21.精霊王の愛し子 sideフォーリア
それはお義兄様がグラファイト砦へお戻りになってから数日後、公爵家のサロンでお義母様とお茶をしている時のことでした。
…キィ…ン…
「「!?」」
これは…お義母様が呪いを解いてくださった時の、魔力の集束と同じ音…?
…キイィ…ィィ…ン
「フォーリアちゃんっ!」
お義母様が私の手を引きます。
…ィィィ…ィ…ン…
………
音が止んだ後には一人の男性の姿。
金色の長い髪に緑色の瞳の美丈夫です。
「!!そなたは…!」
その方は私を見て、驚きの声を上げました。
「…どなたですの?」
私を抱き寄せたまま、お義母様が警戒も露わに男性に尋ねます。
「…私は精霊王、リュシアン・エルレイム。大きな魔力を感じ、此方に参った。…不躾な訪問、お詫びする」
「ま、まぁ!精霊王様!?わ、私はコーディリア・ロゼライトと申します。こちらは義娘のフォーリア・ロゼライトですわ。…あの、精霊王様はなぜ此方に?」
「…行方のわからぬ恋人を探している。彼女も高い魔力を持っているため、何か手掛かりになると思うと居ても立ってもいられなかったのだ」
「!!…実は私も妹を探しております。…もしよろしければ、精霊王様の探し人の特徴を教えていただけません?公爵家が得た情報に、その方の情報もあるかもしれませんわ」
「…そうだな。では早速力を借りるとしようか。彼女は緑髪緑瞳で人間達が“精霊の愛し子”と呼ぶ者だ。顔立ちが、そちらのフォーリア嬢によく似ている」
「「!!」」
精霊王様のお話に私とお義母様は思わず顔を見合わせました。
精霊王様が探している方というのは、もしや…
「…精霊王様、私たちとお話をする時間をいただけますか?お茶の用意をいたしますわ」
「いいだろう。…私も確かめたいことがある」
お義母様の提案を精霊王様は受けてくださいました。
テーブルには侍女たちによって手際良く新しいお茶とお茶請けが整えられます。
「精霊王様、単刀直入に申し上げます。貴方様が探している方の特徴が、私の妹の特徴と酷似しております」
お茶の用意がされ、私たち三人がテーブルについた後。
お義母様が話を切り出されました。
「…どういうことだ?」
「私の妹も緑の髪に緑の瞳を持ち、フォーリアととてもよく似ています。…精霊王様、貴方の探し人の名は“ユーフェリア”ではありませんか?」
「!!…では、そなたは…」
「はい。私の旧姓はエバーグリーン。コーディリア・エバーグリーン、ユーフェリア・エバーグリーンの姉でございます」
「何と…今までなかなか得られなかったフェリィの手掛かりが、このような形で得られるとは…」
「…ですが、私たちもユーフェリアの手掛かりを得られたのはつい最近のことなのです。こちらのフォーリアと出会ったからなのですわ」
「…つい最近?…出会った?」
「はい。公爵家がフォーリアと出会ったのは偶然でした。この国の王子殿下と私の息子が、重傷を負ったフォーリアを助けたことがきっかけです」
「重傷を負った…?」
「ええ、魔の森の崖から転落して全身に酷い怪我を負っていたそうです。昏睡状態になり、ようやく目覚めた時には、フォーリアは記憶を喪っていました」
「記憶を!?…しかしフェリィの手掛かりは…」
「フォーリア自身は以前のことを覚えていません。ですが、我が国の王太子殿下が“以前のフォーリア”をご存知でした。…王太子殿下が仰るには、フォーリアは隣国ローアンのエミリア・バドム侯爵令嬢ではないかと…」
「…と、いうことは…」
「フォーリアの母がユーフェリアであるならば、ユーフェリアはバドム侯爵家にいるのではないかと…」
「!!…ようやく…ようやくフェリィの行方が…」
「…ですが精霊王様、エバーグリーン家はローアン国と縁は無く、知り合いも居りません。妹がなぜローアン国に居るのかがわからないのですわ。…先ずは調査を進めないと…」
「承知した。我らもそのバドム侯爵家とやらを探ってみよう」
……………
お話が一段落ついたのでしょう。お義母様と精霊王様はお茶を一口。
…それにしても、お義母様と精霊王様が探している方が同じ人だったなんて。
これは偶然なのでしょうか?
お二人のご様子を見ながら私がそのようなことを考えていると
「…さて、そろそろ私にも確認させてもらいたいのだが…」
精霊王様が新たなお話を切り出されます。
「はい、なんでしょう?」
「そちらの、フォーリア嬢。…そなたは私の娘だと思われる」
「「ええっ!?」」
しかしその内容は驚くべきものでした。




