22.精霊王の愛娘(いとしご) sideフォーリア
「人間達が愛し子と呼ぶ者たちが皆、緑瞳なのは、この地を統べる王が自然を司る緑の精霊王だからだ。そして、王たる私と全く同じ金髪緑瞳を持つものは精霊にも人間にも居らぬ。…可能性があるならば、精霊王と血を分けた者のみ」
「…ということは、フォーリアちゃんは…」
「先ずその金髪緑瞳。それからフェリィの存在と、そなたの顔立ち。そなたの色と面影が、そなたが私とフェリィの娘である証」
「…わ、私が精霊王様の、娘…?」
「…やっぱり、フォーリアちゃんはフェリアの娘だったのね!…でも、フェリアに想い人がいることは知っていたけれど…まさか精霊王様だったなんて」
「私たちはフェリィが幼い頃に出会った。…あの頃の彼女は家族の中で自分だけ瞳の色が違うことを気にして…というか、幼子の純粋な疑問だったのだろうな。“フェリィの瞳の色はそなたが私の魔力を持っているからだ”と話したことがある」
「どういうことですか?」
「精霊の愛し子と呼ばれる者たちは、我ら精霊の魔力の欠片を身の内に宿して生まれた者たちだ。彼らの瞳の色は精霊の瞳の色。そしてフェリィは私の魔力の欠片を持っていた。…ただフォーリア嬢に関しては、私の子であるが故そなた自身の魔力が精霊に近しいものだと思われる。…しかし、こんなに大きな精霊の魔力の気配が今まで感知出来なかったのは一体なぜ…?」
「…それはフォーリアの魔力が奪われていたからだと思いますわ。フォーリアは吸魔の呪いがかけられたチョーカーを身に着けておりました。…これが他者の手によって着けられたとしたら…だとするとそれはフォーリア、いえエミリア嬢の父のバドム侯爵の可能性が高いのかも…」
「バドム侯爵…先ほど出てきた名か。フェリィが居るかもしれないという…」
「はい。私どもには、妹が自ら姿を消す心当たりが無いのですわ。精霊王様のお話を聞いて、フォーリアを身籠ったことを知った妹が自ら…という可能性も出てきましたが…もしかして妹が故意に拐われたのだとしたら…」
「フェリィを拐ったのは、そのバドム侯爵とやらか」
「ええ。それならば妹が縁も所縁も無い地にいる理由がわかります」
「…確かに。フェリィが自ら姿を消したとしても、私なら彼女の魔力を探知すれば見つけることは可能だったはず。それが出来なかったということは、誰かがフェリィの魔力を隠したに違いない。…やはりフェリィは拐われていたのだ…」
「「……………」」
お二人の会話の中で導き出された答えは、辛い事実でした。
お二人の落胆は如何ほどのものなのでしょう。
「あ、あの…」
私はお二人にどうお声をかけたら良いかわからずオロオロするばかり。
「フォーリアちゃん、貴女が気に病むことはないのよ。…でもまさかフェリアが隣国に拐われていたなんて…ここまでして愛し子を利用しようとする者もいるのね…」
「…我らも警戒が足りなかった。過去、利用され傷ついた愛し子たちを幾人も見てきたのに…姉殿、フェリィを守れず申し訳ない」
「いいえ。悪いのはフェリアを拐った者ですわ。私は妹を取り戻します。そして今度こそ義娘も守りますわ!」
「ああ、精霊も協力は惜しまぬ。…フォーリア嬢、そなたは良い家族に巡り会ったな」
「精霊王様、どうぞフォーリア、とお呼びください。…ロゼライト家の皆様は、記憶を失くし何処の誰とも知れぬ私を家族として受け入れてくださいました。私はそれを嬉しく思い、そしてこれからもロゼライト家の娘であることを望んでいます。…ですが」
私は精霊王様をひた、と見つめます。
「なんだ?」
「私を娘と言ってくださる精霊王様のお許しがいただけるのなら…貴方様の名を名乗っても、いいですか?」
「構わぬ。…娘と出会えたことは、私にとっても僥倖だ」
「ありがとうございます。…父上」
「本当のご両親が判って良かったわね、フォーリアちゃん。…それにありがとう、私たちの娘でいることを望んでくれて。精霊王様、私たちは全力でフォーリアを守ります!私たちの元にフォーリアを居させてくださいませ」
「…今までフォーリアを助け、守ってきたのはそなたたちだ。感謝している。これからもよろしく頼む」
「ありがとうございます!これからは精霊王様も遠慮なくフォーリアに会いに来てくださいませね!」
「そうだな、楽しみにしている」
そう言って父上は優しく微笑んでくださいました。




