第29話 その暴露話は誰のため?
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
馬車を降りたマリーンお嬢様に深々と腰を折って最敬礼。
「うん、帰りはいつも通りの時間に迎えに来てね」
ひらひら手を振ってお嬢様が校内へと消えていく。ここから先は我々のような使用人が足を踏み入れる事ができない領域です。
しかし、この先はお嬢様に仇なす者達の巣窟。
どうやら、ここ最近お嬢様に良からぬ冤罪を被せている者達がいるみたいです。お嬢様がイジメなど低俗な振る舞いをするはずがないではありませんか。
きっと、お嬢様は誰かに嵌められているに違いありません。だから、あれほど注意してくださいと申し上げましたのに。
ですが、どんなに心配しても私は無力です。お嬢様の無事を祈り、見送る事しかできません。
「だがしか~し、この程度で諦めてはお嬢様の専属侍女など務まりません!」
私は侍女服に手をかけるとバサッと一気に剥ぎ取った。
下から現れたのは三つ編みおさげに眼鏡をかけた制服姿。
どこからどう見ても、図書館に居そうな読書好き美少女的な地味仕様。デキる専属侍女は前回の轍を踏まないのです。
「あんのぉ、ホントにそのお姿で学園に潜入されるんでやすかい?」
完璧です……と思ったのですが、御者が微妙な表情で尋ねて来ました。何故に?
「むぅ、どこかおかしなところがありますか?」
「おかしいっちゃおかしい、似合ってるっちゃあ似合ってやすかねぇ」
どっちなんですか!
「まあ、何でもいいんじゃねぇですかねぇ」
御者め、ぞんざいな受け答えしおって。
「もう少しキチンと意見を述べなさい」
「いやぁ、どうせ何着たって騒ぎになるのは変わらないと思いやして」
ちっ、使えないですね。
とにかく学園には潜入できました。変装は成功と言っていいでしょう。ちょっと男子から熱い視線は感じますが。主に胸とお尻に。
まあ、それは些細なことです。私の顔を見たらすぐに興味を失って去っていきましたし。おさげ眼鏡の地味仕様は効果があったようです。
それに、大事なのはマリーンお嬢様の噂の真偽です。本当にお嬢様はエリー・シルフラ嬢を迫害しているのか。
おっ、ちょうど軽薄そうな男がいましたよ。あれならペラペラしゃべってくれそうです。
「もし、そこの金色の長髪で……」
「ん? 僕のことかな、美しいレディ」
キザったらしく前髪をかき上げてんじゃねぇ。しかも、その後「おっふ、眼鏡っ子キター」って何ですか。気持ち悪い。
「ええ、そうです。さっきから私のお尻と胸ばかり凝視しているあなたです」
「ふっ、君のお尻と胸があまりに魅力的すぎるから目を奪われてしまったのさ」
開き直ってあっさり認めやがりましたよ。へこたれない男ですね。こんな残念な男なのに、外見だけはやたら輝いています。完全にムダキラキラです。
「僕の名前はマシュー。アカン子爵の嫡男さ」
「あなたの名前など聞いてはおりません」
お前の名前などどうでもいいんですよ。だから塩対応したら「ツンデレキタ――ありがとうございます」って、訳も分からんお礼をされました。冷たくされて喜ぶとかマゾですか?
ピスカ・シーホワイトやレッド・ブラックシーも大概でしたが、今年のエリー様や目の前の男もかなりぶっ飛んでます。ホントにこの学園は大丈夫なんでしょうか。私、とっても不安になって来ました。
世の為、人の為、お嬢様の為にエリー様とこの男を今のうちに抹殺しておいた方が良いかもしれませんね。
それではさっそく……
「それで、美しいレディは僕に何を聞きたいのかな?」
まあ、コロスのは情報を引き出してからにしましょう。固めた拳を解いてマシューなる下心満載そうな男に学園の噂について尋ねてみました。
「最近、学園で不穏な噂を耳にしたのですが……」
「ああ、エリー君のことか」
おや? 何やら知っている様子。
これは当たりを引きましたか?
「もしやマリーン君が彼女をイジメている噂を気にしているのかい?」
「――!?」
大当たりです。
「そうです、そうです、その噂です」
「うーん、それが不思議なんだよねぇ」
不思議……ですか?
「うん、エリー君の話だとマリーン・アトランテは一作目の悪役令嬢で、二作目の悪役令嬢はビクトリア・レイクらしいんだ」
「はい?」
「だからね、二作目ヒロインであるエリー君をマリーン君がイジメるのはおかしいんだ」
何を言ってるか意味不明ですね。この男もやべぇヤツだったんですか?
「ああ、ごめんね。これじゃ何を言っているか理解できないよね」
「それが分かっているなら最初から分かる言葉を使ってください。ブヒブヒ言われても人間様には理解できないんです。あなた脳みそ豚なみなんですか。ああ、すみません豚さんに失礼でしたね」
氷点下の視線を送ったら「ぶひっ、眼鏡っ子の罵倒ありがとうございます。サイコーの萌えマシュー感激!」って喜びやがりました。気持ち悪い。
「これはここだけの秘密にして欲しいんだけど……」
だけど、こいつ無駄に美形なんで、口の前で人差し指を立てる仕草が意外とサマになってます。まあ、逆にイラッときましたけど。
「見ず知らずの私にお話してもよろしいのですか?」
「ふふ、君にだけ特別だよ」
なんだか胡散臭いですね。
「実は僕もエリー君も転生者なんだ」
内容はもっと胡散臭かったです。




