不審者と平安貴族の青年と私
「ぎぃぃぃぃぃぃ嫌やああああああああ!!!!!」
私はかつてこれほどの悲鳴を上げた事はない。
昔ゴキブリを素足で踏みつぶしてしまった時も
こんな声はでなかった。
背後では女子高生たちが騒いでいるのが聞こえた。
「出たわ!五十嵐師走いがらししわすを真似た変質者!!」
「服装も髪型も登場の仕方も
全く同じだけどものスゲーブ男よ!?」
「コラァァァァァ!!」
警察官がこちらに向かって走って来た。
男は「チッ」と言うと、スッと消えた。
「…?」
警察官が私の目の前で目を丸くしている。
周りもざわつき始めた。
放心状態だったが、上空に先ほどの不審者が浮いていた。
のんきな顔をしてあぐらをかいている。
「あーーーーー!!!」
不審者が居る上空を指さし、叫んだ。
「え?」
宙に浮かんでいる不審者が驚いたような顔をした。
警察官が素早く私が指さした方向へ振り返る。
しばらくじっと見ていたが、
「何もいないじゃないか」
と言った。
「確かにあそこに浮いてー」
と、ここでさらに信じられない光景を目撃した。
さっきまでどこかに消えていた平安貴族の青年が現れた。
不審者の男に向かって手を軽く上げると、男も顔をほころばせて
手を上げた。
そして、2人は固い握手を交わし、抱き合った。
"あいつら、知り合いなの…?"
食い入るように上空を眺めていると、警察官から声を掛けられた。
「君、大丈夫か?」
「きぬちゃん…」
いつの間にかひかりが隣に来ていた。
どうやら、今宙に浮かぶ男は私にしか見えていないらしい。




