11.ロゼライト公爵家 sideセイン
「治癒」
公爵夫人が治癒をかけると、フォリの怪我があっという間に治っていく。
今までの治療期間を思うと少しモヤッとするが、フォリの怪我が完治するのは良いことだ。
怪我の痛みに苛まれることが無くなるからな。
そんな事を思いながら二人の様子を眺めていると
「…ねぇ、シオン。…フォーリアちゃんを公爵家で引き取ってもいいかしら?」
公爵夫人が突然そのような事を言い出した。
「母上?急にどうしたのです?」
「誰がどうしてフォーリアちゃんに呪いをかけたのかはわからないけれど…今日、呪いが解けて、フォーリアちゃんが精霊の愛し子だと明らかになったわ。この事は陛下に報告されるでしょう?…そうしたら社交界の有象無象が愛し子を…フォーリアちゃんを利用しようと集ってくるかもしれない。でも、公爵家の子になればフォーリアちゃんを守ってあげられる。…何より私が、フェリアに似たこの子と離れたくないの」
「…そうですね。今のフォーリア嬢には何の後ろ盾も無い。そんな状態で社交界に放り込まれるのは危険です。母上のその考えには賛成ですし、私も可愛い義妹が出来ることには吝かではありませんが…公爵家当主に黙って決める訳には…」
「説得するわ!!…殿下、夫をこの地に呼ぶことをお許しいただけますか?夫にもフォーリアちゃんに会ってもらって話をしたいと思います!」
「…あ、ああ。構わない。公爵が来るまでの間、良ければ夫人も此処に滞在するといい。客間を用意しよう」
私は夫人の勢いに若干押されながら返事をする。
「本当ですか!?殿下、ありがとうございます!…フォーリアちゃん、急な話だけど…公爵家の子になることを考えてもらえないかしら?」
夫人はフォリの両手を握ってそう問うた。
…ロゼライト公爵家は我が王家、アズライト家と祖を同じくする家系だ。家名が似ているのもそれが影響しているという。
当代での血の繋がりは少々薄いが、過去何度か王家からロゼライト家に降嫁した者がいるはずだ。
ロゼライト領は王都のある王領の東隣に位置し、魔の森に対する王都の防衛の一端を担っている。
公爵家が所有するロゼライト騎士団の練度も高い。
領地自体は自然に恵まれ、流通も盛んで、住み良い地だと評判だ。
フォリがロゼライト公爵令嬢となって住むにはとても良い環境だろう。
豊かな自然は彼女の心と体を癒すだろうし、辺境に居るよりは身の危険も少ない。
彼女の為を思うなら、私もロゼライト公爵家に入ることを勧めた方が良いと分かっている。
…だが…離れ難いな…
「…っ!」
一瞬浮かんだ自身の気持ちに動揺する。
彼女の傍は居心地がいい。
私とシオンの身分を知って気絶するくらい驚いたくせに、だからといって媚びてくる訳でも何かを強請ってくる訳でも無い。
ただ傍に居て、他愛ない話をする…それだけでなんと幸せなことか。
…ああ、私は彼女に惹かれているのか。
心の中に答えがストンと落ちてくる。
自分の想いを自覚し、火照った顔を隠すため私は片手で顔を覆った。
***
フォリが精霊の愛し子と分かってから数日後、待ち人がやって来た。
背が高く、精悍な顔つきで銀髪銀瞳の武人然とした男。
彼こそがグレン・ロゼライト公爵、その人である。




