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33.忍び寄る魔の手 sideレイブン

スヴェン王子がパーティーでやらかし、更に王子からの無茶な命令を受けて数日…


私はヘディンと名乗り、アズライト国の下級官吏として王宮で働き始めました。


道に迷った振りをして王宮の中を歩き回り、エミリア様の居場所を探っていますが…未だ突き止めることは出来ていません。


そして幾度目かの迷子を繰り返した後、私はとうとう王族の居住区へと足を向けました。


…カツン…カツン


人気(ひとけ)の無い広い渡り廊下を歩いて暫く…


不意に鈴の鳴るような声が掛けられました。


「あの…此処から先は居住区なので、一般の方は立ち入り禁止ですよ」


「!!」


振り向いた先に居たのは…エミリア様!?


何と、こんな突然に出会えるとは…


「………っ」


思いがけない再会に、私が些か戸惑っていると


「あの…?」


エミリア様が不安気にされます。


「…いえ、申し訳ありません。最近王宮に勤め始めたばかりで…少し迷ってしまいました」


「まぁ、官吏の方だったのですね。失礼いたしました。お勤め、ご苦労さまです」


そう言って、エミリア様は小さくカーテシーをする…そんな様子は、以前より少し明るくなられたようで。


しかし…


エミリア様は私を見ても何の反応も示しません。

私はエミリア様を魔の森に突き落とした張本人なのに…。


「…あの、私のことを覚えていらっしゃいませんか?」


私は伊達眼鏡(へんそう)を解き、思い切って聞いてみますが


「いいえ。…何処かでお会いしましたか?」


返ってきたのは予想外の答え。

これは一体…?


この方はエミリア様ではないのか?

瞳の色こそ違うが−こちらが本来の色なのだろう−、髪の色も、顔立ちも、エミリア様そのものなのに…


エミリア様への接触のきっかけを見失い、私が言葉を発せずにいると


「…リア様…!」


遠くからエミリア様を呼ぶ声が。


やはりこの方はエミリア様で間違いない、そう思った矢先


「フォーリア様!」


その呼びかけと共にこちらへ駆け寄って来たのは、侍女のお仕着せを着た少女。


「あら、ミリー。どうしたの?」


「“どうしたの?”じゃありません、フォーリア様!あれほどお一人で出歩いてはいけない、と皆様に言われていたでしょう?」


「王宮のお庭が綺麗だったから、つい…ごめんなさい、ミリー」


「セイン様とシオン様に報告しますからね。お説教ですよ、フォーリア様?」


「!?ごめんなさい、許して、ミリー!」


「駄目です。お二人にしっかりと叱っていただきましょう」


「ミリー〜〜〜!」


…そんな二人のやり取りを前に、私は疑問を隠せません。


“フォーリア様”?

この方はエミリア様の筈では…?


だが、彼女は私のことを覚えていなかった。


しかし愛し子が同時に何人も現れた、とは聞いたことが無い。ましてやこんなに瓜二つの別人なんて。


…いや、待て。もしや、彼女は以前の記憶を喪っている…?


だとすれば、目の前のエミリア様が私のことを覚えていないのも、別の名で呼ばれていることも説明がつく。


スヴェン王子のことを知らない、と言ったのも。


「…そういうことだったのですね」


自分の中で導き出された答えに納得した私は思わずそう呟きました。


「…?フォーリア様、この方はお知り合いですか?」


私の呟きに気付いた侍女が訝しげに私を見ます。


「いいえ。今此処で会ったばかりよ。新しく入った官吏の方なのですって。道に迷ったそうなの」


「…迷った?居住区(こちら)で?」


私を見て侍女が警戒の色を濃くしました。


「…何分(なにぶん)、色々と不慣れなもので。此方に立ち入ってはいけないことを知らず、足を踏み入れてしまいました。…申し訳ありません」


「…そうでしたか。では、案内の者を呼びます。此方で少しお待ちを。…私は主人を連れて戻りますので」


「お手数をお掛けします」


そうして二人は去って行きました。


私は暫くその場に留まり−これ以上警戒される訳にもいきませんので−、やがてやって来た侍従の案内で執務区へと戻りました。


少し無茶をしましたが、その分の収穫が得られましたね。


エミリア様…いえ、フォーリア様。

近々お迎えに上がります。


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