表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

16.愛し子を探して…三十里 sideスヴェン

王都の冒険者ギルド。


「くそっ!」


私は悪態をつきながらその建物を出る。


エミリアを探す国外への旅。

私とて一人で国外を旅するほど無謀ではない。


城で護衛の兵を募ったが、国外追放同然の王子に付いてくる者などいなかった。


仕方なく冒険者を雇うことにし、ギルドへとやって来たが…

腕の良い冒険者には法外な報酬を吹っ掛けられ、私の手持ちで雇えそうな冒険者を紹介してもらっても、吹けば飛ぶような素人しかいなかった。


このままではエミリアを連れ戻すどころか、探しに行くことさえ出来ない。…そうなると、私の王太子の座が…


最初で躓いてしまい、どうしようかと迷っていると


「…スヴェン王子ですか?」


後ろから声をかけられた。


振り向くと、そこには黒髪黒瞳の執事服を着た男。


「お前は誰だ?」


「貴方と同じく、精霊の愛し子を探す者です。…(レイブン)、とお呼びください」


「…私に何の用だ?」


「貴方の捜索のお手伝いが出来ないかと思いまして。私は斥候、偵察、荒事、何でも出来ますよ。貴方の護衛に良いのではないでしょうか?…何より私はエミリア様がこの国で会った最後の人間ですし」


「…何だと!?」


「私はドロシア様に(そそのか)されて、エミリア様を魔の森に置き去りにしてしまったのです。ドロシア様が愛し子だと信じてエミリア様を廃したのに…まさかそのエミリア様こそが本物の愛し子だったとは…っ」


「…お前の目的は何だ?」


「エミリア様に赦しを請い、エミリア様に…本当の愛し子にお仕えすること」


「…報酬は?」


「エミリア様にお仕え出来るなら、それで充分です」


「…わかった。エミリアを連れ戻すまで、精々役に立ってもらうぞ」


「お任せを」


…こうして私は思いがけず護衛を手に入れた。




レイブンは予想以上に有能だった。

あっという間に旅装を整え、辻馬車を手配し、道中の魔獣も難なく倒し、一日経たずにエミリアと別れたという場所まで辿り着いた。


「…私は此処からエミリア様を突き落としました」


「…突き落とした?…こんな所から落とされたら、普通の令嬢など生きていられるはずがない…ましてやエミリアは魔力無し…助かる要素は…」


「いえ、エミリア様は精霊の愛し子です。きっと無事に居られます」


「…その根拠は何処から…?」


「精霊の愛し子とは、奇跡を起こす者。ドロシア様如きの謀略では、害することは出来ないでしょう」


「…そうなの…か?」


この男は随分と精霊の愛し子を神格化しているようだが…エミリアが無事だと言うのなら、私にも文句は無い。


「…それで、どうやってこの下に降りるんだ?」


「この崖を伝って行きますが?」


「無茶を言うな!…大体、あれから何日経つと思っている?エミリアが無事だとて、その場に留まり続けている訳でもないだろう!?」


「…それもそうですね。寧ろ、貴方から逃げている可能性もあります」


「なぜだっ!?」


「貴方なら、ご自分に国外追放を言い渡した相手と再会したらどうしますか?…ましてや婚約者(じぶん)を放って別の相手と浮気した者を。怯え、嫌悪し、逃げたりしませんか?」


「…うっ」


「とにかく、エミリア様が留まっている可能性も低いですね。…地道に森の中を探すしかなさそうです」


「…ま、待て!」


レイブンは一人でそう結論付けると、森の入り口を探してさっさと歩き出した。


*


森の中に入ってからは散々だった。


彼方此方から魔獣、魔物、魔獣…

次から次へと湧き出し、切りが無い。


そいつらをレイブンはいとも容易く倒していくが、私は自分の身を守るだけで精一杯だ。


レイブンがいなければ、私は足を踏み入れることさえ出来ないな…


なんて所にエミリアを置き去りにしてくれたんだ。

エミリアは本当に無事なのか…?


「…ハァ…ハァ」


「これぐらいで音を上げていたら、エミリア様を探すどころか森を抜けることも出来ませんよ?」


「う、うるさいっ!」


疲労困憊の私を他所に、レイブンはテキパキと野営と食事の準備をする。


…この男、何でも出来るな…


火を起こし、道中で狩った魔獣の肉を焼く。


…ちょっと待て。


魔獣肉(ソレ)、を、食べる…のか…?」


「そうですよ?」


…冗談だろう?




…冗談じゃなかった。


「食べないと保ちませんよ?」


食べたことの無い魔獣肉(にく)に躊躇する私に、レイブンは


「美味しいですよ?」


とても良い笑顔で宣った。




結果から言うと、魔獣肉は美味かった。

いや、私が今まで食べていたどの肉よりも美味かった。


*


そして就寝時。


「私が深夜の見張りをしますので、それまでの見張りをお願いしますね」


「…なっ!?この私に見張りをしろと言うのか!?」


「…私に寝ずに働け、と?」


「当然だろう!?私は王子だぞ!!」


「流石の私も休息を取らずに働くのは無理ですよ。…それとも何か?私を不眠不休で働かせ、私が倒れた後は貴方、野垂れ死にますか?」


「…ぐっ」


「死にたくなければ、さっさと見張りをして私を休ませてください」


「………」


私は渋々見張りをした。



***



森の中でそんな生活を続けること幾日か。

エミリアの手掛りは見つからず、辿り着いたのは隣国アズライトの辺境都市。


この辺境都市を拠点に魔の森の捜索をしてさらに暫くが経った頃、一つの噂が流れてきた。


“この国の第二王子と精霊の愛し子が婚約するらしい”と。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ