9.因果 sideドロシア
昔から姉が大嫌いだった。
性格が暗くて冴えないところは気に入らなかったし、冷遇しているくせに姉を手放そうとしないお父様の態度も納得できなかった。
何よりも正妻の子じゃなく、どこぞの平民の子のくせに王太子の婚約者になったのが許せなかった。
だから姉をいびり倒してやった。
服や装飾品は新しい物を与えず、古びた物ばかり。
食事は質素なもの。
邸の者たちには嘘を吹き込み、姉を孤立させた。
そしてお茶会やパーティーでは姉の悪評を広める。
極めつけに王太子を奪って国外追放にさせ、従者に命じて姉を魔の森に捨てさせた。
あんな姉より美しく華やかな私の方が王太子妃に相応しいわ。
侯爵家の正統な血筋だし、国内で誰よりも魔力が高い私は精霊の愛し子だと名高い。
ようやく在るべき形に戻ったのよ!!
私の機嫌はこれ以上になく最高潮だった。
***
「ドロシア!エミリアを何処へやった!?」
姉を捨てた翌日、お父様が私の部屋に怒鳴り込んできた。
「お姉様はスヴェン様に国外追放を命じられたわ。きっとスヴェン様がさっさと追い出したのよ」
「…エミリアが我が家の馬車で城を去るところを見た者がいる。身寄りのないエミリアが一人で生きていける場所など無い。そして、私がエミリアを侯爵家から出す命令をすることはあり得ない。ならばエミリアを連れ出したのはお前の仕業だろう?」
「…っ!そうよ!あの人が邪魔だったのよ!!だから、魔の森に捨ててやったわ!…お父様こそどうしてお姉様にこだわるのよ!?」
「エミリアこそが精霊の愛し子だからだ」
「は…?」
「エミリアは“緑の瞳”を持っている。あれの母親もそうだった。…母娘二代の愛し子、強い能力を持っているに違いない。その能力を我が家で独占するつもりだった。王に、エミリアの瞳の色を見られさえしなければ…っ」
「…どういう、こと?」
「緑の瞳は愛し子の証だ。エミリアの瞳の色を見た王は王命でエミリアと王太子を婚約させた。エミリアが愛し子だということを隠すことを条件にしたが、貴重な愛し子を王家に渡す気など無い。…だからお前たちに呪いをかけた」
「まじな、い?」
「お前たちの首に付けたチョーカー…あれの石は魔石だ。エミリアの魔石には吸魔の、お前の魔石には解放の呪いがかかっている」
「…あのチョーカーはお守りだ、ってお父様言っていたじゃない。一度付けると外せないって…」
だからあのチョーカーだけは姉から奪うことが出来なかった。
姉を冷遇するお父様がお守りを与えるなんてなぜだと思っていたが…
「…守っていただろう?エミリアが愛し子だという秘事を。エミリアの瞳の色を隠し、エミリアの魔力をお前に移すことで、な」
そう答えるお父様の表情は歪んでいる。
「じゃあ、私のこの魔力は…」
「ああ。お前が今気付いた通り、エミリアの魔力だよ。本当の“魔力無し”はお前の方だからな」
「…!?う、嘘よ!信じないわ!!」
「信じるも信じないもお前の勝手だ。…どうやって愛し子を取り戻そうかと考えていたが、お前が王太子妃の座を狙っているようだったからな。それを利用して王太子がエミリアとの婚約を破棄でもしたら、呪いを解こうと思っていた。…その計画も無駄になったが。…お前に今も魔力があるということは、エミリアはまだ生きている。だがエミリアが魔の森にいるのなら、それもいつまで持つか分からないな。…全く余計なことをしてくれたものだ」
そう言って私を冷たく見下すと、お父様は去っていった。