32.愚かな選択 sideスヴェン
パーティーから追い出された私は、仕方なく滞在先に戻るしかなかった。
「おや王子。お早いお帰りでしたね。パーティーはどうでしたか?」
宿の一階の食堂で優雅にお茶を飲んでいたレイブンが私に気付き声をかける。
「エミリアめ、私のことを知らない、他に婚約者がいる、と言ってきた」
「…どういうことでしょう?」
「だから、私はエミリアに婚約者が迎えに来たからローアン国に帰るぞ、と言ったんだ…が…」
パーティーでのことを話し始めた途端、レイブンは顔を険しくし、その様子に私は僅かに怯む。
「…正体を明かしたのですか?公衆の面前で?…貴方、バカですか?」
「バッ、バカとはなんだ!?」
「招待状は本物とはいえ、所詮借り物。貴方宛の正式な招待ではないのですよ?貴方がすることは婚約者がエミリア様であるかの確認。そしてエミリア様の居所を探る事。そこで正体を明かす必要などなく、寧ろ明かすべきではありませんでした」
「ぅぐっ…」
「…とはいえ、これで貴方がこの国に居ることがバレてしまいましたね。王子、直ぐに宿を引き払いますよ」
「なっ、なぜだ?私は疲れた。早く休みた…」
「何を呑気なことを言っているのですか?今に王宮から騎士を差し向けられますよ」
「えっ?」
「さぁ、早く。急いでください」
こうして私たちは慌ただしく宿を移った。
…レイブンの読みは正しかった。
私たちが去った直後、王宮の騎士たちが宿に乗り込んで来たらしい。
しかし宿は既にもぬけの殻。騎士たちは手掛かりを得ることは出来ずに王宮へ帰って行ったようだ。
*
「…第二王子の婚約者の愛し子とは、エミリア様で間違いないのですね?」
「ああ。あれはエミリアだ。父上が仰った通り、エミリアの瞳の色は緑だった!…しかしなぜエミリアは、私のことを知らないと言ったのか…?」
「だから言ったでしょう?エミリア様は貴方を警戒している、と。自分に婚約破棄を突き付け、国外追放にした者が“迎えに来た”と言っても、信じられる訳がないでしょう?」
「だ、たから私が直々に…」
「顔も見たくない、と思うほどに嫌われているのではないのですか?」
「そ、そんな筈は…」
「それほどの仕打ちを貴方はエミリア様にしたのですよ。…私も他人のことは言えませんが…」
「くっ…では、どうすれば…」
「貴方の愚かな行動のせいで、今後エミリア様に近付くことは難しいでしょう。…もう、諦めた方が良いのでは?」
「何を言う!?私がローアン国の王太子の座に返り咲くには、エミリアが必要だ!諦めるなど、出来るものか!」
「王家の警戒を更に強め、エミリア様に近付くことすら叶わないのに?」
「なっ、ならば、近付く隙を作ればいい!エミリアをアズライト王家から切り離し、私の元へ連れてこい!」
「…私に誘拐をしろ、と?」
「お前は斥候、偵察、荒事、何でも出来るのだろう?エミリアを連れ戻すまで、私の役に立つとも言ったな?」
「…わかりました。しかし、私は成否の責任は負いませんよ?」
「お前の手際の良さは、この旅の中で充分見てきたからな。お前なら出来るだろう。そして私はエミリアを取り戻し、再びローアン国の王太子として立つのだ!はははははっ!!」
今後に光明を見出した私は、新たな滞在先の一室で高らかに笑声を上げた。




