第27話 その浮気は誰のため?part2
――また一ヶ月が過ぎました。
相変わらずヴァルト殿下の背中には哀愁が漂っております。屋敷を訪れるたびに肩を落とすお姿に涙が止まりません。
お嬢様からお預けされているのですから無理もないでしょう――生殺しに耐えてよく頑張った。感動した!
殿下の苦しみは私にも、よーく分かりますよぉ。なんせ私もご褒美はまだ頂いておりませんからね。
どうして私までお預けなんです。そんなのあんまりです。わおーん!
マリーンお嬢様、なんてイケズなんですか!
最高のオモチャを手にしたお嬢様は楽しそうにニッコニコ。オモチャにされている私と殿下は半ば死んだ目です。
「話は変わるが……マリーンは俺の弟を知っているよな?」
今日も口説き落とす無理を悟ったようですね。殿下は話題を変えてきました。
「ええ、もちろんですわ。第三王子のヒューロン殿下のことですわよね?」
「ああそうだ、その異母弟のヒューロンだ」
私の記憶が確かならば、ヒューロン王子はお嬢様の一つ年下だったはずです。
「ヒューロンは三年ほど前に婚約している」
「お相手はレイク侯爵令嬢ビクトリア様だったと記憶しておりますわ」
「そうだ、その『蒼玉の君』だ」
ほう、ヒューロン王子の婚約者はビクトリア・レイク様なんですか。巷で蒼玉の君ともてはやされている、マリーンお嬢様に匹敵すると噂のめっちゃ有名な美人令嬢ですよ。
彼女の瞳がとても美しい青色らしく、それで『蒼玉の君』と称えられているんだそうです。まあ、マリーンお嬢様の方が美人ですけど。絶対。会ったことないから知らんけど。
「ヒューロンとビクトリアが今年学園に入学したのも知っているな?」
「もちろん存じ上げておりますわ」
ほう、蒼玉の君はお嬢様の一つ年下ですか。ちょっと興味が湧きますねぇ。
「その二人が疎遠になっていると噂を耳にしたのだが、マリーンは何か聞いているか?」
「いえ、申し訳ございません。私はそのような流言は存じ上げません」
ふむ、お二人は仲違いをされておられると。ですが、お嬢様は不思議そうにしておられます。
「お二人はとても仲睦まじいと聞き及んでおりましたが?」
「ああ、マリーンの言う通りヒューロンとビクトリアの仲は悪くなかった……学園に入学するまでは、な」
なんか含みのある言い方ですねぇ。
うーん、どうしてヒューロン王子とビクトリア様について、お嬢様にお話しになられるのでしょう。なんか嫌な予感がしますよ。
「入学してから何かございましたか?」
「これはここだけの話にしてもらいたいのだが……」
殿下がチラッと私に視線を向けられました。うーん、私がお邪魔なんでしょうか。王家の暗部に関わるとか?
「ヴァルト様、シーナなら大丈夫。漏らしてよいかの判断はできますわ」
「ふむ、マリーンがそこまで言うなら……」
あゝ、お嬢様は私のことをそこまで信用なさってくださっておられたのですね。シーナ感激!
「どうもヒューロンの奴が浮気をしているみたいなのだ」
で、ヴァルト殿下が暴露したのは王家の暗部ではなく、王家の恥部でした。
「それはまことですか!?」
「うむ、どうも本当らしい」
ヴァルト殿下の説明によると、ヒューロン王子は入学してから婚約者のビクトリア様を避けるようになったとのこと。
「信じられません。ビクトリア・レイク様は我が国でも一番と呼び声も高い美姫ですのに」
「俺は一番の美姫はマリーンだと思っているぞ」
殿下に禿同です。
「そんなお世辞はもうよろしいですわ」
「本心なんだが」
褒め言葉が通じず殿下が憐れ過ぎます。殿下、ファイト!
「まあ、ビクトリアが美しい令嬢であることは誰も否定できないのは事実だ」
「しかも、かなり優秀であるそうですわね?」
「今年の新入生総代を任されるくらいな」
「それでもヒューロン殿下は浮気をなさっているのですか?」
ふむ、婚約者が優秀すぎて「こんな可愛げのない女はイヤだ」ってパターンですかね?
「ビクトリア様は意地悪な方とか?」
「いや、俺の知る限り努力家で真っ直ぐな性格だな」
「浪費家なところがおありなのでしょうか?」
「慎ましい……と、俺は思うが」
「うーん、それでは何か異常性癖をお持ちとか?」
「まあ、どんなに美人でも異常性癖はごめんだな」
なして二人して私を見るんですか?
私の性癖は異常ではありませんよ?
「だが、彼女に限って言えばそれはない。およそ非の打ち所がない令嬢だ」
「それではいったい何の不満がおありなんですの?」
「俺もさっぱり分からん」
ここまで完璧な女性ですと、嫌うのが難しいです。残された可能性は、ヒューロン王子が自尊心の強いバカとかですかね。
ああ、もう一つ可能性がありました。ビクトリア様がお嬢様に匹敵する完璧令嬢というのが事実ならば、限りなく可能性は低いですけど。
それはビクトリア様より王子の泥棒猫が……
「あと考えられるのは、ヒューロン殿下の浮気相手がビクトリア様よりも魅力的な女性であるケースくらいでしょうか?」
「ふむ、それについては俺も予想してな……」
この口ぶりからするに、ヴァルト殿下は既にヒューロン王子のお相手を確認したみたいですね。超美人のビクトリア様を出し抜く猫さんとはどれほどの女性なんでしょう。わたし、気になります!
「調査したところ同じ新入生の娘であった」
「それでどのような方なんですの?」
「それがな……その相手が相手だったのでマリーンに話を持ってきたのだ」
マリーンお嬢様もご存知の人物なのでしょうか?
「その者はな、スリズィエのごときピンク色の髪をした少女なんだが……」
ピンク……ですか。
どうにもピスカ・シーホワイトを思い起こさせる色ですね。まったく、嫌なことを思い出してしまいました……って、あれ?
最近どこかで同じようなことを考えたような……
「まさかとは思いますが、その方とは――」
おや? お嬢様には心当たりがおありなのでしょうか?
「シルフラ男爵令嬢のエリー様でしょうか?」




