています。


 ならば、その婚約破棄そのものを妨害できれば、ヴァルト殿下は潰せるはずです。


 これは我ながらナイスアイディアではありませんか。


 今日は一日、ビクトリア様に張り付きましょう。これはあくまでも、ヴァルト殿下の計画を阻止するため仕方なくなんです。


 あくまでも、お嬢様をお救いするためなんですから。


 決して美少女とのデートに浮かれているわけではありませんよ。


 ホントですよ?


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