25.潜入、バドム侯爵家 sideシルビア
私は偽名を名乗り、バドム家の下級メイドとして入り込んでいます。
「ねぇ、愛し子はドロシア様じゃなくてエミリア様の方だったって。侯爵様がお認めになったそうよ」
「そうなの?」
「お二人が言い合っていたのを聞いた子がいるの。それにね、ドロシア様がエミリア様を魔の森に捨てさせたんてすって」
「えー!?ドロシア様、そんなことまでするの?ドロシア様いつも、“お父様に可愛がられている私に嫉妬したお姉様に苛められているの”って言ってたけど…」
「あれ、嘘だったのね。寧ろ、ドロシア様がエミリア様を苛めてたんじゃないの?」
「!!わ、私…エミリア様にキツく当たったことがあるんだけど…お、お咎めがあるのかしら…?」
「私も…で、でも悪いのはドロシア様だわ。私たち、騙されてたんだから…」
「そ、そうよね…」
「「「「………」」」」
ばつが悪くなったのか、噂をしていたメイドたちはそそくさと解散していきました。
バドム家の使用人は教育がなっていませんね。お邸の中とはいえ、主家の内情をペラペラと喋るのですから。
剰え、主家のお嬢様に辛く当たるなど…
おかげで欲しい情報がいただけたのですが。
***
「クレア、これを離れの部屋に届けてくれないかしら?」
ある日、私は先輩メイドのミアさんに呼び止められました。
渡されたのは洗濯したての数枚のシーツ。
「離れにどなたかいらっしゃるのですか?」
「ええ。エミリア様のお世話をしていたマイアさんがいるの。お一人で全部されてたから、時々手伝っているんだけど…侯爵様には知られないようにお願いね」
「わかりました」
ミアさんからシーツを受け取り向かった離れは…大人の身長程も高さのある柵に囲まれた小屋。
柵の内側には庭?のようなスペースがあり、窮屈そうな感じはありませんが…小屋は石造りで窓には全て格子が嵌められています。
これは…どう見ても誰かを軟禁するための小屋。
マイアさんという方はなぜこの場所に留まっているのでしょう?
コンコン
「マイアさん、いらっしゃいますか?」
扉をノックして問いかけると
「はいはーい」
カチャリ
返事と共に扉が開きました。
「…どなた?」
出てきたのは私よりも年嵩の女性。
「クレアと申します。ミアさんに頼まれてこちらを届けに来ました」
私はそう言ってシーツを差し出します。
「あら、貴女、新しい人?…一息いかが?」
シーツを受け取ったマイアさんは、そう言って私を小屋の中へ招き入れました。
小屋の中は全て石造りで、窓は小さく、格子のせいもあり薄暗い印象です。
私はダイニング?でお茶をいただきました。
「あの、マイアさんはなぜ此処に?…失礼ですが、この建物はどう見ても…」
自主的に留まるような場所には思えません。
言葉を濁したものの、マイアさんには伝わったようです。
「…そうね。此処は元々エミリア様のお母様のユーフェリア様が囚われていた場所。そして、エミリア様が育った場所でもあるの…」
「!!」
やはり、ユーフェリア様はバドム家に…
ようやくユーフェリア様の所在を掴むことが出来ました。
「…エミリア様は行方知れずと聞きました。今は、ユーフェリア様とお二人で?」
私は逸る気持ちを抑えて、マイアさんにユーフェリア様のご様子を尋ねます。
「…いいえ」
しかし、返ってきたのは予想外の答え。
「…ユーフェリア様はエミリア様をお産みになった時に亡くなられたわ。…エミリア様もいない今、此処には私一人よ」
「……!?」
ユーフェリア様、が…亡くなられ、て…?
「そんな…」
あまりの衝撃に私は暫く動くことも出来ませんでした。
…こんなに悲しい現実、奥様にどうお伝えしたら良いのでしょう…?
私は震える手を堪えながらお茶を飲みました。




