第30話 その錯綜する噂は誰のため?
「エリー君から聞いたんだが、ここは乙女ゲームの世界らしいんだ」
マシュー氏の話によると、この世界とは違う異世界が存在するのだそうです。
エリー様もマシュー氏もそんな異世界『ニッポン』で生まれ育ったんだそうです。ですが、死んだ後にこちら側に転生してきたんだとか。
乙女ゲームとは、ヒロインを操作して美形男子『イケメン』なる『攻略対象』と呼ばれる男子をあの手この手で我が物とする遊びなんだそうです。
そんな男漁りゲームに興じてるんですか。ニッポンの女性達とは、ずいぶん獰猛な肉食系じゃないですか。そう言えばピスカ・シーホワイトも猛珍獣でした。あんなのばかりなんですか。恐ろしい世界です。
「何を隠そう僕も攻略対象の一人なのさ」
なんだかマシュー氏が自慢げにおっしゃっておられます。ですが、何がそんなに嬉しいのでしょう?
攻略対象とは肉食獣に捕食される子羊なんですよね。食われて喜ぶなんてマゾなんでしょうか。どうやら、ニッポン男児どもは草食動物ばかりのようです。
ああ、そうですか。肉食女子と草食男子でバランスを取っているんですね。だからニッポンはうまくいっているのですか。変態の国ニッポン。なんて恐ろしいんでしょう。
「よく分かりませんが、ピスカ・シーホワイトの話よりは理解できたような気がします」
「ピスカというと前作のヒロインのデフォ名だったかな」
「前作?……でございますか?」
「ゲームも一つじゃないってことだよ」
話を総合すると、ピスカ・シーホワイトは一作目の乙女ゲームのヒロインで、エリー様は二作目のヒロインなのだとか。
「それでね、マリーン君は一作目の悪役令嬢であって、二作目には登場しないんだ」
エリー様のおっしゃっていた二作目の悪役令嬢はお嬢様ではないとはそういう意味でしたか。
「では、エリー様をイジメてると噂されるのはビクトリア様のはずなのですね」
「理解が早いね。賢い女性は好きだよ」
いちいちウィンクしないでください。気持ち悪い。
「だから、今の状況はおかしいんだ」
「やはり、お嬢様は何者かに嵌められているのでしょうか?」
「それは分からないけど、マリーン君にエリー君をイジメる動機はないよね。彼女はヴァルト殿下と良い仲だもの」
ヴァルト殿下と良い仲?
あんな塩対応ですのに?
「この間もイチャイチャしてたし、学園内じゃラブラブだよ?」
えっ……いったいどういうことでしょう?
これ……私が知らないところで実は二人は?
いやいや、そんなはずありません!
だって、お嬢様はいつも殿下に塩対応なはず……はず……ですよね?
それとも私の前では恥ずかしがっているだけで、実は既にお二人の関係は進んでいたのでしょうか?
「こうしてはいられません。早くお嬢様を見つけて真相を究明いたしませんと」
「あっ、ちょっと待って。せめて名前を……」
無視です無視。
なんか後ろでマシュー氏が「あれ、秘密を共有すると女の子と親密になれるって『これを読めばたった3秒でモテモテ王に君もなる!』に書いてあったのになぁ」と訳の分からないことをほざいておりますが……あなた、中身が残念すぎてモテる要素が見当たりませんよ。
その後もお嬢様を探しながら幾人かの生徒に聞き込みを行いましたが、頭のおかしな言動をする者はおりませんでした。
どうやらマシュー氏だけが異常だったようです。安心しました。
校内に「おっふ、眼鏡っ子キターーー!!」なんて叫ぶ男子生徒で溢れていたら、片っ端から抹殺してやるところでした。
まあ、学園を女の園に変えるのも悪くはないですけど。
さて、噂を集めてみて分かりましたが、学園では様々な噂が錯綜しているようです。
①お嬢様とヴァルト殿下がイチャイチャしている。
②逆にお嬢様とヴァルト殿下は仲が悪い。
③エリー様が男を侍らせ、ヒューロン王子に色目を使っている。
④エリー様はヴァルト殿下にまで魔の手を伸ばしている。
⑤ビクトリア様とヒューロン王子の仲は険悪(婚約破棄間近)。
⑥ビクトリア様がエリー様をイジメている。
そして、最後に⑦マリーンお嬢様がエリー様をイジメている。——というもの。この最後の噂が現在学園でもっとも流布されているようでした。
むぅ、お嬢様がチンケなイジメなどするはずもないでしょう……と信じてはおります。
ですが、④番目の噂が私の胸に小さな棘となって刺さるのです。なんせ恋は盲目と申しますし、お嬢様はヴァルト殿下に対し無自覚な恋心を抱いているようですから。
この閉鎖された学園でいったい何が起きているのか、私、気になります。
ここはデキる優秀な専属侍女シーナ・サウスが噂の真偽を確かめてやりましょう。そして、お嬢様を貶める人物を暴き出してやりますよ。
「ちょっと、エリー様!」
と、いきなりの叱声に私の意気込みが挫かれました。
いったい何ですか――って、この声どこかで聞き覚えがありませんかね?
「なんですの、その慎みのない振る舞いは!」
これはお嬢様の声!?




