第21話 その種明かしは誰のため?
「それではレッド・ブラックシーに近づき恋人のフリをされたのは、最初からアドリア様の復讐を果たすのが目的だったのですか?」
翌日、何事も無かったように東屋で優雅にお茶を楽しむお嬢様に話を切り出しました。
単刀直入に聞かないと、お嬢様はずっとはぐらかしそうでしたので。
「お見舞いに行った時に、アドリアからブラックシー先生の悪行の数々を教えてもらったの」
お嬢様はあのクソ野郎がアドリア様以外にも手を出していると知って彼に近づいたそうです。
「まあ、私もレッド・ブラックシーを許せませんが、お嬢様自らそこまでする必要があったのですか?」
「令嬢達は事件を公にできないから協力してくれないもの。だから、犯人から証拠を入手する他に方法が無かったの」
それに、お嬢様が近くにいれば、その間は新たな被害者が出ないと踏んだそうです。お嬢様お優しい!
「最悪、私が囮となってブラックシー先生の悪業を暴く事も視野に入れていたのよ」
「それはあまりに危険ではありませんか?」
「これでも私は武闘派で知られるアトランテ家の娘よ。他の令嬢と違って自分の身を守れるわ」
「お嬢様の力量は存じておりますが、模擬戦と実戦は違います」
お嬢様、それはいくらなんでも無謀というものではありませんか。シーナは不安でなりません。
確かにお嬢様は武術にも秀でておられます。ですが、実戦経験は皆無。訓練でいかに優秀な者でも、本番では空気に呑まれて実力の半分も出せないケースなど幾らもあるのです。
「実際、お嬢様は今回の騒動で二人の男子生徒からねじ伏せられておられたではありませんか」
「あれはわざとよ」
お嬢様はひらひら手を振って大丈夫、大丈夫と私の諫言にも堪えた様子がありません。
「どうしても私に暴力を振るったという事実が必要だったから演技してただけよ」
「ホントですかぁ?」
「ホント、ホント」
まあ、お嬢様のおっしゃられるように、彼らは高位貴族の令嬢を乱暴に扱ったとして廃嫡されたそうです。私のお嬢様に無体を働いたのですから、これでも罪は軽いくらいですけど。
「おかげで、彼らに関してはヴァルト様の思惑通りとなったじゃない」
「そうですね、お嬢様の方も殿下のお力添えがあって目的を果たせたわけですし」
それにしても回りくどい策を弄したものです。あんな有害でしかない側近など、私だったら物理的に首ちょんぱしてやりますよ。
「私もブラックシー先生の犯罪行為を暴けず、いよいよ本当に最悪の手段を取らないといけなかなって悩んでいたから本当に助かったわ」
「その矢先にヴァルト殿下の婚約話が来てしまったんですね」
「最初あれには焦ったわ。ヴァルト様と婚約が決まってしまったら最悪の手段が取れなくなるもの」
最終手段ではお嬢様とブラックシー先生が恋人関係であると表沙汰になりますから、殿下と婚約状態でそれをやればお嬢様も不貞を働いたとお咎め無しとはいかなくなります。最悪、お嬢様個人だけではなくアトランテ伯爵家にも累が及んでいたやもしれません。
「ところがお見合いの席でヴァルト様が私に提案をしてきたの。ヴァルト様の計画に加担するなら令嬢達の名誉を守り且つレッド・ブラックシーの悪業を公に裁いてくれるって」
「あの時すでに殿下はお嬢様の目的を知っておいでだったのですか!?」
私もぜんぜん気づいていなかったのに!
「ええ、ホント驚かされたわ。事前にかなり調査をしていたようよ。ヴァルト様は粗野な振る舞いをされていて大雑把な方に見えるけど、かなり緻密な策謀家みたい」
「うーん、今にして思えばご自分の側近達を嵌めている時の殿下はかなり腹黒そうでしたね」
どうやら、お見舞いから今回の婚約破棄まで全てヴァルト殿下の描いたシナリオ通りなのだとか。
「ふふふ、周囲には私と婚約しているように誤解させたり、ピスカ様とは距離を取っているのに親密だと情報操作したり、その中でもブラックシー先生の悪業を調べ上げてくださっていたの」
そして、レッド・ブラックシーを拘留している間に被害者女性を直接ご自身で訪ね回って聞き取り調査をしてくださったのだそうです。
「彼女達の素性を隠した状態で名誉を守りながらブラックシー先生を裁くと誓約して聞き出してくださいました」
「個人的な事件に普通は王族が出張るはずもありませんから、そこまでされれば被害者女性も証言せざる得なかったでしょうね」
「彼女達だってできれば先生を裁いて欲しかったでしょうし、それを王族のヴァルト様が確約してくれれば安心できたでしょう」
あらましを語り私の疑問をお嬢様は解いてくださいました。
「しかもヴァルト様はアドリアと想い人との橋渡しまでしてくださったのよ」
「意外と細やかな配慮をされるお方ですね」
「アドリア、幸せそうだったわ」
本当に良かったとお嬢様が微笑む。
お嬢様のレッド・ブラックシー恋人問題から始まり婚約破棄騒動にまで発展した今回の事件も、これで全てが解決です。
悪は滅び、これにて大団円……なのですが――
「お嬢様、一つだけ納得がいきません」
「うん?」
むっとした顔で不満を口にしても、お嬢様は不思議そうな表情をして何も分からない無垢な令嬢を演じておられます……が、そんな可愛い顔しても私は誤魔化されませんからね!
「どうして事前に真相を私に打ち明けてくださらなかったのですか!」
「ああ、そんな事?」
そんな事ですって!?
私にとってお嬢様は全て!
絶対の忠誠をお嬢様に捧げておりますのに。
それなのに、レッド・ブラックシーへの恋人擬態も婚約破棄の策謀もお嬢様は私に教えてくださらなかった。私まで騙したのです。
「このシーナはそんなに信用できませんか?」
「何を言っているの。私は誰よりシーナを信じているわよ」
「だったらどうして!?」
「信じているからこそよ」
「はあ?」
私が間の抜けた声を漏らすと、お嬢様はくすくすと笑われました。
「信じているからこそ教えなかったの」
「おっしゃっている意味が分かりかねます」
「だってシーナってば、私のことが好きでしょ?」
「はい、三度の飯より大好きです!」
断言しよう――
諸君、私はお嬢様が好きだ!
諸君、私はお嬢様が好きだ!
諸君、私はお嬢様が大好きだ!
お嬢様の笑顔が好きだ!
怒った顔が好きだ!
驚いた顔が好きだ!
困った顔が好きだ!
寝顔なんて大好物だ!
唖然とした顔も良い!
間の抜けた顔も可愛い!
自室で、居間で、食堂で、中庭で、お風呂で、グフッ、トイレで、ゲヘヘへ……
ありとあらゆるお嬢様が大好きだ!
「シーナ、イヤらしい変顔になってるわよ」
はっ! いけません、変態が顔に出てしまいました。




