31.婚約発表パーティー sideフォーリア
…ざわり
私たちが入場すると同時に会場が俄にざわついたのは、第二王子殿下が社交界には知られていない令嬢を連れているからでしょうか?
ご令嬢やご夫人方が私を気にしているのを感じます。
私に緊張の視線と空気が纏いました。
僅かに体を強張らせる私に、セイン様が優しく微笑まれます。
「大丈夫だ」
私たちは広間の大階段を下り、国王陛下の待つ壇上へ。
「此度、我が息子、第二王子セイン・アズライトとロゼライト公爵家のフォーリア・エルレイム・ロゼライト嬢の婚約が決まった。そしてフォーリア嬢の瞳を見て分かる通り、王家は精霊の愛し子の後見となった。今後、アズライト国は精霊の祝福を受け、益々発展することだろう」
…パチ、パチパチ
国王陛下の宣言に、貴族の−主に当主であろう−方々から、遠慮がちに拍手の音が鳴ります。
ご令嬢、ご夫人方の反応は半々…といったところでしょうか。
難しい顔をしている女性陣は、私がセイン様の婚約者であることを受け入れたくないのでしょう。
…だとしても、私もセイン様は譲れませんので。
*
皆様の歓談が始まって少し。
王太子殿下が見知らぬ男性と共に私たちのもとへ来られました。
「セイン、フォーリア嬢。こちらはローアン国のケヴィン王太子だ」
「ケヴィン・ローアンです。此度はご婚約、おめでとうございます」
「ありがとうございます。先程紹介のあった通り、私はセイン、こちらは婚約者のフォーリアです」
「お初にお目にかかります。フォーリアでございます」
「…?」
「あの、どうかなさいましたか…?」
「…いえ、お気になさらず。…フォーリア嬢、以前、ローアン国に来られたことは?」
「?いいえ。私はアズライト国から出たことがありませんので…」
「…そうですか。…貴女がこの国で穏やかに過ごせるよう、願っています」
「?ありがとうございます」
「…ケヴィン王子、貴方は…」
「私はアズライト国の王子殿下の婚約を祝いに来ただけです。…彼の令嬢については、私は何も命を受けてはおりません」
「では貴方は、フォーリアに害を成す気は無い、と?」
「…フォーリア嬢は、エミリア嬢ではないのでしょう?」
「…ええ」
「そういうことです。…ただ、エミリア嬢の捜索と説得を命じられた兄の動向は気になりますが…」
「…スヴェン王子は−」
セイン様がケヴィン殿下に何かを問いかけようとした、その時
「見つけたぞっ!エミリアっっ!!」
お二人の会話を突然遮った声の主は、ズカズカとこちらへ近付いて来ます。
そして私の前で立ち止まると
「エミリア、迎えに来た。さぁ、帰るぞ!」
そう言って、私に右手を突き出しました。
「「スヴェン王子!?」」
「兄上!?なぜ此処に!?」
両殿下とケヴィン殿下が驚きを露わにする中
「なぜも何も、エミリアを探しに来たに決まっているだろう!エミリア、さぁ早く私の手を取れ!」
スヴェン王子と呼ばれた方は尚も私に言い募ります。
「…貴方のことは存じ上げませんし、私は、エミリア様ではありません」
「はぁ?何を言っている?私だ!お前の婚約者のスヴェンだ!!」
「私の婚約者は、セイン様です」
「何だと!?私の婚約者を奪った奴がいるというのか!?」
「…そもそも、エミリア嬢に婚約破棄を言い放ったのは兄上ではないですか。…それにその姿は…まさか、一貴族に身を窶して他国の王宮に入り込んだのてすか?」
「セイン、東方警備隊からの報告は無かったのか?」
「…はい。スヴェン王子がまさか此処まで侵入していたとは…申し訳ありません。東方警備隊の落ち度です」
「いや、東方警備隊だけのせいではない。…しかし、後手に回ってしまったな」
「〜〜〜っ!!黙って私に従えば良いのだ!来い、エミリア!!」
痺れを切らしたらしいスヴェン殿下がそう叫んで、私へ伸ばした手を
バシッ!
払ったのはセイン様でした。
セイン様は私をその背に隠すと
「スヴェン王子、私の婚約者に危害を加えることは許しません」
きっぱりとスヴェン殿下に告げました。
「こいつの婚約者は私だ!お前の許しなぞ要らん!」
「彼女が婚約したのは唯一人、私だけですよ。過去にも婚約者はいません。それに何を持って彼女をエミリア嬢だと言い張るのですか?彼女とエミリア嬢とでは、瞳の色が違うでしょう?」
「我が父が言っていた!エミリアの瞳の色は緑だった、と!それにその顔、エミリアそのものではないか!」
「…残念ながら、彼女がエミリア嬢だという証は無いのですよ」
「証ならある!婚約者の顔が分からない筈が無いだろう?なぁ、エミリア?」
「ええ。私の婚約者はセイン様です」
大事な事なのでもう一度言います。そして
「私はアズライト国ロゼライト公爵家の娘です。貴方とお会いしたことは、一度も、ございません」
しっかりと伝えさせていただきました。
「…もういいだろう。この者は不法侵入者だ。騎士を呼んでつまみ出せ」
そんな私たちの様子を見ていた王太子殿下が従者に命じられました。
「なっ、何をする!?私はローアン国の王子だぞ!助けろっ、エミリアー!!」
騎士たちに拘束されたスヴェン殿下はもがき暴れながら、王宮から連れ出されていきました。
「兄がご迷惑をおかけして申し訳ありません。レオン殿下、セイン殿下、…フォーリア嬢」
「…いや、貴方が気にすることではないよ」
謝罪されるケヴィン殿下にそう答える王太子殿下の傍らで
「…彼はあんなに拗らせ男だったかな?」
「?」
セイン様の疑問の意味が解らず、私は首を傾げるばかりでした。




