〜■D21□Dコンニャク、婚約破棄は、夕食(ディナー)の後で……〜
……ここまで、お茶を濁してきましたが……
……今夜、心優しき私の《紅茶追放王子様》貴方に……
……私の飾らない真心を贈りましょう……
……貴方が、尊い涙を流すのならば……
……貴方が、その綺麗な心を痛めるのなら……
……私は、愛する貴方の事を……
ーーコンニャク、婚約破棄は、ーー
ーー夕食の後に、致しましょうーー
……ですから。今、この一時は……
……Tea For you(貴方のために紅茶を)……
ーー私は紅茶と貴方を繋ぐ架け橋でありたいのですーー
✾✾✾ ✾✾✾ ✾✾✾
……ああ。……熱い。……熱い紅茶で火傷したかの様だ。
……灰汁抜き蓮根(悪役令嬢)が俺の涙に触れた。
……俺の目元に……Kissをした。
『ー貴方の涙も笑顔も全てを私は受け止めたいー私は、そう思っています。貴方はー私の理想の王子様ー……そして、私は、生まれながらに《悪役令嬢》で御座います…そう、設定されております…コンニャク…婚約破棄の件は、今夜の夕食の後に致しましょう……』
……何故、そんな事を言う?
……俺は王子だと言うのにみっともなく泣いただろ。
……お前を救えないと。……臆病風に吹かれ。
……コンニャク、婚約を破棄してくれと。言ったんだぞ?
……コンニャク、婚約さえもまともに言えない。
……何故、怒らない?……何故、呆れない?
……お前の事が、怖い……と。言ったんだぞ。
……灰汁抜き蓮根(悪役令嬢)だろう!?
……俺の頬を叩くなり、俺を罵倒するなり、
……紅茶を浴びせかけるなり、しても良かったんだぞ!?
……そんな事をされて当然な程に俺は、お前を拒否した。
……拒絶した。……否定した。
……お前の事を深く傷つけただろう?
……なのに何故?お前は、膝を折った?
……何故、俺の前に同じ様に膝をついた?
……何故、俺の涙を掬った?
……何故、俺の目元に…Kiss…を、した…?
『貴方はー私の理想の王子様ー』
……俺は何の取り柄もない。
……落ちこぼれの第二王子だぞ?
……優秀で心優しく完璧な兄。……利発で愛らしい妹。
……皆、直接的には言わないが、俺は、知っている。
……王都の陰で、己がなんと言われているか……
……rotten tea leaves(ロットン ティー リーヴズ)……
……腐った茶葉の様な王子……だと。
……腐った茶葉なんか飲むから……
……頭も腐ってしまったのだと……
……ついた渾名は《紅茶追放王子様》……
……俺は、紅茶に出会う前は……
……《クチナシの王子様》と呼ばれていた……
……見てくれだけは良かったから……
……社交界に良く連れて行かれた……
……上手く話せないから黙って笑ってろ……
……愛想だけ振りまいていろと言われた……
……お前は口が悪いから人前では話すなと……
……国民は皆、俺の事を口無しだと思っている……
……口無しを、植物のクチナシになぞらえて……
……初夏になると社交界の連中から……
……沢山のクチナシの花が贈られてきた……
……花言葉は《喜びを運ぶ》……
……口無しの王子様に、喜びが運ばれます様にと……
……クチナシの花を贈られるたびに……
……喜びどころか、哀しくなった……
……自由に話す事も許されない……
……窮屈な王都での日々……
ーーそんな時だった。俺は、夢を見た。とても心地の好い夢を……其処は、天国だろうか?穏やかな春の様に暖かで、美しい花々が咲き乱れた中庭の様な処……色鮮やかな蝶に誘われた先に在った優雅なガゼボにその御方はいらした。太陽の様に輝く黄金の縦ロールがキラキラとしてとても綺麗だったのを憶えている。ホワイトアスパラガス(白い貴婦人)の様な華奢な指で白磁器のコーヒーカップ&ソーサーを持ち。優雅にコーヒータイムかと思いきや……香ってるく香りは、コーヒーの苦い香りでは無かった。
『…何だ?この麗しい香りは?…』
生まれて初めて嗅いだ香りに思わず声を出してしまい。しまった。と思った。
『ーあらー素適な王子様♪ごきげんよう♡』
その御方は、俺の声を気にする事なく太陽の様な黄金の縦ロールを輝かせて花が咲き誇る様な笑顔で優美に咲う。
ーーとても綺麗な御方だった。
……一目見て俺は心を奪われた。
『…貴女は…』
俺は、人前では話すなと言われた事も忘れ。
と言うか。此れは、夢の中だから。
話しても良いかと思い。
その麗しの御方へと声を掛けた。
『そうですねー紅茶の神様ーとでも申しましょうか♡』
その御方は春の木漏れ日の様な穏やかな声で、そう言った。その時、初めて俺は、夢の中でー紅茶の神様ーと共にお茶会をして紅茶を初めて飲んだのだ……。コーヒーカップ&ソーサーと思っていた白磁器の繊細なカップは、ティーカップ&ソーサーと言うのだと言っていた。
あの時の夢の中の様な白磁器の繊細なティーカップ&ソーサーで、俺は灰汁抜き蓮根(悪役令嬢)の優雅な夕食へと招かれた後に、食後の紅茶を飲んでいた。
…コンニャク、婚約破棄は、夕食の後で…と。
灰汁抜き蓮根(悪役令嬢)は、そう、言っていたが、本当に…コンニャク、婚約破棄、するつもりなのだろうか…?
無駄に豪奢なテーブルを挟んだ向こう側で、優雅に食後の紅茶を飲んでいる灰汁抜き蓮根(悪役令嬢)を見詰める。
改めてまじまじと見詰めて見ると太陽の様に輝く黄金の縦ロールといい……何となく。昔、夢に見たー紅茶の神様ーと、似ている様な気がしないでも無いな……。
……なんて、ボンヤリと思っていたら。
「ーふぅーさて、食後の紅茶も頂きました事ですし……」と灰汁抜き蓮根(悪役令嬢)が白磁器の繊細なティーカップ&ソーサーを優雅にテーブルへ戻し話し始めようとしたので、
「今晩の夕食の海老の紅茶葉炒めは、美味だったな!知らなかったぜ!紅茶の茶葉を炒め物に使うなんてな!まるで、アレだな!塩昆布みてぇだな!ハハハ!」
…………変に緊張して話を逸らしてしまった。
灰汁抜き蓮根(悪役令嬢)は、そんな俺を大きな目を瞬いて少し驚いた様に見詰め優しく微笑み返した。
そして「お気に召して何よりですわ♡」と言い。
一つ大きく息を吸って「ードルジェリン王国の第二王子ー《デージョ・ヴ・ドルジェリン》王子様…私…辺境伯爵令嬢ナロージュ・ピクセルは、貴方様との婚約破棄を受け入れます」ーーと。凛とした凛々しい声音を響かせて、
……確かに、俺に向かって、そう、告げたのだった……。




