第五章 焼却炉の熱
小章① 社長の喚問
裁判は佳境を迎えた。 御子柴の申請により、ついに権藤剛社長の本人尋問が採用された。 逃げ隠れできなくなった権藤は、白いスーツに派手なネクタイという姿で法廷に現れた。その態度はふてぶてしく、反省の色など微塵もない。
御子柴が尋問に立つ。
「権藤さん。あなたは加盟店を『パートナー』と呼んでいますが、実際には『使い捨ての財布』と考えていたのではありませんか?」
「心外だな。俺は彼らにチャンスを与えたんだ。夢を見るチャンスをな」
権藤は足を組んで答えた。
「夢破れたのは彼らの実力不足だ。ビジネスは戦場だ。弱い奴が死ぬのは自然の摂理だろう?」
「では、産地偽装については? 消費者を騙し、加盟店に高値で売りつけたことは?」
「……あれは、安定供給のための措置だ。味は変わらない」
「味の問題ではありません! 信頼の問題です!」
御子柴は声を荒げた。 そして、最後の爆弾を投下した。
「これは、あなたの会社の裏帳簿です」
矢沢が命がけで入手したデータだ。
「加盟金の一部が、コンサルティング料という名目で、特定の『団体』に流れていますね。……指定暴力団『竜神会』のフロント企業に」
権藤の顔から余裕が消え、脂汗が噴き出した。 九条弁護士が「異議あり! 本件と無関係です!」と叫ぶが、裁判長は却下した。
「貧困者から搾り取った金が、反社会的勢力の資金源になっていた。これはもはや民事訴訟の枠を超えています。特別背任、および組織犯罪処罰法違反の疑いがあります」
傍聴席にいたマスコミが一斉に飛び出していく。 権藤は震える手で水を飲もうとしたが、コップを取り落とした。 ガラスの割れる音が、彼の帝国の崩壊を告げる鐘のように響いた。
小章② 白い城の崩壊
判決の日。 東京地裁は、原告側の主張を全面的に認めた。 契約の無効、および総額十億円の損害賠償命令。 さらに判決文の中で、裁判長は「被告企業のビジネスモデルは、加盟店の無知と窮状に乗じた極めて悪質な搾取構造であり、公序良俗に反する」と厳しく断罪した。
閉廷後。 裁判所の前で、沙耶がマイクを向けられていた。
「夫は帰ってきません。でも……夫の名誉は守れました。同じ被害に遭う人が、これ以上出ないことを祈ります」
その頃、二ブス・フード・リンクの本社には、警察の家宅捜索が入っていた。 権藤剛は詐欺および特別背任の容疑で逮捕された。連行される際、彼はカメラに向かって「俺は悪くない! 騙される方が悪いんだ!」と叫び続けていたが、その姿は哀れな道化でしかなかった。 九条弁護士もまた、反社との関与を知りながら隠蔽工作に加担したとして、弁護士会から懲戒請求が出されることになった。
『白雪』の店舗は次々と看板を下ろし、街から消えていった。 ブームという名の熱病は去り、後には借金の山と、廃墟だけが残った。




