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第20話 その復讐は誰のため?


「お待たせしました……()()()()()()()()


 ああ、ついにクソ野郎のいる牢に着いてしまいましたよ。


「このような薄暗く、汚い牢屋の中で、先生もさぞ心細かったでしょう」


 もう大丈夫ですよとお嬢様が優しく微笑むと、檻の中の男が喜色を浮かべ鉄格子に取りついてきました。


「ああ、愛しのマリーン、僕を助けに来てくれたんだね」


 この恥知らず!


 あれだけお嬢様を(おとし)めておきながら、その本人に救ってもらおうだなんて。ですが、お嬢様が殿下と交わされた約束は、きっとレッド・ブラックシーを助け出すものなんですよね?


 こんな男のために、お嬢様が汚れ役を買うなんて……レッド・ブラックシー、やはりキサマは万死に値します!


 牢から出た瞬間、私の目にも止まらぬ音速拳フラッシュピストンマッハパンチで息の根を止めてくれる!


「ご安心ください。既に殿下とは話をつけてありますわ」

「ありがとう、僕の愛するマリーン」


 レッド・ブラックシーが檻越しに手を伸ばすとお嬢様がふっと笑った。


 その笑貌は妖しくも美しく、私もレッド・ブラックシーも一瞬ほぅっと我を忘れて見惚れてしまいました。あゝ、お嬢様マジ美しい。


()()()()()()()()――」


 お嬢様も右手をゆっくり持ち上げていく。自分の手を取ってくれる、そう信じてレッド・ブラックシーは嬉しそうに手を伸ばしました。


 が、お嬢様の手はレッド・ブラックシーの手を華麗にスルー。


 親指を立てたかと思ったら首を横に切って、その親指を下に向け(サムズダウンし)て言い放ったのです。


「――地獄へ落ちろスケこまし!」

「「なっ!?」」


 えっ、えっ、なんですかそれ!?


 天使のように穢れを知らぬ品行方正なお嬢様がそんな下劣な振る舞いを!――マジ、カッケェ!


「ど、そうしたっていうんだマリーン!?」

「まだお分かりになられませんか?」


 先程までの美しい微笑が、にや〜っとどんどん黒く変貌していきますよ!?


 いえ、美しいのはそのままなんです。だけど、それだけに黒い笑いに迫力が増してこわっ! こわっ! マジこわっ!


「私が先生みたいな軽薄男に引っかかると、本気で思われていたのですか?」

「なん…だ…と」

「先生に近づいたのは、親友のアドリア・ベンガルを傷つけた罪を償わせるためです」

「ご、誤解だ。僕とアドリア君との間には何も……」

「お黙りなさい!!」

「ひっ!」


 お嬢様の威にビビってクソ野郎(レッド・ブラックシー)が薄汚れた石畳にみっともなく尻もちをつく。


「あなたが嫌がるアドリアを力尽くで手込めにしたのは知っているのよ」

「ま、待ってくれ。彼女とは本当に合意で……」

「合意のはずないでしょう。アドリアには他に好きな人がいたし、私はあの子から先生に付き纏われていると相談を受けていたのよ……その直後にあの子は自殺未遂をしたんだから」


 お嬢様のレッド・ブラックシーへ向けられる目が、汚物でも見るような蔑む目になって……私ちょっとゾクゾクしちゃいます。


「可哀想なアドリア。穢れた身体じゃ好きな人と添い遂げられないって泣いていたわ」


 貴族には後継の問題があります。


 生まれた子供が自分の血筋かどうかが分からなければなりません。ですから、貴族令嬢にとって純潔や身持ちの固さはとても重要な要素。


 アドリア様が悲嘆するのも無理からぬ事です。


 一人の令嬢、それも教え子を不幸のどん底に落とす本当に最低な野郎ですね。


「他にもかなりの人数の娘が被害にあったのも調査済みです」


 一人じゃないし!


「今回の騒動で最も罪が重いのは、偽証で私を陥れようとしたピスカ・シーホワイトです」


 あの後、殿下の取り調べでピスカ・シーホワイトが主張していた側近達の婚約者から受けていた虐待も嘘であると判明しました。


 かなり重い罪に問われるのは間違いありません。


「ですが、ブラックシー先生は以前から女生徒を食い物にしてきた罰を受けていただきます」

「そんな!」

「今までは女生徒側が事件を表沙汰にできず泣き寝入りしておりました。ですが、殿下自らが被害者の情報を公にしないと誓って調査してくださっています」

「それでは、お嬢様が殿下と取り交わした交換条件と言うのは!?」


 驚愕する私の言葉にお嬢様はこくりと頷く。


「そうよシーナ、レッド・ブラックシーの悪事を暴く協力をしてもらったの」

「くそッ! 最初から僕を騙していたのか!」


 全容を知って最低最悪な女の敵が悔しがっておりますが、完全に自業自得でしょうが。


「先生こそ何人もの令嬢を騙し、誑かし、時には暴行を加えてきたでしょう」

「ぼ、僕はどうなる?」

「ピスカ様は修道院送りが決まりました」


 ピスカ・シーホワイトはこの国でもっとも厳しい監獄とも称される修道院へ送られることがきまりました。そこで生涯懺悔しながら生きていかねばなりません。


「そして、彼女に扇動されたヴァルト様の元側近の方々は退学処分が下されております」


 もっとも、彼らには実家でより重い罰が待っております。しかし、そうなるとレッド・ブラックシーに下される罰はいかなものになるのでしょう?


「それに準じて、先生の処分は懲戒免職が決定しました」


 軽い! その罪はあまりに軽すぎです!!


 レッド・ブラックシーもほっと安堵してるじゃないですか。


「もっとも、それは今回の騒動に対する処罰です。先生が令嬢達に行った余罪が次々に判明しているとかで、殿下の話では極刑はもはや免れないそうですよ」

「なっ!?」


 安堵した表情が絶望に一変。


 く、黒い!?


 安心させておいて突き落とす……上げて落とすお嬢様が黒すぎです!


 でも、そんなお嬢様が世界一ス・テ・キ(ポッ)


「た、助けてくれマリーン!」

「そうですわねぇ」


 泣きながら情け無い顔で助けを請うブラックシーをにやりと淑女からかけ離れた笑い顔で見下ろすお嬢様……


「お芝居でしたが先生とは恋人だった仲です。情も僅かではあってもありますし、殿下にお願いはしてみますわ」

「ああ、ありがとうマリーン」


 希望を見出し喜色を浮かべるレッド・ブラックシー。ですが、冷たい目を向けたままお嬢様が黒~い微笑みを浮かべる。


「そうですねぇ、少しでも長く生きられるよう処刑の順番は一番最後にしていただきましょう」

「えっ?」

「ふふふ、一人、また一人と目の前で処刑される人を眺めながら、生きている喜びと実感をしっかり噛みしめてくださいませ」


 処刑される者達を見ながら自分の順番を待つんですか!?


 それってめちゃくちゃ恐怖じゃないですか!?


 いけません。私ゾクゾクしてきちゃいました。

 ああ、やっぱり私のお嬢様が世界で一番です。


「それでは先生、ご機嫌よう」


 優雅にカーテシーをしてお嬢様はくるりと背を見せる。


「ま、待て、待ってくれマリーーーーーーン!!!」


 檻の隙間から手を出しレッド・ブラックシーが叫ぶ。


 ですが、自分の名前が牢獄の中を木霊する中、もはや用はないとレッド・ブラックシーを一顧だにせず、お嬢様は足音だけを残してそのまま歩き去ったのでした。


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