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第36話 その尾行は誰のため?


「マシュー氏!」


 私は出会い頭にマシュー氏の顔面を右手で鷲掴みにしました。


「これはいったいどういうことなんですか!」

「ちょっ、いきなりアイアンクローって――イダダダダダッ!」

「あなた、まだ私に隠し事をしてましたね」

「うっそーん、そのまま片手で持ち上げるのぉ!!」


 そして、宙ぶらりんになったマシュー氏が絶叫しました。


「事と次第によっては、このまま握り潰しますよ」

「待って待って、マジで痛い! 死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ! これ死んじゃうやつだから! 僕の頭がリンゴみたいにクラッシュしちゃうから!」


 不本意ですが、まだ死なれても困ります。手を離すとドスンッと地面に落ちたマシュー氏が「イテテテテ」とお尻を摩りながら立ち上がりました。


「それで、今度はいったいなに?」

「ビクトリア様のことです」

「ビクトリア君?」

「彼女、転生者ではありませんか」

「えっ!?」


 マシュー氏が目を見開いてびっくりしました。


「それ、本当?」

「彼女の口から乙女ゲームや悪役令嬢といった単語が出てきましたよ」

「マジかー。ごめんごめん、それは本当に知らなかったんだ」


 演技をしているようには見えませんが……逆に嘘くさくもあるんですよねぇ。


「だけど、そっかー、ビクトリア君も同じ転生者だったのかぁ」

「お嬢様のために近づいたのに、私の方が利用されたみたいでした」

「なるほどね。自分が悪役令嬢だと自覚しているなら、あえてその道を進もうとはしないよね」


 マシュー氏が私に提案した策——それはビクトリア様に悪役令嬢となってもらい、マリーンお嬢様をお助けするというものでした。


 ですが、当人が悪役令嬢の役割を知っているなら、この作戦は最初から上手くいくはずもありませんでした。


「だけど、これで全て合点がいったよ」


 なに一人で納得してるんです。きちんと全部話しなさい。


「ビクトリア君はヒューロン殿下を愛しているように僕には思えてならなかったんだ」


 あっ、それは私も感じました。


「それなのに、どうも別れようとしている節があったのが不思議でね」


 マシュー氏の話によれば、学園に入学するまで仲が良かった二人が急に疎遠になったのは、エリー様と出会うより前からだそうです。


 どうも、ビクトリア様の方からよそよそしくなって距離を置かれるようになったのだとか。


「きっと、その辺りで前世の記憶を取り戻したんじゃないかな」

「なるほど……好きになってしまった後で、自分が断罪される未来を知ってしまったのですね」


 それでは、ビクトリア様の目的はヒューロン王子との婚約を穏便に解消することでしょうか?


「ビクトリア様のことは理解できました」

「うん、ちょっと痛ましいよね」


 ヒューロン王子と出会う前に記憶が戻っていれば、最初から婚約を結ばずビクトリア様も苦しまずに済んだでしょうに。


 しかし、私は別のことが気になりました。


「ですが、ヒューロン王子の方はどうなんでしょう?」

「えっ、ヒューロン殿下?」

「ええ、王子はビクトリア様に想いを残されておられるように見えました」


 隠しておられたようですが、私に対して嫉妬しているのが見え見えでした。無理してビクトリア様を突っぱねておられるんじゃないでしょうか。


「へ、へぇ、そうなんだ。そ、それは気づかなかったなぁ」


 ですが、それ以上にコイツの怪しさが一番気になります。


「マシュー氏、何か知っているんじゃないですか?」

「い、いや、僕は何も知らないよ」


 怪しい。絶対、何か隠してます。


 私がジトッと睨めば、途端にマシュー氏はダラダラと汗を流してキョロキョロしだしましたし。


「そ、それよりも、これからどうするか考えた方が良いんじゃないかな?」

「…………そうですね。いまはお嬢様をいかにしてお救いするかの方が大事でした」


 暴力で(とっちめて)吐かせようかとも思いましたが、マシュー氏が真実を語るか疑わしいので止めました。


「僕に良い考えがあるんだけど……」

「なるほど……」


 適当に頷いてマシュー氏の話に合わせながら、どうすればコイツから真実を引き出せるか思案しました。


「……という作戦はどうかな?」

「試してみる価値はありますね」


 まあ、いくら考えても私ではマシュー氏を出し抜けそうにありません。ならば力技で解決すれば良いのです。


「参考にさせていただきます」


 ぜんぜん聞いてませんでしたけどね。どうせ実行するつもりゼロですから。


「ありがとうございました」

「いやいや、また何かあれば相談に乗るから」


 それではと一礼して挨拶を交わすと私達は別れた……と見せかけて、十分に距離を取ってから私はくるりと(きびす)を返しました。


 そして、気配を消すとマシュー氏の後を追う。


 マシュー氏は何かを知っている。それは間違いありません。ですが、尋ねたところで真実は語らないでしょう。


 ならば、面と向かって真実を明かさない相手には、後ろから探ればいいんです。


 ――いました!


 マシュー氏の姿を発見すると私は校舎の壁を一気に走って登り、屋根の上へと飛び乗りました。そこから俯瞰して、マシュー氏の動向を探る。


 ちょうどマシュー氏がキョロキョロと辺りを見回しているところでした。動きが怪しいですね。尾行とかを気にしている動きです。しかし、上から見られているとは夢にも思っていないでしょう。


 マシュー氏が進む先はどんどん人気がなくなっていきます。これはいよいよ疑わしいですね。彼はいったい何を企んでいるのでしょう。


 さあ、マシュー氏、あなたが隠しているものを暴いてやりますよ。


「遅くなって申し訳ありません」

「いや、俺も…ま来たとこ…だ……問題ない」


 どうやら誰かと落ち合っているようです。が、上からだと木が邪魔で見えません。それに声も通らず聞き取りにくいですね。


 私は少しも躊躇わず壁を駆け下りると、音もなく着地すると近くの茂みに隠れました。


 マシュー氏はいったい誰と会っているのでしょう。そう思いながら私はそっと覗きました。


 そこにはマシュー氏の他に一組の男女がいたのですが……って、あれは!?


「マシュー、誰にも付けられてはいないな?」

「はい殿下、周囲への警戒は怠っておりません」

「気をつけてね。悪役令嬢に私達がグルだってバレるわけにはいかないんだから」

「自分から転生ヒロインとバラしておいて良く言うよ」


 ヴァルト殿下とエリー様ではありませんか!?


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