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第34話 その痴話喧嘩は誰のため?


 ――私がビクトリア様に接触を開始してから一週間後。


「聞いたぞ、マリーン」


 ついに恐れていたことが起きてしまいました。


「エリーの制服を切り裂いたそうではないか!!」

「それは一部の事実だけを大袈裟に吹聴しているだけですわ」

「やったのは事実であろう!」

「ですから、きちんと私の話をお聞きくださいませ」

「マリーン、見損なったぞ!」


 ヴァルト殿下がお屋敷に怒鳴り込んで来たのです。


 私がビクトリア様とイチャイチャ……ゴホンッ、会っている間にマリーンお嬢様がエリー様の制服をズタズタにする事件が起きてしまいました。


 お嬢様の話からすれば、エリー様が明らかに校則に反する制服を着てこられたのだそうです。それがとんでもない改造制服だったようで。


 そこで、お嬢様はご自分の予備の制服を与えて、改造制服を破り捨てたのだとか。


「あのような破廉恥な服装、あまりに非常識ですわ」


 ちなみに、どんな改造だったかと言いますと……ジャケットも丈を詰め、スカートは超ミニ、シャツもへそ出しと原型を留めていなかったらしいです。


 なんですか、淑女にあるまじきエロ破廉恥な改造は……ちょっと見てみたかったかも。


「だからと言って切り裂くのはやり過ぎだろう」

「訂正いたしますが、切り裂いたのではなく廃棄したのですわ。もはや再利用できる状態ではありませんでしたので。それに、新しい制服はお渡ししました」


 お嬢様、珍しく激昂しておられます。この間もそうでしたが、どうにもエリー様のこととなると感情的になられているような?


「だが、もう少し話し合いで歩み寄ることはできなかったのか?」

「話が通じないのはエリー様の方ですわ」


 まあ、話が通じる相手ではありませんよね。みんな平等だとか、愛は世界を救う(ラブ・アンド・ピース)だとか、聞く限りでは頭の中がお花畑な発言ばかりらしいので。


「言い方に問題はあるが、内容はそこまで酷くはあるまい」

「どこがでございますか」

「エリーの口癖の『暴力は良くない、みんな仲良く』とは確かに幼稚に聞こえるが、良く考えてみれば理に適っている」


 えっ、殿下、それ本気でおっしゃっておられます?


「これは現実主義者のヴァルト様とも思えぬ発言ですわね」

「外交でもって周辺諸国と友好関係を結べば軍備縮小も可能だろう。軍隊は金食い虫だ。その維持にどれ程の税金が投入されていると思っている。軍縮が叶えば無駄な出費を抑えられ、税を減じて民も潤うだろう」


 なんかもっともらしいこと述べておられますが、殿下はぜんぜん理解しておられません。


「そんなのは机上の絵空事ですわ」


 さすが、お嬢様は分かってらっしゃる。


 力こそパワー!


 力があれば全てを解決できるのです。


 うるさい周辺諸国は強力な軍事で黙らせる。

 言うことを聞かない臣下は強権で黙らせる。

 うだうだ言う反抗的な国民は力で黙らせる。


 力こそがジャスティス!


 ゆえに、軍備を縮小するなどとんでもない。むしろ、もっともっと軍を強くしなければ。富国強兵こそ君主の道。


 そうですよね、そうおっしゃりたいのですよね、お嬢様。


「確かに無用な軍備の拡張には私も反対ですわ」


 そ、そんな、お嬢様!?

 力・イズ・パワーではなかったのですか。


「ですが、周辺諸国との調和を図るためにはそれなりの軍備が必要ですわ」

「だから、そこは外交でなんとかすれば良いと言っているのだ」

「外交とは国の利益と安寧を守ることを目的とした他国との交渉ですわ」

「そうだ。外交は話し合いで平和的に解決するための手段だろう」

「殿下は外交をまったく理解しておられません」


 いつになく熱くなっておられるようです。いつもの笑顔は消え、お嬢様はキッと殿下を睨まれました。


「外交は剣を弁舌に置き換えた戦争なのです。話し合いを有利に運ぶには、相手より優位な状況にいなければなりません。そのためのカードの一つが軍事力なのですわ」

「カードの一つであって全てではなかろう。他にも手札はある」


 お嬢様の熱に当てられたのでしょうか、殿下はどこかイライラしたご様子です。声も少し大きくなっておられます。


「殿下は兵に十分な武器や糧食を持たせず戦場へ送り出されますの?」

「そのような愚かなマネはせん!」

「ですが、外交官にはそれと同じことを強いられるのですわよね?」


 ああ、お嬢様のおっしゃりたいことが分かりました。確かに軍事力は外交カードの一枚でしかありません。ですが、それはとても強力なカード。いわばジョーカーです。


 それ無しで外交へ行けとは、手足を縛って兵を戦場に送り出すようなもの。


「戦争においても指揮官の能力によって勝敗は決する。外交官が有能であれば軍縮しても問題はあるまい」

「戦術面ではそうかもしれませんが、戦略においては戦う前に勝利する努力をするものですわ。それは君主の責務。それは外交においても同じですわ」


 私でもお嬢様の方に理があると分かるのです。ヴァルト殿下がそれを理解できないとは思えません。


「この程度のことも分からないなど……ヴァルト様もエリー様に毒されて頭にお花畑でも造園なさったのではありませんの?」

「俺は別にエリーと親しくしているわけではない!」


 うわぁ、お嬢様が挑発するものだから、殿下まで頭に血が上ってしまったではありませんか。


「どうだか」

「なんだと!」

「先日、カフェテリアでエリー様とずいぶん親しげに過ごされていたと噂になっておりますわよ」

「それはデマだ」

「私に求婚しておきながら、エリー様に鼻の下を伸ばされて……みっともない」

「なんだと!」


 あー、もう、痴話喧嘩は止めてください。これ、どうやって収拾をつければいいんでしょう。助けを求めて隣を見たら、殿下の従者も目が死んでしまっておりました。


 私達にはチベスナ顔になって、お二人を見守ることしかできないというわけですね。


 けっきょく、お嬢様と殿下は完全にケンカ別れしてしまいました。これ以降、殿下はお屋敷を訪れることはなくなりました。


 学園から流れてくる噂もエリー様が殿下に急接近しているとか、お嬢様と殿下の仲が険悪になったとかばかりです。


 これはいけません。早くビクトリア様に悪役令嬢として頑張っていただかないと。


 さっそく、明日にでも変装して学園に潜入いたしましょう――ですが、勘違いしないでくださいね。これはあくまでも、お嬢様をお助けするためなのです。


 決してお嬢様から乗り換えようとかしてるわけじゃありませんからね?


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