8.パーティーの後で sideスヴェン
「スヴェン・ローアンの王太子位を剥奪し、次の王太子は第二王子のケヴィン・ローアンとする」
エミリアに婚約破棄を告げたパーティーから数日後の、ローアン国謁見の間。
私は突然、父上にそう宣告された。
「なっ、なぜですか!?父上!!」
納得のいかない私は声を上げるも
「私は今、公としてお前に沙汰を下している。そのような場で私を父と呼ぶなど、お前は公私の区別もつけられぬのか?」
父上は低く静かな声で私を諭す。
「ましてや国王が決めた婚約を個人の勝手な感情で反故にし、王命を蔑ろにする者に、王太子たる資格は無い!」
「お、お言葉ですが父う…へ、陛下。エミリアは何の力も、魔力すら持たぬ娘でした。対してドロシー…ドロシアは魔力が高く、精霊の愛し子と名高い令嬢です!」
「…お前の言う令嬢は精霊の愛し子ではない」
ざわっ
父上の言葉に謁見の間に居並ぶ大臣たちが俄にざわつく。
「へ、陛下。何を根拠にそのようなことを仰るのですか!?」
「根拠…か。知れたこと。その娘は愛し子たる“証”を持たぬからだ」
「あ、証…?」
「精霊の愛し子は皆“緑の瞳”を持っている。そして、お前の言う娘の瞳は青だ。故に、ドロシア・バドムは精霊の愛し子ではない」
父上は名指しでドロシーが精霊の愛し子ではないと断言された。
この瞬間、ドロシーは精霊の愛し子という地位と私の婚約者たる理由を失った。
「そんな…っ。う、嘘だ…!で、では誰が精霊の愛し子だと言うのですか!?」
「エミリア・バドム嬢だ」
ざわざわっ
父上が出した名に謁見の間がさらにざわつく。
「あ、あり得ない!エミリアは魔力無しですよ!?それに、あいつの瞳の色も緑じゃなかった!!」
「エミリア嬢は確かに緑の瞳を持っている。かつて、私自身が見たからな。だからこそお前の…王太子の婚約者に、とバドム侯爵に打診した。侯爵はエミリア嬢が精霊の愛し子だということを伏せることを条件にエミリア嬢の婚約を受け入れた。…侯爵がどのようにしてエミリア嬢の瞳の色と魔力を隠したのかは、私も知らぬ」
…だから父上は私がエミリアを国外追放にしたと言った時、あんなに焦っていたのか。
エミリアが精霊の愛し子だと知っていれば、国外追放になど…否、婚約破棄などしなかった。
ドロシー…ドロシアが“自分こそが精霊の愛し子だ”と私に擦り寄って来なければ…
ドロシアに騙されたと感じた私の心はドロシアへの愛情が急速に冷めていく。むしろ、怒りすら感じる。
「…このままエミリア嬢が見つからなければ、この国は精霊の祝福を失い国力も低下するだろう。…スヴェンよ、この責任をどう取るつもりだ?」
「わ、私がエミリア…嬢を探しに行きます!そして国外追放を撤回し、この国に戻ってくるようエミリア嬢を説得します!」
「相分かった。ではスヴェン・ローアン。そなたにはエミリア・バドム嬢の捜索と説得を命じる。エミリア嬢が見つかるまで、この国に帰ることまかりならん!」
くっ…、自分からエミリアを探しに行くとは言ったが、これでは事実上の国外追放だ。
何としても、エミリアを連れ戻さなければ…!