14.謁見① sideセイン
ロゼライト公爵夫妻は帰っていった。
フォリは公爵家との養子縁組が済んでいないことと、怪我が治ったとはいえ病み上がりだということで、今暫く砦に留まることになった。
まだ此処に居てくれるのだな…
彼女が側に居てくれることに安堵する。
私は相当彼女に惹かれているのだな。
…ずっと側に居てほしい、と願う程に。
***
記憶喪失の彼女に“フォーリア”という名を与えたこと
彼女に魔術が効かない原因が判ったこと
そしてロゼライト公爵夫人の協力でその原因が解かれ、彼女が精霊の愛し子だと明らかになったこと
その愛し子をロゼライト公爵家が養女にと望んでいること
新たに判明した事柄を両陛下と王太子に報告して暫く…
陛下からの返書が届いた。
“愛し子を連れて国王に謁見するように”と。
*
「フォリ、父から報告の返書がきたのだが…私と共に国王に謁見してほしい」
「…ふぇっ!?」
最近ではすっかり恒例になった、中庭の四阿でのティータイム。
私がフォリに謁見を頼むと、彼女は変な声を出して驚いた。
…可愛い。
「こ、国王陛下に謁見!?…な、なぜでしょう?」
「精霊の愛し子が現れたというのは国に報告する案件だからな。そして、国王と愛し子が正式に会うことで王家と愛し子の繋がりが出来る」
「はぁ…」
「加えて“王家が愛し子の後ろ盾に付いた”と示すことで、貴族たちへの牽制にもなる」
「…そうなのですね」
「後、君へのメリットを言うならば、ロゼライト公爵家が君を養女にする申請をすることかな?ロゼライト公爵家は権力もあるし、この申請は通ると思う」
「本当ですか!?」
「ああ。…もうすぐ君はシオンの義妹になるのだな」
フォリがロゼライト公爵家に入るのならば、私の婚約者としての身分は申し分ない。
ロゼライト公爵家にフォリとの婚約を申し込んでも、シオンは反対しないだろう…多分。
それよりも大きい壁は、ロゼライト公爵。
彼には幼い頃から何一つ追いつけない。
先日も剣の手合せをして負けた。
彼に反対されたら、私の恋は前途多難だな…
***
謁見の日。
今日の謁見に臨むのは、フォリ、私、シオン、ロゼライト公爵夫妻。
女性陣はそれぞれの髪色のドレスを着ていて、とても華やかだ。
「…お時間です」
侍従の言葉と共に謁見の間の扉が開かれる。
私たちは謁見の間へと足を踏み入れた。
謁見の間には父王、母后、兄太子夫妻が居る。
「面を上げよ」
陛下の言葉で姿勢を解き、顔を上げる。
「セイン、シオン、ロゼライト公爵夫妻、久しいな。…息災か?」
「はい。日々任務に励んでおります」
「…同じく。我らも領地の繁栄に励んでおります」
「そうか。それは重畳。…して、そちらの少女が件の愛し子殿か?」
「はい。魔の森で怪我を負っていたところを保護し、治療の甲斐あってこの通り無事に回復いたしました」
「愛し子殿、名は何と申す?」
「フォーリア、と申します」
「フォーリア嬢、そなたは記憶が無いと報告にあったが真か?」
「…はい。私にはグラファイト砦で目覚めるまでの記憶がありません。セイン様とシオン様に魔の森で助けていただいたそうですが、私がなぜ魔の森に居たのかも分からないのです」
「…そのことについてなのですが、陛下、発言をよろしいですか?」
「申してみよ」
「私が発見した時、フォーリア嬢は崖の下に倒れておりました。彼女の怪我が酷かった為、保護を優先しましたが…彼女が落ちたと思われる崖を部下たちに調べさせたところ、崖の上に馬車の轍と二人分の靴の跡が僅かに残っておりました」
「…どういうことだ?」
「あの場所は目的も無く、ましてや女性が一人で行くような場所ではありません。そして崖の上にあった靴跡は、片方は女性のもの…これはフォーリア嬢のものだと思われます。もう一つは男性用の靴の跡。この男性の靴の主が、フォーリア嬢を崖から突き落としたのでは…と考えられます」
「「「………っ!」」」
私の言葉にフォリと公爵夫妻が息を飲む。
「加えて、発見時のフォーリア嬢が着ていたドレスは夜会用…このことからフォーリア嬢は貴族令嬢である可能性が高いのですが…彼女は夜会の途中、もしくは終了直後に連れ出され魔の森に落とされたと考えられます」
「む…ぅ…」
陛下が唸る。
慶事である筈の愛し子の出現に、これだけの事件性があるとは思わなかったのだろう。
「…結論として、フォーリア嬢は何者かに命を狙われている可能性があります」
「………!?」
「フォーリアちゃんっ!」
ガクンっ、とフォリの膝が崩れる。
顔を青くしたフォリを公爵夫人が支える。
…無理もない。普通の少女に命を狙われているという現実は厳しすぎる。
「フォーリア嬢が崖から落とされたと思われる時間帯は夜中…私が彼女を発見したのは夕刻…あのまま誰にも発見されなければ、彼女は助からなかったでしょう…」
「…そんなことが…」
陛下だけでなく、周りに居る母后、兄太子夫妻の顔色も幾分悪い。それはそうだ。少女の身の上に起こって良いことではない。さらに彼女は記憶まで失っている。
「陛下、どうか彼女をお守りください」
そう嘆願し、私は陛下に頭を下げた。




