24.潜入、ローアン城 sideクリスティアン
私は偽名を名乗り、ローアン城の下級文官として入り込んだ。
「農作物の収穫量が落ちているらしいぞ」
「ドロシア嬢ではなく、エミリア嬢が本物の愛し子だったって?」
「スヴェン殿下がエミリア嬢を探しに行かれたはずだが…」
「ドロシア嬢が魔力を失ったそうだ」
「バドム侯爵は釈放されたそうだぞ」
城内で噂が飛び交っている。
その噂は私が欲しい情報で溢れていた。
偽物が立った故か、本物が去った故か、そのどちらもなのか…ローアン国の精霊の祝福は減じているようだ。
スヴェン王子は王太子の座を追われたとも聞いた。そのスヴェン王子がエミリア様を探しているということは…エミリア様を利用して再び王太子の座に舞い戻るつもりか?
偽愛し子が魔力を失ったことなどどうでもよい。
フォーリア様に害が及ぶならば容赦はしないが。
バドム侯爵とはユーフェリア様を拐った可能性がある者だったな。
少しの勾留ですぐ釈放?…何か裏があるのか?
調べてみるか…?
そんな事を考えながら書類整理を進めていると
「ロラーン!昼飯行こうぜー!」
世話焼き?な同僚がやって来た。
もうそんな時間か。
*
「…ところでダン。城内が噂で持ちきりだが、最近何かあったのか?」
城下街の定食屋。
私はシチューを掻き混ぜながらダンに問う。
向かいに座るダンは口の周りを真っ赤にしながら、ナポリタンを頬張っている。
「……あー、お前、中途採用で来たばかりだから知らないのか」
口の中の物を咀嚼し飲み込んだダンがフォークをこちらに向けながら答える。
コラ、フォークを人に向けるんじゃありません。
「…まぁ、俺も噂を聞きかじったくらいなんだけど…ちょっと前に王城でパーティーがあってさ、そこでスヴェン王子がやらかしたらしいんだよ」
「やらかした?」
「何でも婚約者様に婚約破棄を突き付けて、エミリア様の妹に乗り換えたそうだ。妹の方が精霊の愛し子だからって。で、妹を苛めたんだろ?ってエミリア様を国外追放にした、と」
「国外追放?」
「ああ、“さっさと出ていけ”と追い出したってよ。それからエミリア様は行方不明なんだが…ところがどっこい、本物の愛し子はエミリア様だと明らかになった。城中大騒ぎさ」
「…ん?妹が愛し子だと言われていたんだろう?なぜエミリア様が本物だと判ったんだ?」
「いや、それが、王様が言ったらしいんだ。“愛し子はエミリア様だと知っていた”って。で、その愛し子に婚約破棄を突き付け、国外追放にした罰でスヴェン王子は王太子位を剥奪されて、エミリア様を探しに行くことになったってさ」
………
ダンの話を聞く限りだと、スヴェン王子は“出ていけ”と言っただけで、場所の指定はしていないようだが…なぜエミリア様…フォーリア様は魔の森に行ったんだ?
「でさ、この話、続きがあってさ。妹は愛し子を騙って王子を騙したとして、父親共々捕まったんだが…妹は牢屋に入れられたのに、父親はすぐ帰ったんだと」
「父親だけ帰った?なぜだ?」
「さぁ?妹は今も自分が愛し子だと信じてるって話だけど…」
「…そうか。でも断片的だった噂の詳細を知ることが出来て良かったよ。気になって仕事も手に付かなかったから。しかし、“聞きかじったくらい”なんて言いながら、随分詳しいじゃないか」
「そりゃあ、あれだけの人間がずっと同じ噂してちゃあね、嫌でも詳しくなるよ」
「…そういうものか?」
「…そういうもんさ」
そして私たちは食事を続けた。
だが、こんなに噂が飛び交っていて、こんなに早く情報を得ることが出来るとは思っていなかった。僥倖だ。
…さて、シルビアの方はどうだろうか?




