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10.応報 sideドロシア

「ドロシア様、愛し子は貴女ではなくエミリア様だというのは本当ですか?」


お父様が去ってから少しして、レイブンが私の部屋にやってきた。


「…何を言っているの?愛し子は私よ。どうしてそんなことを聞くのよ?」


「邸の者たちが噂をしているのですよ。ドロシア様は偽物で本当の愛し子はエミリア様だ、と」


「そ、その噂は嘘よ!私こそが愛し子だわ!…だって私はこの国で一番の魔力を持っているんだもの!」


「…エミリア様が愛し子であることを、旦那様が認めたと皆は言っておりますが?」


嫌よ!信じない!

私が姉に劣るだなんて。

私の方が魔力無しだなんて。


「私が愛し子だと言っているのだから、信じなさいよ!貴方は私の従者でしょう!?」


「私は愛し子の従者であって、貴女個人の従者ではありません。噂が本当ならば、私が貴女に従う理由もありません」


「…お父様も貴方も、なんでそんなに愛し子に拘るの…?」


「愛し子に拘っているのは貴女も同じだと思いますが…そうですね、私は昔、愛し子の奇跡を目の当たりにしたことがあるのですよ」


「愛し子の、奇跡…?」


「ええ。私が幼い頃、バドム領は豊かではありませんでした。私の生家も貧しく…それにこの黒髪黒瞳(いろ)。私は早々に口減らしの対象になりました」


「口減らし…?」


「お嬢様育ちの貴女には分かりませんか?家族の食い扶持を増やすために、役に立たない者や要らない者を捨てるのですよ。…私もさっさと捨てられましてね、生きるのに必死でした。荒れた土地の僅かな食料…私と同じように捨てられた者たちが、それを奪い合うのです」


「………」


「その結果、増々土地は荒れ食料も減り…いよいよ枯れ果てようかとしていた矢先、突如バドム領が緑溢れる大地に生まれ変わりました。その光景を目の当たりにした私でさえ信じられなかった…しかしその奇跡が私を生きながらえさせてくれたのです。後に、それが愛し子のおかげであると知った時、私は愛し子のために生きることを決めました」


「…貴方が私に従っていたのは、私が愛し子だからなの?私に忠誠を誓っているからではないの?」


「私が忠誠を誓っているのは“精霊の愛し子”です。貴女個人に忠誠を誓っている訳ではありません。加えて言わせていただくと、“愛し子はドロシア様だと思っていた”から貴女に従っていたのです。…先ほども言ったように、貴女が愛し子でないのならば私は貴女にお仕えする気はありません。これにてお暇させていただきます。…さようなら、ドロシア様」


レイブンは私に一方的に別れを告げると、くるりと踵を返し迷うことなく歩き出す。


「ちょっ…待ちなさいよー!!」


私の声を無視して、レイブンも去っていった。



***



「ドロシア・バドム嬢。王族への偽証罪で捕縛命令が出ています」


レイブンが去った数日後、今度は邸に数人の兵士たちが乗り込んできた。


「はぁ!?偽証罪ってどういうことよ!?」


「貴女は精霊の愛し子だと偽り、王子殿下を騙しましたね?」


「偽ってないわ!私が愛し子よ!ちょっと、離しなさいよ!!」


私は抵抗するも、兵士は容赦なく私を拘束する。


「何事だ?」


「お父様、助けて!」


「バドム侯爵。ご息女は王族を騙した疑いがあるので、連行させていただきます」


「…何のことだろうか?」


「ご息女は精霊の愛し子を騙り、スヴェン殿下を騙していたのです。ドロシア嬢は偽物で本当の愛し子はエミリア嬢である、と先ほど国王陛下が証言なさいました」


「王が!?………バラしたのか、チッ」


「…貴方もエミリア嬢が本物であると知っていたようですね。…ご同行願えますか?」


「…くっ」


お父様は僅かに顔を顰めたが、抵抗することなく兵士に同行する。


…どうして?

お父様、助けてくれないの?


こうして私たちは王城に連れて行かれた。


*


城に着くと私は牢へ入れられた。


みすぼらしい服に着替えさせられ、魔力封じの枷を両手に付けられ、出される食事は粗末なもの。


あとは牢の前に看守が二人いるだけ。


どうして私がこんな目に…

愛し子は私よ!私は誰も騙してなんかいないわ!


何度訴えても私の言い分が聞き入れられることはなかった。



***



牢に入れられて暫くが経ち…惨めな現状に疲れ果ててきた頃、それは起こった。


ピシ


「……………?」


ピシッ


「…何の音?」


ピシッ……パキィィィン


「…きゃっ!」


ガチャンっ


チョーカーの石が砕け散った途端、私の両手に嵌められていた枷が外れた。


「!?おいおいっ、魔力封じの枷が外れたぞ!?」


「…えっ?これ、付けてるやつの魔力を使って封じる枷だぜ?魔力がある限り勝手には外れないはずだ」


「…ってことは、こいつの魔力が無くなったってことか?」


「…とにかく上に報告だ!」


看守の一人が走り去って行く。


二人の会話を聞いていた私は、冷たい床の上に膝を付き、頭を抱えた。


「いやぁぁぁぁっっっ!!!」


とうとう魔力と、自分が愛し子であるという心の支えを、失ったのだ。



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