絹代のピンチ
ひかりと私はお会計を済ませ、外に出た。
「今日はほんとにいい天気だねー」
背伸びしながらあくびをした。
日差しが強くて、顔をしかめた。
「いい天気だね。次、どこ行く?」
「いつものコースで行こうか」
「はーい、ブンタだね?」
ひかりと私はブンタに向かうべく、北へ向かった。
平安貴族の青年は見当たらない。
どこかへ行ったのだろう。
ほっ。
これで心置きなく、ひかりと遊べる。
ブンタとは、K市内にある雑貨屋さんである。
ショッピングモールでも見かける事があるが、
この『つばめカフェ』から近いので
特に何か買うわけでもないのだが、
私たちはいつもここを訪れる。
「ブンタって見てるだけで満足するよね」
「うんうん、かわいい雑貨やおしゃれな雑貨いっぱいだもんね」
歩いて3分ほど経った時だった。
「何、この人混みは…?警察の人も居る。」
「あ、そうそう。このお店の前ね。来る時に通ったんだけど、
人がいっぱいで。…来る時よりかは人少ないけど、まだ
人が居るね。」
『餃子の金将』の前に人混みができていた。
お店に入るために並んでいるわけではなさそうだ。
おばちゃんやら10代の女子高生が騒いでいる。
「なんか、事件か事故が起こったのかな?」
人混みのせいで、歩道は人1人しか通れなくなっていた。
ひかりは私の後ろに回って歩いた。
すぐ前に居た女子高生3人の会話が聞こえてきた。
「今日ここで3人目だって!」
「乙女(恋愛シュミレーション)ゲーム『季節なカレシ』の
キャラ、五十嵐師走いがらししわすの登場シーンを真似た不審者でしょ?」
「あのシーンの真似ってやばくね!?」
「ヤバイ、まじでヤバイ」
「さっきこのお店の店員さんが被害に遭ったんだって」
「え!?ってかヤバくね!?まじヤバくね!?」
響き渡る甲高い女子高生の声に
"どんな登場シーンなんだ…"と気になりながら
人混みから抜けられそうになったその時。
強い、耳鳴りがした。
そして一陣の強い風が吹いた。
前髪が吹き上げられ、とっさに目を閉じた。
すぐに目を開くと、そこには。
20代前半の若者の顔。
男性の顔はお世辞にもイケメンとは言えない。
目は細く、目の下の肉に押し上げられて両目が吊り上がって見える。
鼻先は上を向き、鼻の穴がこちらに向かって開いている。
顔色も悪く、ずず黒い。
中国の豚のお人形のような顔だ。
さらに鼻の穴からは2、3本鼻毛が「コンニチハ」と手を振っていた。
毛関連で言うと、左目下の涙ぼくろに1本、細長い毛が生えている。
もっと言うとヒゲがとても濃く、耳から下が青い。
髪型は黒髪短髪のオールバックで中々キマっているが、
それがより一層、顔面とのギャップを引き立たせた。
そんな男が両手で私の頭を固定し、いきなり目の前に現れた。
「お前」
「え?」
「お前、今から俺の彼女な。」
は?
「お前に拒否権は、ないから…」
そう言って私の頭を引き寄せ、
唇を寄せてきた。