17.公爵領へ sideフォーリア
緊張しながら臨んだ王家の皆様との謁見でのお話は、私の知らないことばかりでした。
…王太子殿下ご夫妻が私の顔を見知っていたそうで、私が隣国ローアンのエミリア・バドム侯爵令嬢ではないか?と仰いました。
しかし私にはエミリア嬢の記憶は無く、実感もありません。
それに私はセイン様に名をいただいた時に、フォーリアとして生きることを選びました。
そのことを陛下にお伝えすると、陛下は私がロゼライト公爵家に入る許可をくださり、晴れて私はフォーリア・ロゼライトになりました。
しかもその後、あれよあれよという間にセイン様との婚約まで決まってしまって…
セイン様は私の恩人で、お優しく…とても素敵な方です。
そのような方が私の婚約者だなんて、夢ではないのでしょうか?
***
私がグラファイト砦を去り、ロゼライト公爵領へ向かう日がやってきました。
「ジーン先生、お世話になりました」
「あまりお役に立てませんでしたが…貴女が元気になられて良かったです」
「いいえ、私が助かったのはジーン先生の治療のおかげです。ありがとうございました」
「ふふっ、どういたしまして。…ダイン君をよろしくお願いしますね」
「はい」
ミリーとダイン君は私と共に公爵領へ行きます。
セイン様とお義父様には許可をいただきました。
ダイン君は騎士に憧れているそうで、砦に残ると言い出したのですが…幼い姉弟を引き離すのは忍びなく、共に公爵領へ来てロゼライト騎士団で修行をするのはどうか?とお義父様が提案されました。
「休みには帰るから、共にお茶でも飲もう」
「はい、お義兄様」
「…まぁ!滅多に帰ってこないシオンが帰るだなんて!フォーリアちゃん、ありがとう!」
今日はお義父様とお義母様が迎えに来てくれました。
お義兄様の言葉を聞いたお義母様が嬉しそうです。
「…淋しくなるな。休みには私も君に会いに行く」
「はい、お待ちしております」
「これは餞別だ」
そう言ってセイン様が差し出したのは、いつかと同じ蜂蜜の瓶。
「ありがとうございます!…大切に頂きます」
「気を付けて行け…また会える日を楽しみにしている」
「はい、セイン様」
***
ガタゴト…ガタゴト…
公爵領までの馬車の旅。
馬車はゆっくりと長閑な街道を進んで行きます。
「フォーリアちゃん、さっきは殿下に何をいただいたの?」
「蜂蜜です。お餞別にいただきました」
「まぁ!ではまたミリーちゃんにお菓子を作ってもらいましょうね!」
お義母様が弾んだ声を上げます。
「…お義父様、お義母様、迎えに来てくださりありがとうございます」
「うむ」
「いいのよ〜。可愛い義娘のためだもの〜」
優しい家族に出会えて、私は幸せです。
***
「旦那様、奥様、お帰りなさいませ」
ロゼライト公爵家、エントランス。
公爵家の使用人たちが一堂に会し、花道を作って私たちを出迎えていました。
「今帰った。…クリス、シルビア、この子が私たちの新しい義娘、フォーリアだ」
「初めまして、フォーリアお嬢様。そしてようこそおいでくださいました。私はロゼライト公爵家の執事長、クリスティアンと申します。どうぞクリス、とお呼びください」
「初めまして、フォーリアお嬢様。私はロゼライト公爵家の侍女長、シルビアと申します。私のことはシル、とお呼びくださいませ。これからよろしくお願いいたします」
「此度ロゼライト公爵家の一員となりました、フォーリアです。クリスさん、シルさん、よろしくお願いします」
「皆にも紹介しよう!私たちの義娘、フォーリアだ。よろしく頼む」
『はい』
使用人たちが一斉に返事をします。
さすが公爵家。
主が一流なら、使用人も一流ですね。
皆が揃ってお辞儀をする様は、圧巻でした。




