夕暮れの公園
家の近くの公園まで来た私は、ブランコに乗ってぼんやりしていた。
スマホのnyain通知が鳴り、ポケットからスマホを出して確認。
"きぬちゃん、大丈夫だった?
今日は久しぶりにきぬちゃんと話せて嬉しかったよ
また会える日を楽しみにしてるね!
無理しないで、またしんどくなったらいつでも言ってね。"
「…天使なの?」
幻覚を見た挙句、脱糞しそうになりにわかに走り出す友達にこの対応。
ひかり様…フォーエバーラブ。
「…絹代殿」
声のする方へ顔を上げた。
平安貴族の青年が心配そうにこちらを見下ろしていた。
「…私、頭おかしくなったのかな?」
誰に言うでもなく呟いてみた。
「いや、絹代さんの頭はおかしくなってないよ」
平安貴族の青年の隣に、さっき私にkissをしようとした不審者がふっと姿を現した。
この登場の仕方にも慣れて来た自分がこわい。
「俺は、五十嵐師走。乙女ゲームから現実世界に飛び出して来たんだ」
…はい?
「ゲームの設定上、見境なく若い女性にあんな風に言ってしまうんだ…」
頭を抱え込む五十嵐師走という人物。
いや、ただの不審者じゃねーか。
「絹代殿、師走は優しい男。この世界にやって来た我に、現代の言葉や風習を教えてくれたのです。」
ふぅん。あの奇々怪々な自己紹介も、現代の風習として教えてもらったのか…。
絶対違うんだけど!
「俺は…自ら望んでこの世界に来たわけじゃないんだ。」
「…じゃあ、どうして?」
「姫、師走は現代人の"まじない"によってこの世界に飛び出して来たんです。」
まじない?
「でも、"まじない"は失敗すると恐ろしい事になるんだ…」
五十嵐師走は目を見開き、額から汗を一筋垂らす。
「そうだ、俺君に謝りに来たんだ。さっきは嫌な気持ちにさせて、ごめんなさい。」
ガラケーのように身体をペコっと折りたたんだ五十嵐師走。
意外と身体は柔らかいみたいだ。
「絹代殿…どうか、師走をご容赦ください」
震えながら勢いよく土下座する平安時代の青年。
どんだけ怯えられているんだ、私。
「別に…謝ってくれたならいいよ」
「…本当に!?」
五十嵐師走は嬉しそうに顔を上げた。
「ありがとう!」
急に手を取られて、驚いた。
土下座していた平安貴族ははっと顔を上げ、
いまいましげに師走を見て歯を食いしばっていた。
「あ、ごめんね。」
師走は気まづそうに手を放し、頭をポリポリ掻いた。
「いえ、大丈夫です」
彼のすぐ後ろでは、平安貴族が鬼の形相で刀に手を掛けている。
「じゃあ、俺行くね」
そう言って哀しそうな笑みを浮かべ、彼は目の前から消えた。
「え!?」
行くって…どこへ?
「どこ行っちゃったのー!?」
見えなくなって辺りに呼びかけると、いきなり目の前にしわしわおじいちゃんが現れた。
「寝床に帰ったのですじゃ!!!」
「うるせぇぇ!!!」
鼓膜を爆破する気か。
思いっきりおじいちゃんにビンタした。
とっさに手が出る自分が怖い。
しかも、他の人には"見えない"のに"触れる"って何なの、私。
どうなってるの私。
「じいやーーーー!!」
平安貴族がおじいちゃんに駆け寄って抱き上げている間に、走って家に帰った。