13.家族会議 sideシオン
母の希望で父もグラファイト砦に呼ぶことになりました。
***
数日後、父が砦に到着しました。
「ディリィ、急に私を呼び出したりしてどうしたんだい?」
「貴方、待っていたわ!この子を見て!!」
母は父が砦に着くや否やフォーリア嬢を父に見せます。
フォーリア嬢は訳も分からず連れて来られたのでしょう。彼女から多少の戸惑いを感じます。
「うん?何だか義妹に似ているな。…髪の色が違うようだが」
「そう!そうなのよ!この子、フェリアにそっくりなの!!」
「…そなた、名は何という?何処から来た?」
「えっ?あ、あの、名前はフォーリアと申します。…何処から来たのかは、私にも分かりません…」
「何処から来たか分からないとは、どういうことだ?」
「父上、母上、少し落ち着きましょう。…先ずは中へ」
「ん?ああ、そうだな」
「ごめんなさい。私も早く貴女にフォーリアちゃんを見せたくて…」
ここでようやく父が砦の中に入りました。
*
「…それで、今日私が呼ばれた理由を知りたいのだが…そこのフォーリア嬢が関係しているのかい?」
砦の応接間。
フォーリア嬢の侍女のミリアが私たちにお茶を出します。
その様子を見ながら父が早速話を切り出しました。
「ええ。私はシオンに相談されて此処に来たの。怪我をした女の子を助けたけど、その子には魔術が効かなくて治癒魔術をかけられない、って」
「魔術が効かない?」
「はい、父上。フォーリア嬢には魔術が効かず不思議に思っていたのですが、殿下が彼女の首元のチョーカーが気になると仰って」
「チョーカー?…今は付けていないようだが?」
「そのチョーカーにこそ吸魔の呪いがかけられていました。殿下と母上の協力でその呪いは解かれましたが」
「そうなの!フォーリアちゃん、呪いを解く前は青い瞳をしていたのだけど、呪いを解いたら瞳の色が緑になったの!フォーリアちゃん、精霊の愛し子だったのよ!」
「…ほう」
「でね、フォーリアちゃんが愛し子だということは陛下にも報告されるでしょう?そうしたら、愛し子を利用しようとする有象無象がフォーリアちゃんに寄って来かねない。でも、公爵家ならフォーリアちゃんを守ってあげられる。…だからフォーリアちゃんを公爵家で引き取りたいの!!」
「…確かに公爵家ならそんな有象無象から守ることは容易いが、なぜ公爵家で引き取るという話になったんだい?彼女にも家族がいるだろう?」
「…父上、フォーリア嬢は記憶を失くしているのです」
「!!何と!?…では何処から来たのか分からない、というのは…」
「はい。彼女は魔の森で酷い怪我を負っているところを殿下と私が助けました。…ですが、彼女が目覚めた時には何も覚えていませんでした。“フォーリア”という名も、殿下がお付けになったのですよ」
「ふーむ…。そういう事情が…」
「貴方お願い!フェリアにそっくりなこの子と離れたくないの!」
「…まあ、待て待て。私たちだけで話を進めてもいかんだろう。フォーリア嬢、妻はこう言っているがそなたはどうしたい?公爵家の子になるのに異存はないか?」
「あの…最初にコーディリア様からお話を聞いた時は驚きましたけど、私を家族にと言ってくださってとても嬉しかったんです。…けれど、先ほど公爵様にお話した通り、私は何処の誰かも分かりません。そんな私が公爵家に入るのはご迷惑ではないかと…」
「ふむ。シオンはどうだ?」
「私は母上の考えに賛成ですし、異存はありません。何処の誰か分からないなんて、今のフォーリア嬢を見ていたら些細な事ですし。それにこんなに可愛い義妹が出来るなら、私は嬉しいですよ」
「そうか、わかった。…私はフォーリア嬢とは会ったばかりだが、受け答えもしっかりしているし、所作も綺麗だ。我らに害を成すようには見えぬ。…何より二人が既に彼女を受け入れているようだしな。私もフォーリア嬢を公爵家に入れるのは構わんよ」
「…!!貴方、ありがとう!」
「では、フォーリア嬢。私たちの娘に、我らの家族になってくれるかな?」
「私でいいんですか…?」
「フォーリアちゃんがいいの!」
「…ありがとうございます。よろしくお願いします」
…こうしてフォーリア嬢はロゼライト公爵家に迎えられることになりました。
*
「…どうだった?」
「母の勝ちです。後は…フォーリア嬢の人柄でしょうか」
「そうか。では私からもロゼライト公爵家が愛し子を養女に希望していると陛下に伝えておこう」
「ありがとうございます」
殿下の執務室にて。
私は家族会議の報告をしています。
公爵家の話し合いだから、と殿下は席を外してくださいました。
「後ほど父が挨拶に伺うと申しておりました」
「わかった。…公爵に会うのも久しぶりだな」
「父も殿下に会えるのを楽しみにしてますよ」
「ふっ、剣の手合せでも申し込むか」
「それは父が喜びますね」
殿下の言葉を聞きながら、父に扱かれ共に修行に励んだあの頃を思い出しました。




