7.呪(まじな)い sideフォーリア
私が泣き止むまで公爵夫人…コーディリア様は傍に付いていてくださいました。
「皆様、お茶をどうぞ」
ミリーがお茶とお菓子を出してくれました。
ほわり
紅茶の香りが私の気持ちを落ち着かせます。
「あらっ、このお菓子美味しいわね!」
お菓子…蜂蜜クッキーを一口食べたコーディリア様が弾んだ声を上げます。
「ミリーが作るお菓子は優しい味がするのですよ」
私がそう答えると
「まぁっ!?このお菓子はミリーちゃんが作ったのね!ミリーちゃん、我が家で働かないかしら〜?」
「う、嬉しいお言葉ですが…私はフォーリア様のお側にいたいので…」
「ミリー…」
「あらあら、うふふ。二人は仲良しなのね!」
「確かにこの菓子は美味いな」
「そうですね。この蜂蜜の風味が何とも絶妙です」
「蜂蜜はセイン様にいただいたものを使っています。蜂蜜を使ったものを皆様にお出ししたくてクッキーを作りました」
「蜂蜜はお茶に入れたり、このようにミリーがお菓子にしてくれたり…大切に使っています。セイン様、ありがとうございます」
「いや、役に立っているのなら何よりだ」
ええ、とっても。
だって、こんなに楽しいティータイムを過ごせたのですから。
「…さて、そろそろ本題に移りましょうか」
ティータイムを終えて、コーディリア様が話を切り出されました。
「ああ。夫人、よろしく頼む」
「かしこまりました。…フォーリアちゃん、先ずは貴女に治癒魔術をかけてみてもいいかしら?」
「はい」
私はコーディリア様と向き合います。
「…治癒」
………
「…やはり魔術が効かないようですね」
「いや…ジーンの時もそうだったが、夫人の魔術はちゃんと発動している。しかしそれがフォリの前でぷっつりと途切れている」
側で様子を見ていたお二人が仰います。
「殿下、それはどういうことなのでしょう?」
コーディリア様の問いに
「ジーン…警備隊の治癒士がフォリに魔術をかけた時も、先ほど夫人がフォリに魔術をかけた時も、ちゃんと魔力は放出されていたんだ。その魔力がフォリに届かないだけで…だが私がフォリに触れていた時に魔術が発動しなかった理由は分からない。…自分を俯瞰で見ることは出来ないから」
セイン様はそう答えられました。
「…では次はフォーリアちゃんに触れたまま魔術をかけてみるわね」
「はい」
コーディリア様は私の手を取り魔術を発動します。
「治癒」
ほわん
…何か温かい魔力に包まれた気がします。
「魔術が、効いた?」
「…どういうことでしょう?」
「フォーリアちゃんに触れていると魔術が効いたのなら、フォーリアちゃんが魔力に遮られているわけではないのね。…殿下、殿下がフォーリアちゃんに触れて使った魔術は何ですか?」
「浮遊だ」
「浮遊は体の外に発動する魔術。治癒は内側。きっとフォーリアちゃんの中に魔術を通してあげれば効くのだわ。…だとしたら、この現象を起こしている原因は一体…?」
「…夫人、フォリのチョーカーに何か魔術がかかってはいないだろうか?」
「チョーカー、ですか?」
「ああ、フォリのチョーカーのリボンは継ぎ目も結び目も無い。これは普通ならあり得ない。何かの魔術で繋げているのでは?と思ったのだが…」
「確かに…!言われてみればそうですわね!フォーリアちゃん、チョーカーに触れてみてもいいかしら?」
「どうぞ」
コーディリア様はそっと私の首元のチョーカーに手を伸ばします。
「…っ!!」
その瞬間、バッとコーディリア様が手を引きました。
「夫人?」
「母上?どうなさったのですか?」
「…何だか、魔力を吸い取られたような…」
「何だと!?…フォリ、私もチョーカーに触れてみてもいいか?」
「は、はい」
今度はセイン様がチョーカーに手を伸ばしました。
「!!本当だ。魔力が吸い取られている。フォリに魔術が効かなかったのは、チョーカーが魔力を吸い取っていたからか!」
「すると、先ほどの母上の魔術が効いたのは…」
「ええ。フォーリアちゃんの中を通った魔力をチョーカーが吸い取りきれなくて、その分の効果が出たんだわ。…このチョーカー、吸魔の呪いがかかっているのね。だとすると、この石は魔石…」
「夫人、その呪いを解くことは出来るか?」
「はい。解呪はエバーグリーンの得意分野ですもの。解いてみせます。…殿下、フォーリアちゃんに魔力を流していただけますか?殿下の魔力と私の魔術で魔石を飽和させましょう。シオンは私に魔力を分けてちょうだい」
「わかった」
「わかりました、母上」
そう言ってコーディリア様は私の右手を、セイン様は私の左手を取りました。
シオン様はコーディリア様の肩に手を置きます。
「始めますよ。…解呪」
キィ……ン
私の中を緊張と共に魔力が流れていきます。そしてそれは私の首元のチョーカーに集まっていくようです。
キィィ………ン
「「「………」」」
ピシッピシピシッ
御三方の集中が続く中、小さなひび割れの音が聞こえてきました。
ピシピシピシッ
「「「………」」」
パキィィィン
ぶわっ
チョーカーの魔石が砕け散ったと同時に、部屋の中を風が舞いました。
多分、これは御三方の魔力の余波なのでしょう。
「!!…貴女も緑の瞳の持ち主だったのね…フォーリアちゃん」
風が私たちの髪を巻き上げる中、私の瞳を見たコーディリア様が泣きそうなお顔でそう呟きました。